F1 ニュース&コラム Passion

それでもベッテルは速かった

今シーズンのレースは面白い。普通であれば、スタートで勝負が決まることが多いモナコGPであるが、今年のレースは違っていた。コース上のオーバーテイクはいつものように多くはなかったが、順位の変動はとても興味深かった。

レース前の予想では、ウルトラソフト、スーパーソフトの両タイヤともレース距離を走りきれると見られていた。だからタイヤ交換の時期は純粋に戦術的な判断であった。

ただ当然ながらワンストップレースになるのと、コース上のオーバーテイクが事実上不可能であることから、最初で最後のタイヤ交換をいつやるのかはとても重要な意味を持っていた。

追い抜きの難しいモナコでは、基本的にタイムではなくポジションを重視しなければならない。だから後ろの車がタイヤ交換したら、自分もタイヤ交換するのがセオリーである。通常は後続のマシンにアンダーカットされないように、前を走る車が先にタイヤ交換することもあるがモナコではこの作戦はかなり厳しい。

特に公道を利用するモナコの路面表面はスムーズであり、タイヤの温まりが悪い。そのため先にタイヤ交換して新しいタイヤを履いたとしても、前のマシンより速く走れるとは限らない。

今年のスーパーソフトタイヤは少なくとも2周ほど走らなければタイヤ温度を適切な領域にすることができなかった。

ここまでがレース前の事前知識である。では実際のレースはどうなったのか?

モナコでは予選も完全にレースの一部である。だから土曜日の予選は極めて重要な意味を持つ。そういう点でそれまでベッテルに負けていたライコネンが見せたQ3の走りは素晴らしかった。ベッテルのミスがあったとはいえ、その最速タイムの走りはライコネンの才能を見せつけてくれた。

そして重要な意味を持つスタートでも、ライコネンは見事に決めて見せて、トップでレースを展開する。あとはタイヤ交換の時期さえ間違えなければほぼ勝利を手中におさめたも同然であった。

だが同然上位陣の全員が同じことを考えていて、レース中盤まで誰もタイヤを交換しない。先陣を切ったのはフェルスタッペンだった。ボッタスの後ろにいて抜けないフェルスタッペンが上位陣の中で最初にタイヤ交換に飛び込んだ。それに反応してボッタスがタイヤ交換に向かう。だがベッテルとリカルドは反応しない。

この二台の後ろを走っていたリカルドは、前が開いたので全開のアタックを開始。タイヤが温まらずにタイムの上がらない二台を尻目に二台との差を広げていく。そしてリカルドはボッタスの5周後にタイヤ交換。見事にこの二台をかわして三位をものにした。

そしてトップを走っていたライコネンもボッタスの翌周にタイヤ交換した。だがライコネンも新しいタイヤが温まらない。しかも遅い車の後ろでコースに戻ったので、二台のマシンを抜くのに約1周かかりタイムをロス。

その間に2位を走っていたベッテルはアタックを開始。ライコネンの5周後にタイヤ交換したベッテルは見事にトップでコースに復帰した。

これでレースは終わった。だがちまたにあふれているフェラーリはベッテルを勝たすためにライコネンを犠牲にしたのだろうか。

もちろんフェラーリは以前から比較的ナンバーワンとナンバーツーを明確に分けた時もあった。だから今回もフェラーリがライコネンを犠牲にしたとしても驚きはしない。しかし今回は少しちがうと思っている。

まずレース中優先的にタイヤ交換できるのは、順位の高いマシンである。だからライコネンをベッテルより先にタイヤ交換したからといって、それで即陰謀ということにはならない。

今シーズンもあったが、ベッテルがトップを走りながら、先にタイヤ交換してメルセデスに前に行かれたことがあった。この観戦記でも何度もお話しさせていただいたが、そもそも最近のフェラーリの作戦は褒められたものではない。

だから今回も単純にフェラーリがいつものように作戦ミスをしたと考えている。

少し思い出して欲しい。ベッテルがタイヤ交換から戻る時のライコネンとの差を。0.1秒位しか差はなかった。理屈の上ではウルトラソフトを履くベッテルはタイヤが温まっている。だが消耗しているタイヤでベストタイムを連発するのは容易ではない。しかもここは難攻不落の難コース モナコGPである。少しでもミスをすれば即クラッシュ、リタイヤの世界である。

そこでベストラップを連発したベッテルはすごい。ここが波のドライバーと4度のワールドチャンピオンとの差である。もしベッテルのタイヤ交換があと0.2秒遅かったら、トップはライコネンのものであった。

これでもまだライコネンは陰謀の犠牲者なのだろうか。私はベッテルの走りを褒め称えたい。

Tagged on: