F1 ニュース&コラム Passion

またも雨に泣いたベッテル ハンガリーGP観戦記

 
このハンガリーGPは土曜日、日曜日とドライであれば、ほぼベッテルの勝利は間違いなかった。
 
それを狂わしたのは、土曜日予選に降った雨。ポールポジションを獲得したハミルトンはもしドライ路面だったら2列目はおろかレッドブルにも負けて三列目だった可能性もあった。
 
ハミルトンにとってはまさに恵みの雨。それでも誰にとっても難しいコンディションの中でそのチャンスをものにする力はさすがにマルチチャンピオンである。
 
この光景以前にも見たことがある。昨年のシンガポールGP、ベッテル絶対有利なレース。スタート前に雨が降りフェラーリ二台が自滅しハミルトンが勝利したあのレースである。
 
先週のドイツも雨でベッテルがクラッシュし、ハミルトンが勝利。マシンの総合能力としてはまだフェラーリに分はあるが、メルセデスの信頼性は高いのでこれ以上引き離されるとベッテルも厳しくなる。
 
予選では天候に助けられたハミルトンだが、レースではチームメイトに助けられた。そのレース戦術を振り返って見よう。
 
 
▽ボッタスのナイスアシスト
レース前はいつものようにワンストップ作戦が基本であった。皆さんご存知のようにハンガロリンクは追い抜きが極めて難しく、コース上のポジションが最優先である。だから計算上はツーストップの方が速くても遅いマシンに引っ掛かればすぐにタイムをロスして、計算通りにはいかなくなる。
 
なのでハミルトンとベッテルは基本通りワンストップだったのだが、ライコネンはメルセデスを混乱させるために14周目にストップ。これは残り周回数を考えると確実にツーストップである。ここでメルセデスが反応し、翌周にボッタスをピットに入れる。
 
このフェラーリの作戦はバッチリとはまった。タイヤ交換する前の順位はトップ ハミルトン、2位ボッタス、3位ベッテル、4位ライコネンだった。ボッタスがピットに入ったことにより、ベッテルの前が空き彼はクリーンエアの中を走ることができた。
 
しかもこの時上位4台のうちベッテルだけがソフトタイヤだった。予選で雨が降ったため、このレースはスタートタイヤを自由に選択できた。残りの3台はウルトラソフト。トラックポジション重視のコースでライバルを抜くのはスタートくらいのものである。だからフロントロウのメルセデスはスタートの蹴り出しを重視しウルトラソフトでスタートした。そしてフェラーリはベッテルはソフト、ライコネンはウルトラソフトと分けてきた。これでベッテルはハミルトンよりも多くの周回数が可能である。
 
実際、このコースは路面が滑らかなのでタイヤへの負荷は少なく、故にタイムの落ちも少ない。なのでアンダーカットが難しく、これもベッテルには有利となった。
 
 
実際26周目に最初で最後のタイヤ交換しソフトに変えたハミルトンとスタートからソフトを使うベッテルのタイム差はほぼ同じでラップによってはベッテルのタイムがハミルトンを上回ることもあった。
 
15周目にソフトに変えたボッタスは23秒台なのに対してベッテルはコンスタントに22秒台を刻む。そうしているうちに29周目あたりでベッテルはボッタスに対してタイヤ交換しても前で戻れるほどのギャップを作った。
 
ここでベッテルがタイヤ交換すれば、ベッテルはボッタスの前で戻れた。ところがここでフェラーリはタイヤ交換しなかった。ベッテルは最後にウルトラソフトに変えてハミルトンとの勝負に持ち込みたかった。いくらタイヤに優しいハンガロリンクとはいえ残り41周をウルトラソフトで走りきるには無理がある。だからここでステイアウトした事は理解できる。
 
その後も速いベッテルはボッタスが周回遅れに引っかから事もあり、35周目には25秒のリードがあった。だがウルトラソフトの寿命を気にしたフェラーリはここでもベッテルを入れなかった。
 
だがその後、ベッテルも周回遅れに引っかかりタイムロス。39周目にタイヤ交換に入る。それでもフェラーリが完璧なタイヤ交換できれば、ギリギリボッタスの前で戻れたのだが、ここで左フロントのタイヤ交換に手間取り2秒をロス。なんとボッタスの後ろでコースに戻った。
 
それでも15周目にタイヤ交換したボッタスはもう一度タイヤ交換するはずと誰もが思った。だがメルセデスはボッタスをタイヤ交換に入れない。ボッタスをタイヤ交換すればベッテルはクリーンエアの中でハミルトンよりも新しいウルトラソフトで走れる。
 
 
これはメルセデスには不利な展開である。そこでメルセデスはボッタスをできるだけ走らせることにした。そしてベッテルに蓋をしてダーティーエアの中で走らせた。当然ボッタスのタイヤは30周を超えていて、ベッテルより全然遅いのだが、ハンガロリンクでは2秒速くても抜けない。
 
ベッテルはタイヤが終わったボッタスを65周目に脱いだが、その時ハミルトンは先をいっており決着はついていた。
 
結局、ボッタスは最後までタイヤ交換せず55周を走りきった。だが最後は完全にタイヤがダメになっていてライコネンやリカルドにも抜かれて5位だった。
 
普通に走って普通にタイヤ交換していれば、ボッタスは2位、悪くても3位にはなれていたはずて、これはメルセデスがどれほど弁明しようとハミルトンを勝たすためにボッタスを犠牲にしたと言われても仕方ない。
 
トト・ウルフがレース後にボッタスの事を最高のサポート役だと述べたのは間違った発言ではなく本音が出たのであろう。
 
それにしても2周連続で勝てるレースを雨で逃したフェラーリとベッテル。それでもまだフェラーリの方が戦闘力がある状態は変わりがない。
 
夏休み明けのスパとモンツァはメルセデス有利と見られているが、ここでフェラーリはメルセデスに点差を詰めたい。問題はスパは天候が安定しないので、フェラーリが2週連続で雨に泣いているので、天候は勝負の鍵を握るかもしれない。
 
 
▽絶好調のトロロッソ
予想はされていたが、ハンガロリンクでのトロロッソは素晴らしかった。予選では二台ともQ3進出。ガスリーはリカルドがQ2でタイヤ選択を誤り脱落したことにも助けられて予選6位。これはトップ3以外の最高順位である。
 
雨の予選でも好調だったトロロッソだが、晴れた日曜日の走りも良かった。フェルスタッペンがリタイヤし5位に上がったガスリーはクリーンエアの中を走り、上位陣に並ぶようなタイムを刻む。
 
これまでなら後ろを走るハースのマグヌッセンに追いつかれるパターンだが、この日はマグヌッセンを寄せ付けず差を開いていくガスリー。
 
ガスリーはウルトラソフトを履いてスタートしたドライバーの中で最長の35周を走りソフトに交換。ピットイン3周前に自己ベストを出していることからいかにタイヤの状態が良かったかわかる。
 
結局、後方から追いかけてきたリカルドには抜かれたが危なげなく6位入賞である。フリー走行から予選決勝とほとんどトラブルらしいトラブルもマシンにもPUにもなかったことも素晴らしい。
 
ここまで絶賛モードのホンダの記事を書くのも復帰以来初めてかもしれないが、少なくともトップ3以外では最高のマシンだったことは間違いない。
 
あとはこの調子が続けられるかである。ハンガロリンクは例年トロロッソは好調である。夏休み明けのスパとモンツァはホンダにとっても得意とは言えない。
 
ただこのレースを見てわかったことは、調子のいいトロロッソは中団グループでも最速のポテンシャルがあるということである。