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ベッテル謎の逆転勝利 2018 オーストラリアGP観戦記


2018年シーズンの幕が開けた。F1ファンにとって開幕戦はお正月と同じようなもの。今シーズンに何がおこるのか、ワクワクドキドキしながらテレビの前に釘付けになった人も多いだろう。そしてその期待を裏切らないような大波乱の開幕戦になった。
 
ハミルトン楽勝の雰囲気が漂い始めた 25周目。事態は風雲急をつげてきた。それは実に些細な出来事だった。ハースのグロージャンがタイヤ交換した際に、左フロントタイヤをキチンとはめないで飛び出しコース上に止まってしまった。このこと事態は年に何回かあることで特に珍しくもなんともない(もっとも同じチームの二台が連続してタイヤをきちんとはめられずに止まることは珍しいが)。
 
この時一位と二位を走るハミルトンとライコネンはこのレース唯一のタイヤ交換を終わらせていた。ライコネンは18周目にハミルトンをアンダーカットするためにタイヤ交換を済ませていた。当然ハミルトンはこれに反応し、次のラップでタイヤ交換し、順位を維持した。ただライコネンのこの時の目的はアンダーカット狙いではなかった。なぜなら二人の差は3秒あり、これは新品タイヤを履いていても、逆転できる差ではないからだ。つまりフェラーリ陣営の本当の狙いはハミルトンにタイヤ交換をさせることだった。
 
そしてベッテルはこのタイミングでタイヤ交換をしなかった。それにはベッテルの後方を走っていたレッドブルがスタートで失敗し後方に大きなギャップがあり、タイヤ交換を遅らせても順位を失うリスクが少なかったからである。そしてレースの中盤以降でセーフティカーが出たタイミングで柔らかいタイヤを履いて勝負に出るのが彼らの唯一の望みだった。
 
この時、新しいタイヤを履いたハミルトンとライコネンはベッテルよりも速いタイムを刻んでいたので、ベッテルがオーバーカットするのは不可能で、この作戦がベッテルの唯一の望みだった。
 
 
そしてグロージャンが止まったことでまずはバーチャルセーフティカーのサインが出た。ここでベッテルはタイヤ交換に入る。
 
通常タイヤ交換する際に約23秒失う。だがVSCが入ることで他のマシンのスピードが落ちてラップタイムが悪化するので、このロスタイムが13秒程度になるはずだった。つまりベッテルは10秒稼げるはずだった。この時、ハミルトンはベッテルの12秒後方を、2位のライコネンは17秒後方を走っていた。だからメルセデスはベッテルが10秒稼いだとしてもトップはキープできると考えていた。だが彼らの計算は間違っていた。
 
レース後、ハミルトンが逆転された理由を問われたメルセデスのチーム代表 トト・ウルフはソフトウェアのバグが原因の可能性としてあると述べている。通常VSCが出るとコックピット内のディスプレーにVSCのペースに対して+何秒とかマイナス何秒とかの表示がされて、ドライバーは基準ペースに比べて遅れていれば速く走るし、速すぎればペースを落として走る。
 
トト・ウルフはこのペース配分を表示がプログラムのバグにより、間違った数字を表示し、それによりハミルトンは通常より遅く走ったので、ベッテルに逆転された可能性を示唆している。
 
だがこの発言にはひとつ気になる点がある。ハミルトンが通常のVSCのペースより5秒間違えて遅く走ったのであれば、ライコネンとの差も小さくなるはずである。だがベッテルがハミルトンを逆転した場面を見ても、ライコネンのマシン見えていない。そう考えるとこの理由も考えにくい。
 
彼らの誤算の一つはVSCが出たときにベッテルはすでにコースの途中まで来ていた。ハミルトンはまだセクター1にいて、ベッテルよりも長い距離をスピードダウンして走らなければならなかった。そしてベッテルはコース上ではない、第1セーフティカーラインと速度制限の始まるピットレーン入口の区間で加速して幾ばくかのタイムを稼いだとみられている。
 
フェラーリはこういう時もあると考えてレーススタート前にこの作戦を考えていたと思われる。実際、メルボルンはエスケープロードが狭いのでセーフティカーが出る可能性が比較的高いのである。
 
ベッテルがタイヤ交換をしてコースに戻ると、ベッテルはハミルトンの直前でコースに戻った。これにはハミルトンが激怒した。実際にVSCの前にハミルトンは余裕を持って走っていたので、必要ならばVSCの出る前にもっとベッテルと差を開くこともできた。だが19周目にソフトタイヤに交換していたのでタイヤを労る為に、ベッテルには逆転されない程度のタイム差をつけて、あとはギャップを見ながらタイムを調整していた。
 
だから必要ならばもっと速く走れたのに、わざとペースを落として走ったあげく、ベッテルに抜かれたのであるからハミルトンが怒るのも無理はない。VSCさえ出なければベッテルがタイヤ交換しても、ハミルトンが余裕でトップへ戻るはずだった。
 
これには伏線があった。まず2位を走るライコネンが18周目にタイヤ交換に入る。これでアンダーカットを避けたいハミルトンは次のラップにタイヤ交換する。この時もしボッタスが2位を走っていれば、ボッタスはライコネンの次にタイヤ交換し、ハミルトンはベッテルをカバーさせる為にステイアウトすることもできた。
 
だがご存じのように予選で手痛いミスをしたボッタスははるか後方にいてハミルトンを援護できなかった。1対2と数的不利な状況のハミルトンは、直前の敵であるライコネンに反応せざるを得なかった。レース後、ハミルトンは僕たちはベッテルと戦うべきだったと述べている。
 
また19周目と早い段階でタイヤ交換したので、ハミルトンはタイヤを労る必要があり、必要以上に速く走ることができなかった。またこのコースは燃費に厳しいこともあり、ハミルトンはペースを抑えて走っていた。
 
本来であればもう少し速く走ってベッテルとのギャップを作っておけば、このようなことにはならなかったかもしれない。だが誰もどのタイミングでVSCが出るのかわからない以上、今回のハミルトンは不運としか言いようがない。
 
 
ただベッテルは単純に幸運だったわけではない。彼は古いタイヤで走り続けていた。当然タイヤ交換をすませているハミルトンの方がペースが速いわけで、そのまま走り続けてもベッテルがハミルトンを逆転できる可能性は限りなく小さかった。
 
だがベッテルにとって幸運なことに本来フェラーリを脅かす存在のレッドブルがフェルスタッペンのスピンとリカルドのペナルティによるグリッド降格により、ベッテルの後方にはスペースがあった。だからベッテルは走り続けても3位になれる可能性は高かった。
 
そのため彼らはできる限り第1スティントを引っ張り、VSCかSCが入る可能性にかけていた。そしてそのまさかが最高のタイミングで訪れたのである。もしあと数周VSCが出るのが遅ければベッテルの逆転はなかった。それにベッテルは第1スティントを長い距離を走りタイヤのグリップが落ちながらも、ベストの走りを続けてハミルトンに差を詰めさせないようにした。その目に見えない努力がタイヤ交換後に僅かの差でトップに戻れた原因の一つである事は忘れてはいけない。この勝利がただの幸運だけでないのだ。