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失った勝利を取り戻したリカルド 2018モナコGP観戦記

2年前にモナコに置き忘れた勝ち星をリカルドが取り戻した。だがこの勝利は決して楽勝と呼べるものではなかった。
 
この週末常にトップにいたレッドブル。ポールポジションからスタートを決めたリカルドの勝利は動かないと思われた。だが上位陣の順位こそ動かなかったが、この日も多くのドラマが見られた。
 
通常、モナコではワンストップレースになることが多い。理由はモナコではコース上のポジションが最も重要だからである。モナコは実質的に追い抜きができないので、フレッシュなタイヤに履き替えてタイムが良くても前のマシンを抜くことができない。だからタイヤ交換を複数回するメリットがない。
 
そしてもう一つの理由は、公道サーキットであるモナコは路面がスムースなので、タイヤへの攻撃性が少なくタイヤの持ちが極めて良くタイムの落ちもほとんどない事が多いので、複数回タイヤ交換しても意味がない。
 
ところが今年のモナコは少し状況が変わった。理由はピレリが最も柔らかいハイパーソフトを投入したからである。これによりタイムは大きく向上したが、タイヤの持ちはもちろん短い。
 
上位陣は全員がハイパーソフトでスタート。このハイパーソフトはレースで20周前後しか持たないと考えられていた。だがモナコは78周レースなので残り50周以上をウルトラソフトで走るのもかなり無理があった。スーパーソフトならば最後まで走りきれると思われたが、速さという面でできればウルトラソフトで走りたいと考えていた。
 
特にメルセデスはフリー走行からハイパーソフトのフロントタイヤのグレイニングに苦しんでおり20周すら走れないと考えられていた。そうなると必然的にツーストップにならざるを得ない。だがモナコでツーストップは敗北を意味する。そこで彼らはQ2をウルトラソフトで切り抜けようとしたが、目標タイムが出ずに結局ハイパーソフトに履き替えてQ2を突破した。
 
スタートでは上位陣はほとんどポジションチェンジがなかった。追い抜きができないモナコではこの後タイヤ交換まで何事もなかった。
 
予想された通り最初に動いたのはメルセデス。ハミルトンがわずか12周目にウルトラソフトに履き替える。これは早すぎるのでツーストップだと思われた。その後17周前後に上位陣が続々とタイヤ交換をする。全員がウルトラソフトに履き替えたがボッタスだけスーパーソフトに履き替え、これがこの後、他のドライバーの作戦に大きな影響を与えることになった。この時点でスーパーソフトを履いたボッタスは最後まで走りきれる見込みだった。
 
タイヤ交換でも順位の変わらなかった上位陣だが、30周前に状況が変わってきた。トップを走るリカルドがパワーを失っていると報告してきた。リカルドはMGU-Kを失っておりモーターからのパワーアシストが全くない状況だった。これでリカルドはパワーの25%と2秒以上のタイムを失った。だがリカルドにとって幸運だったのはこれがタイヤ交換後に起こったことである。もしこれがタイヤ交換前だったらタイヤ交換のタイミングでベッテルにアンダーカットされて順位は逆転していた。だが少なくとも義務となる一回のタイヤ交換は終わっていた。これはリカルドの勝利のキーポイントになった。
 
とにかく2秒遅くても抜けないモナコ。リカルドが走り続ける限り順位を失うことはない。だがリカルドには別の問題もあった。それはMGU-Kを失ったので、リアの回生ができなくなり、それに伴いその分のモーターの抵抗がなくなった。つまり通常はMGU-Kでモーターから発電する際の抵抗でブレーキをアシストしているからF1のリアブレーキはかなり小さい。だからリアからの回生抵抗がなくなれば、その小さなブレーキでマシンを止めなければならない。だから当然リアブレーキは厳しくなる。モナコは低速コースなのでそれほどビッグブレーキが必要ないこともリカルドを助けた。それでもリカルドはブレーキバランスを通常あり得ないほど前よりにして走らざるを得なかった。実際レース終了時にリカルドのリアブレーキはほぼ終わっていた。
 
そんな四面楚歌のリカルドだったが、唯一タイヤに関しては有利な状況だった。先程述べたように今年のモナコはタイヤが厳しかった。だがレッドブルはトップ3の中でタイヤの持ちが一番良かった。その証拠にレース終盤、VSCあけに速いタイムを連発。ベッテルをあっという間に7秒も引き離してしまった。MGU-Kが効かないのにである。
 
 
そしてレース終盤にVSCがが登場し、誰がタイヤ交換というギャンブルを仕掛けるかと思われたが、誰も動かなかった。これは上位陣の中で一番後ろを走っていたボッタスがスーパーソフトを履いて最後まで走れると予想されたからである。もしこの時ボッタスもウルトラソフトを履いており、このタイミングでタイヤ交換していれば、その前のドライバーも順位を失うことなく、タイヤ交換できたが後ろのボッタスがタイヤ交換しないから動けない。これはリカルドには幸運だった。もちろん後ろのドライバーがフレッシュなタイヤを履いたからといって抜くのは難しかったとは思うが、それでもVSCあけにアタックされることを避けられたのだから。
 
レッドブルとしてはMGU-Kが故障した時点でリタイアも検討した。エンジンが壊れる可能性もあったからだ。だがチームの判断はレース続行だった。勝てる可能性があるのなら、例えエンジンを壊すリスクがあったとしてもレースを続けさせた。
 
こうしてリカルドとレッドブルは困難なレースをものにして2年越しのモナコ優勝を成し遂げた。
 
そして最後にフェルスタッペンにも触れなければならない。彼は少なくとも優勝争いはできた。少なくとも表彰台はほぼ確実で優勝できなくても普通に走れば二位は間違いなかった。それにも関わらず9位にしかなれなかった。理由は当然FP3のクラッシュである。これまでの接触はレース中であり、他のドライバーの絡みもあったので一方的にフェルスタッペンが悪いとは言えなかったが、今回は単独の事故であり言い訳はできない。これまでは彼はまだ経験不足で若いと思っていたが、今回のクラッシュは彼のミスであり言い訳はできない。これまでの彼は能力的にはチャンピオンクラスかと思っていたのだが、この事故で少し疑問符がついた。マシンを完全にコントロールしているベッテルやハミルトン、リカルドに比べると正確性の面では少し落ちるようである。