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ベッテルのミスには理由があった ドイツGP観戦記

▽ベッテルのクラッシュには原因があった
今シーズン、もしベッテルがタイトルを取り損ねたら、このレースはターニングポイントになったレースとした記憶されるだろう。
 
最初からレースを振り返ってみよう。まず土曜日の予選でまさかのハミルトンは油圧系のトラブルでQ1中にストップ。Q2には進めたが走れずに15位スタートとなった。これによりハミルトンはまず優勝が望めなくなったと誰もが思っていた。本人もそう思っていただろう。ダメージリミテーションのレースである。
 
予選でもフェラーリは速くベッテルがポールを、ライコネンも三位である。ライコネンは1回目のアタックでミスをしたので、2回目のアタックでは多少の余裕を持っていたと述べているので、順当に行けばフェラーリがこのサーキットで最速なのは間違いなかった。
 
スタートでもベッテルはトップをキープ。タイヤ交換も25周目に済ませて、ほぼ勝利を収めていた状況だった。唯一の波乱要素が雨である。レース前から雨が降る可能性については予想されていた。
 
だが降る降ると予想された周回数は過ぎていき、これは最後までドライかなと思われていた40周過ぎに雨がパラパラ降り始めた。ただ雨量は予想された通り少なくドライタイヤで問題なく走れるレベルであり、また降っている地域が極めて限定的だったのでタイヤ交換するドライバーもまた少なかった。ただ唯一の計算外が予想よりも長く降り続いたことである。
 
そのため一部の路面は微妙に濡れて来て、ドライビングは難しくなって来た。そして52周目にベッテルがクラッシュし、トップの座をハミルトンに明け渡すのだが、これにも多くの伏線があった。ここからはその部分を見ていこう。
 
 
▽またも乱れたフェラーリの判断
レース前はワンストップで乗り切りたいというのが、ほとんどチームの考えだった。
 
最初のタイヤ交換のタイミングは20周前後と見られていた。そんな時に14周目にライコネンがタイヤ交換に入る。これでほぼツーストップが確実である。
 
これには二つの狙いがあったと見られる。ひとつはハミルトンが後半にいて、トップ争いはフェラーリ2台対メルセデス1台とフェラーリは数的に有利な状態だった。ここでライコネンを入れれば、ボッタスがそのカバーに入るとベッテルは楽にレースを展開できる。
 
そしてベッテルとライコネンの作戦を変えることで、この後の展開が変わっても対応が可能である。
 
だがここでメルセデスは別のことを考えていた。メルセデスは降雨のタイミングを待っていて、ステイアウトさせた。彼らは雨が降ることに賭けていたのである。
 
予選Q1で油圧系のトラブルでシフトチェンジができなくなりストップしたハミルトンはスタートタイヤを自由に選べ、彼はソフトタイヤを選んだ。これは上位陣とは逆の作戦である。ハミルトンはこのタイヤ選択により第一スティントを長い距離走れた。これでハミルトンも雨が降る時期に悩まされることなく走れた。彼は42周目にタイヤ交換した。この時はまだ雨が降っていなかったが、この後降る雨は小雨だと判断して、予定通りウルトラソフトを履かせて送り出した。
 
そしてこれがばっちりハマった。グリップの高いウルトラソフトを履くハミルトンは雨の中最速タイムを刻んで行く。
 
ではもう一方のフェラーリ陣営はどうだったのだろうか。ライコネンのタイヤ交換を早々に済ませていたフェラーリはベッテルを25周目にタイヤ交換する。これでベッテルはワンストップだ。
 
だが新しいタイヤでいいタイムを出していたライコネンがアンダーカットしてベッテルの前に出た。本来、ライコネンはツーストップなのだから、フェラーリはベッテルを先に出させればいいのだが、彼らは数周に渡り動かなかった。これはライコネンもギリギリワンストップで最後まで行けるかもしれないという希望があったからなのだが、これに文句をつけたのがベッテルで彼は再三チームに順位を入れ替えるように訴えた。そして38周目に順位を入れ替えたが、これでベッテルはタイヤを痛めしまった。
 
雨が40周過ぎに降り出すと14周目にタイヤ交換していたライコネンはタイヤのグリップが足りなくて、ボッタスに抜かれて3位に後退する。
 
そしてタイヤのグリップが減って来たベッテルとハミルトンとの差は雨が降り始める前には20秒以上あったのに、ベッテルがクラッシュした時には10秒少しに縮まっていた。
 
そしてあのベッテルのクラッシュになる。つまりベッテルは少ないグリップと追いかけるハミルトンのプレッシャーがあり、あまり余裕を持って走れる状況ではなかったのである。
 
それに一周2秒以上速いハミルトンはもしベッテルがクラッシュしなくても、抜くことが可能だったであろう。
 
だがベッテルのクラッシュはチャンピオン争いにはかなりの痛手である。彼はこのレースで優勝できなくても3位でフィニッシュできれば15ポイントを得られたが、これがゼロになった。
 
これは1ポイントを争うチャンピオン争いではかなり痛い。ただマシンの総合能力を比較するとフェラーリはメルセデスより高い。だからベッテルは普通に戦えれば焦る必要は全くない。だが彼らがこれまで見せて来た判断ミスを見ていると楽観的になれないのもまた事実である。
 
 
▽上向かないトロ・ロッソ
トロロッソはハートレーがアゼルバイジャン以来の入賞、チームとしてもモナコでのガスリー入賞以来のポイント獲得であるが、この結果もあまり喜べない。理由はマシンが遅いのである。
 
予選では2台ともQ1脱落。レースでもラップタイムは悪くないのだが、ストレートスピードが不足して前のマシンが抜けない。
 
そこへ雨が降り出したのでガスリーをフルウエットタイヤに交換して送り出したが、雨はパラパラしか降らずに三周後にドライタイヤに交換して彼のレースは実質終わってしまった。チームの説明では強い雨雲がサーキットに向かっていたのだが、最後に二つに分かれて強い雨が降らなかったようだ。
 
ハートレーの方はまだよくて、雨がパラパラ降って来た時も、我慢して走り続けてベッテルのクラッシュでセーフティカーが出た時にウルトラソフトに履き替えたことにより入賞することができた。
 
ただ入賞できたとはいえトロロッソの状況は楽観できない。チームの核となるテクニカルディレクターのジェームス キーがマクラーレンに移籍となるなどあまりいいニュースもない。
 
次のハンガリーはトロロッソには相性のいいサーキットなのが唯一の明るい話題だろうか。