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 喜べないハミルトンの勝利 アゼルバイジャンGP観戦記


4レース目にして今シーズン初めての勝利を挙げたハミルトンだが、それほどうれしい表情には見えなかった。それもそのはず、今回の勝利は誰がどう見ても幸運がもたらした勝利である事は明らか。
 
予選でもフェラーリのベッテルに敗れて2位。レースでも最後の最後までトップに立つことはなく、彼がトップに立ったのはボッタスが破片を拾ってパンクをした後である。確かにハミルトンはボッタスの真後ろにはいたが、ボッタスを攻めて抜く術はなく、ボッタスがそのまま走りきれば優勝はほぼ間違いがなかった。
 
そもそもこのレースでもハミルトンのレースは後手に回った。上位3チームはライコネンを除いて5台はスーパーソフトでスタートを選択した。これはウルトラソフトだとタイヤの寿命が短くワンストップでフィニッシュまでいけないからである。
 
このバクーサーキットはセーフティカーが出たときのタイヤ交換のアドバンテージが他のサーキットより大きく、できればセーフティカーが出たタイミングでタイヤ交換をしたい。そのためにはセーフティカーがいつ出ても大丈夫なように第1スティントで長い距離走りたい。だからライコネン以外の上位勢はQ2でスーパーソフトでアタックし、スタートでのそのタイヤを履いた。
 
だがハミルトンが最初のタイヤ交換に向かったのは22周目。これは予定していたタイミングではない。スーパーソフトでできるだけ長く走って、セーフティカーのタイミングでウルトラソフトに履き替えて最後まで走るのがベストな選択だった。だがハミルトンがブレーキングでフラットスポットを作ってタイヤがダメになったので、タイヤ交換を強いられたのである。
 
ただこのタイミングでタイヤ交換をしたことにより、ベッテルにはプレッシャーがかかった。彼はスタートからレースをリードしていたし、タイヤの持ちも良かっし、ボッタスには10秒ほどのリードを築き、余裕を持ってレースをコントロールしていた。だから1位のベッテルは2位のボッタスがタイヤ交換し、ボッタスがどのタイヤを履くのか確認した後に、リードを守ってタイヤ交換したかった。
 
だがハミルトンが新品のソフトタイヤでベッテルとの差を縮めてきていた。30周前の時点でベッテルがタイヤ交換した場合、ハミルトンは数秒後ろになることがわかっていた。この日の気温は高くなく、どのドライバーもタイヤを温めるのに苦労していた。十分温まったタイヤを履くハミルトンをタイヤが温まっていないベッテルは直後に背負って走りたくないので、ここでタイヤ交換を決断する。
 
この判断にはドライバーチャンピオンシップの直接のライバルはボッタスではなく、ハミルトンである事も影響している。最悪ボッタスには前に行かれてもハミルトンの前にさえいればポイント差を開くことができる。
 
だがこれでボッタスは行けるところまでスーパーソフトで行くことができる。それでセーフティカーがでれば優勝できるし、ダメでもレッドブルの二台が潰れたので3位は確実である。
 
そしてセーフティカーが40周目に登場し、ボッタスがタイヤ交換。ラップタイムが遅くなりロスタイムが少なくなったボッタスはトップでレースに戻ることに成功した。
 
セーフティカーあけの第1コーナーでベッテルがボッタスに仕掛けるが、立ち上がりで膨らんでしまい、せっかくハミルトンの前を走る為に早めのタイヤ交換したにも関わらず、ハミルトンに前に出られてしまった。しかもベッテルはライコネンやペレスにも抜かれて5位に転落。最終的にはボッタスがリタイヤしたので4位でフィニッシュできたが、ポイントランキングでハミルトンに逆転を許してしまった。
 
ここまで決して調子が良かったわけではないハミルトンだが、ここにきて幸運な優勝ができてポイントリーダーになったのであるから、悪い話ではない。
 
だがここまでの4戦で、開幕戦を除くと速さの面でフェラーリにやられている。昨年まではQ3でフェラーリを寄せ付けなかったメルセデスであるが、開幕戦以来その速さは見られない。
 
だからハミルトンは優勝してポイントリーダーになったとしても両手を挙げて喜ぶことはできない。
 
逆にベッテルは二戦連続で勝てるレースを失ったばかりか、表彰台を逃してポイントリーダーの座も失ったにも関わらず、レース後のインタビューでも落ち着いていた。
 
ベッテルは現在、フェラーリがどのサーキットでもメルセデスより速いことを知っているし、タイヤの温めやすさや、温度の維持管理の面でもメルセデスよりも優れていることを知っている。だからベッテルはまだまだ勝負はこれからだと手応えを感じている。
 
次のスペインGPはマシンの総合性能が試されるサーキットである。ここでフェラーリが速さを見せつけると、メルセデスはさらに苦しくなる。