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ハミルトンがウルトラソフトを選んだ理由 世にも不思議なモナコGP

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M29313-monacoGP2016 誰もが息を飲み、驚いた。モナコGPの31周目。ピットインしたハミルトンが装置したタイヤは、まさかのウルトラソフトだった。 残りは47周もあり、これは練習走行でもっとも走ったドライバーの2倍もある距離である。 そもそもドライレースの場合、ウルトラソフトでスタートするドライバーのタイヤ交換時期はおよそ18周前後とみられていた。 もちろん燃料満載のスタート時と約半分の燃料を消費したレース後半ではタイヤの消耗が全く違うことは当然である。だが18周の倍の距離が走ることができたとしても、36周でありフィニッシュにはまだ10周以上足りなかった。路面のラバーは完全に流されており、これはタイヤに厳しい条件である。 さすがにこれには驚いた。だがメルセデスにはひとつの思惑があった。それはリカルドとのトップ争いである。 ハミルトンは最初のスティントをウェットタイヤで走りきった。普通は路面が乾いてきたら、インターミディエイトに交換して、路面が完全に乾いたらドライタイヤに交換するのがセオリーである。 だがウェットタイヤでのペースがいいのと、ハミルトンのフィーリングもよかったので、そのまま走らせることにした。 これは今年初めてウェットタイヤで長距離走ることを考えると、かなりのギャンブルである。 しかも今年のロシアGPからウェットタイヤの仕様が変わっている。乾いてくる路面での反応が見えないウェットタイヤでのギャンブルは、ハミルトンからの正確なフィードバックと冷静なメルセデスの判断によるものである。だからこそこの決断はもっと評価されてもいい。 3位以下のドライバーがすでにタイヤ交換済みで30秒も離れていて、もしハミルトンがインターミディエイトにタイヤ交換が必要な場合でも2位のポジションは保証されていたことも彼らを後押しした。 そして彼らの作戦は成功した。彼らはドライタイヤに交換したドライバーが出てきたのを確認して、ハミルトンをピットインさせた。 だがここで問題がひとつあった。この時2位のリカルドは、ハミルトンのすぐ後ろの位置にいた。 もしリカルドがハミルトンの次のラップでタイヤ交換した場合、ピットレース出口で接戦となる可能性が高かった。 そこでメルセデスはもっともタイヤの温まりが早い(と考えられていた)ウルトラソフトを選んだ。新品のウルトラソフトを履いてアウトラップでタイムを稼いでリカルドを抑える作戦だ。だが結果的にいうとハミルトンのアウトラップはリカルドのインラップより8秒も遅かった。ハミルトンもこのタイヤ交換は1周早かったと認めている。メルセデスのこの作戦は失敗したかに見えた。 リカルドが普通にタイヤ交換すれば、ゲームは終わるはずだった。だが奇跡は起こった。 リカルドにソフトタイヤを装着する予定だったレッドブルが、メルセデスがハミルトンにウルトラソフトを選んだことにより、リカルドの交換するタイヤをスーバーソフトに変更したのである。 これはいくらなんでも残り47周をウルトラソフトで走り切るのはリスクが高いと判断したからである。だからウルトラソフトより少し硬いが、タイヤの温まりがソフトよりもいい(と考えられていた)スーバーソフトに変更して、ハミルトンに対抗しようと考えた。 だがこの変更により、レッドブルのピットが大混乱に陥り、リカルドが勝利を逃したのはご存知の通りである。 関連記事:レッドブルのタイヤ種類の変更は正しかったのか? メルセデスのこのタイヤ選択には、雨が再び降るという天気予報の影響もあったと思われる。当時は残り7周前後で雨が降ると思われていた。 またモナコGPはセーフティカーの出る可能性も高く、その場合タイヤを温存できるし、トップにさえなれば、抜かれる心配がないモナコではかなりペースを落としてもポジションを失う心配はなかった。この場合もハミルトンはタイヤが温存でき、フィニッシュできる可能性が高くなる。 関連記事:ハミルトン 偶然でない必然の勝利 ではハミルトンがソフトタイヤに交換していた場合、リカルドに逆転されていたのであろうか。 これも結論から言えば、全く問題がなかった。3位になったペレスは、ハミルトンの1周前にソフトタイヤに交換した。4位のベッテルはそれに反応して次の周にソフトタイヤに交換したが逆転できなかった。 理由はペレスのアウトラップがリードを守るのに十分な速さがあったからである。つまりソフトタイヤのウォームアップは問題なかったのである。そしてタイヤのたれの心配もまったくなかった。このレースでのベストタイヤはソフトタイヤだったのである。 もしメルセデスがこのことを理解していたら、彼らはリスキーなウルトラソフトを選ばなかっただろう。メルセデスがハミルトンの言うようにもう一周タイヤ交換を遅らせていてれば、ペレスのラップタイムを見て、ソフトタイヤに交換していたかもしれない。そしてもしメルセデスがハミルトンにソフトを選択していれば、予定通りレッドブルもリカルドにソフトをはかせていたに違いない。 そうした場合、リカルドがこのレースのウィナーになっていただろう。 勝つには勝ったハミルトンだったが、レース後半がメルセデスの楽勝だったかというと、そうではなかった。ハミルトンはリカルドに猛攻をうけ、シケインでコースオフして、あわやペナルティを受けるところだった。 それにハミルトンのウルトラソフトタイヤもギリギリだった。同じ周にタイヤ交換した、チームメイトのロズベルクは最後の一周でタイヤがぼろぼろになり崖を転がり落ちて、ニコ ヒュルケンベルグに抜かれてしまった。 ではハミルトンはタイヤに優しく、ロズベルクは厳しかったのか?恐らくそうではない。2人の差はロズベルクが3周走った中古のウルトラソフトを履いていたのに対して、ハミルトンは新品のウルトラソフトを履いていた。これは彼がQ3で燃圧のトラブルで一回しかアタックできなかったからである。 もしハミルトンが予選のトラブルがなく、ニコと同じく2回アタックしていれば彼も中古のウルトラソフトを履いていたわけで、その場合ハミルトンも最終ラップでタイヤの崖をむかえて、リカルドに逆転されていたかもしれない。 世にも不思議なモナコGPの幕はこうしておりたのである。