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2011 Rd.15 日本GP観戦記

▽    なぜセバスチャン・ベッテルは敗れたのか! 鈴鹿では絶対有利で、優勝間違いないと思われていたレッドブルのベッテルが敗れた。なぜ彼らは敗れたのだろうか。 彼らの躓きは、FP1でベッテルが集中力を欠き、デグナーでのクラッシュしたことから始まった。ベッテルは大きなダメージを与えることなく、マシンを止めることには成功するが、フロントウィングを破損してしまう。 大きな問題はなさそうだったのだが、実は彼が壊したのは新型フロント・ウィングで、このウィングは日本GPにはマークの分も含めて2セットしか持ち込んでいなかった。 その為に、ベッテルはFP2、FP3と旧型のフロント・ウィングで走らざるを得なかった。 急遽、チームは韓国GPに持ち込むために製作していたスペアの新型フロント・ウィングを手荷物でロンドンから名古屋へ持ち込み、名古屋から鈴鹿まではヘリコプターで搬送し、予選30分前に到着するという離れ業を披露した。 その予選で、マクラーレンは、レッドブルをパフォーマンスで上回っていて、普通であればバトンかハミルトンがポールポジション(以下PPと略)をとっておかしくなかったのだが、今回のベッテルは違った。 ベッテルの最後のアタックは鬼気迫るものがあり、あらゆるコーナーでコース幅ぎりぎりを使う彼の走りは今シーズン最高の走りで、最も価値のあるPPとなった。  だからこのPPはベッテルの個人技で獲得したといえるのだが、このフロント・ウィングがなければ、PPはとることができなかっただろう。なぜなら2位のバトンとの差はわずかに0.009秒差だったからだ。 予選・決勝を通じて彼らは、ダウンフォースを減らしたセットアップを選択していた。 それは、本来彼らが得意とするはずのセクター1で常にバトンにタイム的に劣っていたことからわかる。さらにベッテルのトップスピードは全体で4番手。バトンは15位で、二人の差は約10kmある。 通常、鈴鹿はダウンフォースを付けるのがセオリーである。 実際彼らは過去2年間、そうして勝ってきた。 FP3で、ベッテルは無線でリアがルーズであることを訴えていた。これは今までのレッドブルでは考えられないことだ。 なぜそうなってしまったのか。 まず考えられるのがタイヤだ。レッドブルはフリー走行後、ピレリとタイヤの件で厳しい議論をしていた。詳細な内容は不明なのだが、おそらくブリスターか、 タイヤの感触の件だろう。フリー走行終了後、ベッテルはタイヤが思ったように動いてくれないとこぼしていた。これは鈴鹿の路面、特に東コースの路面グリッ プがよすぎるのと、レッドブルのS字の通過スピードが高すぎるので、タイヤがよれてしまい、ベッテルの感触とは違う動きをしてしまうのだろう。これは今年 からピレリタイヤに変わったことによる大きな影響だ。だから、彼らはダウンフォースを減らしてセクター1でのスピードを落とさざるを得なかったことが考え られる。 二つの目の理由は、ベッテルは今回1ポイントをとればチャンピオンが決まる。だから予選や決勝のスタートで失敗して、後方から追い上げる場合、オーバーテイ クがしやすいように、ダウンフォースを減らして、トップスピードを稼ぐ戦術をとったことが考えられる。そうすれば例え優勝ができなくても、ポイントを得ることが可能になる。 予選でPPを取り、スタートでトップに立てば、有利なトップスピードを生かして、追い抜きを許さずに、逃げ切ることも可能だ。 もう一つ考えられるのは、フリー走行で新しいフロント・ウィングを付けて走る距離が短かったので、バランスのいいセットアップが見つかれなかったのかもしれない。 理由はともかく(個人的は二つの目の理由だと思っている)、ベッテルがダウンフォースを減らしたセットアップを選択したことは間違いがなく、それがレースの展開に大きな影響を及ぼすことになる。 スタートでバトンを厳しくブロックしたベッテルは、トップを維持してレースの主導権を得た。ところがダウンフォースの少ないベッテルのマシンは、グリップが少なくタイヤの摩耗が厳しかった。ベッテルのピットインのタイミングは戦術ではなく、タイヤの寿命で決められたものだろう。でなければ3回目のストップ直後、遅いマシンの後ろに戻すはずがない。 ベッテルのタイヤは厳しく彼のタイヤ交換は常にバトンやアロンソより早いタイミングだった。彼はライバルに比べてタイムの落ちるのが常に1周から3周ほど 早く、彼のインラップは1.5秒ほどライバルに比べて遅い。つまりベッテルはピレリタイヤの寿命が尽きてから、いわゆる崖に突入してからタイヤ交換をして いたことになる。一方のバトンとアロンソは崖の前にタイヤ交換をしていた。これがタイヤ交換時にベッテルがポジションを失った原因である。 アロンソの対してはSCでマージンを失った上に、先にタイヤ交換したベッテルは同一ラップの遅いマシンに引っかかりタイムを大きくロス。その間、順調にタイムを刻んでいたアロンソは3回目のタイヤ交換でベッテルを逆転した。 日本GPに勝つと言うことでは、ベッテルのとったセットアップは失敗だったと言えよう。だがマシンというのは様々な制約の中でセットアップを選択しなければならない訳であり、チャンピオンを取りに来たレッドブルにとっては3位でチャンピオンを決められたので、これは想定内の結果だったのだと思う。 ▽    急に速くなったマクラーレン 鈴鹿はダウンフォースが絶対的に必要なサーキットであり、レッドブルが有利なはずだった。だがマクラーレンは大きなウィングでダウンフォースを付けること により、思い切ってトップスピードをあきらめた。予選で上位に付けてリードを奪えば、鈴鹿は抜くのが難しいサーキットなので、押さえ込めると判断したのだ ろう。 DRSゾーンがホームストレートだけだったのも、この判断に影響を与えている。鈴鹿のホームストレートは短いので、トラクションがかかればDRSを使われても追い抜くのは難しいことが予想されたし、実際にそうだった。 そうしてバトンは予選でPPをほぼ手中に収めていたのだが、ベッテルのスーパーラップにより、手にしていたPPを失ったしまった。 だからもしベッテルのタイヤがこんなに早くたれなければ、バトンがベッテルを抜くのは難しかっただろう。逆にバトンがスタートでベッテルの前に出ていれば、逃げることは可能だった。それがわかっていたからベッテルはスタート直後に、バトンに対いて厳しく閉めたのだ。 タイヤをうまく持たせながらベッテルを追ったバトンは2回目のタイヤ交換時に逆転に成功。そのまま逃げ切り簡単に優勝すると思われた。しかしもう一人のダブル・ワールドチャンピオンがバトンを厳しく追い詰めるとは誰も予想できなかった。 ▽    アロンソの真価 明らかにダウンフォースの不足しているフェラーリが鈴鹿で表彰台に上るには、レッドブルとマクラーレンの自滅を待つしかなかった。どうがんばっても3位がやっとというのが現実だった。ところがアロンソは多少の幸運はあったが、2位を獲得し、バトンを最後まで苦しめた。 バトンはレース終盤、燃料が厳しくタイムを落とさざるを得なかった。鈴鹿はフューエル・エフェクトが大きいので、燃料搭載量をぎりぎり少なくしたいし、メ ルセデスのエンジンは燃費が悪い。もちろん彼はそれらを想定した上で、燃料搭載量を計算するのだが、厳しいバトルの中で、予想以上に燃料を消費してしまっ たのだろう。 アロンソがベッテルを抜いた時には、ベッテルがアウトラップで遅いクルマに引っかかってタイムロスもしたし、SCが入ったことによりベッテルとの差がなくなる幸運もあった。 だがそれでもアロンソが2位になれたのは、彼がタイヤをいたわりながらいいペースを持続したからである。彼はプッシュしなくても3位が得られるポジション だったが、それでもアロンソは起こるか起こらないかわからない可能性にかけて、集中したドライビングを続けたからこそ彼は2位を獲得できたのである。それ がベッテルのトラフィック(同一周回だったので正確な表現ではないかもしれないが)であり、バトンの燃料不足のであった。これは文字にするのは簡単だが、 簡単なことではない。これができるからこそアロンソはF1の中でも特別な存在でいられるのだ。 最後の2周で燃料が持つことを確認したバトンは、プッシュしてアロンソを引きはして優勝したが、バトンの燃料が厳しければアロンソの逆転優勝もあった日本GPだった。 「フェルナンド・アロンソ」の真価を再び認識させられたGPであった。 ▽    かみ合わないハミルトン 速さはあったし、Q3二回目のアタックに出られればPPも実現可能だったハミルトンだったが、ミハエル・シューマッハーと絡んで二回目のアタックができず3位スタート。決勝レースではタイヤのタレが大きく常に早め早めのタイヤ交換を強いられた。 タイヤのパンクも痛かった。当初はパンクと気づかずにピットインしたので、セットアップを修正したら、バランスが崩れてしまったのだ。 そしてまたまたマッサとの接触もあった。これはハミルトンがベルギーの時の可夢偉との接触と同じで、アウトサイドを全く見ていないで、シケインにアプローチしていたのが原因。マッサに関して言えば、逃げるスペースがなく全くの被害者であった。 今回もタイヤのパンクや予選Q3二回目のアタックができないなど、不運な面はあるのだが、どうも歯車がかみ合わないハミルトン。 彼にとって、今は悪循環にはまっているのだが、F1デビュー直後から順調に来ていただけにいい経験になるのではないだろうか。普通のドライバーは弱小もし くは中堅チームからデビューするので、その間にいろいろと難しい時期の過ごし方を覚えるのだが、ルイスにはその期間がなかった。だからこの困難な時期を乗 り越えられれば、ルイス・ハミルトンはさらに成長し進化するだろう。 ただ今のハミルトンに苦言を呈してくれる人がいるのかが心配である。彼はエンターテイメント系のマネージメント会社と契約している。以前は父ハミルトンがいたので、アドバイスすることができたが、今のルイスにはいない。そう考えると今の不調は少し長引きそうである。 ▽    予選で見せた可夢偉 可夢偉は金曜日から苦しみ続けていた。 新しいパーツを持ち込んだののはいいのだが、マシンのバランスが崩れてしまい、いい走りができない。FP2では130Rでスピン。あわや大クラッシュでマシンを全損しかねなかったが、可夢偉はなんとかマシンを立て直してみせた。 金曜日の夜、シーズン中に4回認められている、深夜作業をし、セットアップを変更したザウバーだが、それでもFP3でのバランスはあまりよくなかった。そ して予選を前にしてセットアップを変更してやっと走れるマシンになった。Q1を一位のタイムで突破した、可夢偉はQ2でも素晴らしい走りをみせQ3進出を 決めた。 この結果は今のザウバーを考えるとPPに値する素晴らしい結果だった。 これで普通であればQ3は走らないはずだったがQ3開始直後に、たくさん来てくれた土曜日のファンに対してアウトラップに登場した可夢偉。ところが可夢偉 はそのままスタートラインを通過してアタックラップに突入してしまう。だが、明らかにスピードは遅く本気でアタックしていないことは明らかだった。そして そのままピットに向かい、予定通りノータイムにして、決勝スタートでのタイヤ選択を可能にした。 ところが予選終了後に大きなサプライズが発覚。可夢偉が7位からスタートすることになった。今回Q3でノータイムだったのは可夢偉を含めて4人。 この場合、スタートの順番に関しては、下記の規定により決められる。 1. アタックラップを開始して予選タイムを記録しようとしたドライバー 2. ピットを離れたが、アタックラップを開始しなかったドライバー 3. 時間中にピットを離れなかったドライバー 1が一番優先で2、3と優先順位が落ちていく。 可夢偉は2周したのでアタックラップに突入したと見なされた。 ミハエル・シューマッハーはアウトラップには出たが、時間切れでアタックラップに突入できなかったので、2番に該当する。ルノーの二台はピットから離れなかったので3番となる。 その為、決勝のスタート順位は7位可夢偉、8位シューマッハー、9位 セナ、10位ペトロフとなった。 ちなみに同じ条件の場合、1と2の場合は先に実行しようとした順番で3の場合はカーナンバーの順番となる。 どうもザウバーはこのルールを熟知していて、うまく利用したようだ。 最近、作戦面で上手くなかったザウバーとしては、機転の利いたいい判断だった。 だが決勝レースではうまくいかなかった。 スタートはエンジニアが予想した以上にグリップがよく、可夢偉がクラッチレバーを話した瞬間、ストール寸前になり大きく出遅れた。だが、これに関しては可夢偉の責任は大きくない。あくまでもクラッチのバイトポイントの設定ミスである。 スタートからオプションで攻めた可夢偉だったが、チームはなぜかSC中のストップでプライムを選択。そのまま最後まで走らせる作戦だったが30周近くをプ ライムで走らせるのは難しく、残りの10周は全く競争力がなく、ずるずると順位を下げてしまった。最初からソフトタイヤで攻めていたのだから、最後までソ フトでつないで、最後にプライムにしてもよかったと思うのだが。日本GPでもザウバーの作戦はかみ合わなかった。 ただタイヤの選択ミスがなくても、去年のように可夢偉がヘアピンでオーバーテイク連発は難しかっただろう。というのもザウバーにはブロウン・ディヒューザーがなく、ハードブレーキング時のリアの安定性を欠くからだ。 決勝での結果は、残念だったが予選Q2での素晴らしい走りは素晴らしく、マシンのパフォーマンスは上がっているので、韓国GPに期待したい。

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