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勝利以上のものを失ったベッテルと得たハミルトン イタリアGP観戦記

この日は、フェラーリのタイトルへの希望を打ち砕いたレースとして人々の記憶の中に残るかもしれない。
 
誰がどう考えてもこの日のレースで勝つのはフェラーリのはずだった。チャンピオンを争うハミルトンにとって、優勝は無理でも2位には入り、ベッテルとの差をできるだけキープしたいというのが現実的な希望だった。
 
実際にハミルトンはレース前にチームからフェラーリより1.5秒差以内で走れと言われていたが、どうやったらそうできるのかわからなかったと述べている。ベルギーでの差を見せつけられれば、そう思うのも無理はない。
 
フェラーリとしては、1ー2フィッシュしてハミルトンとの差を縮めたい、そんな思いがあったはずだ。そして予選ではフロントロウを独占。彼らの作戦通りに思えたが、ポールポジションはライコネンでベッテルが2位と彼らの予想とは少し違う結果となった。そしてこの小さなボタンの掛け違いが、レースでは大きな結果となって返ってくることになろうとはこの時点では誰も想像がつかなかった。
 
 
そもそも予選からフェラーリは少しおかしかった。モンツァではスリップストリームが効果があるので、チームメイト同士で引っ張り合うのが通常である。メルセデスもQ3最初のアタックではハミルトン前、ボッタス後ろで2秒半くらいの差をつけてアタックした。
 
モンツァはスリップストリームがよく効くので、この程度の差があってもタイム改善の効果が見られる。逆にこの程度の差があった方がコーナーで乱気流の影響を受けないので丁度いいのである。
 
ところがフェラーリは少し違っていた。最初のアタックではベッテルが前でライコネンが後ろを走ったが、2回目のアタックもベッテルが前でライコネンが後ろを走った。
 
2回目はベッテルの前にはメルセデスの2台がいたので、ベッテルもメルセデスのスリップストリームを使えたのだが、メルセデスとフェラーリではタイヤの温まり方が違うので、アウトラップのペースが違う。だからベッテルはメルセデスとの差が開いてしまい有効にスリップストリームが使えない距離にまで開いてしまった。
 
フェラーリ的にはメルセデスが前にいるから、ベッテルをライコネンの前を走らせても問題ないと思ったのかもしれないが、チャンピオンを争うベッテルに対してこのやり方はないのではないだろうか。そしてこれがレースで決定的な影響を与えることになる。
 
 
ポールポジションからスタートしたライコネンに2番手からスタートしたベッテルがアウトから仕掛けるが最初のシケインでは抜けなかった。このシケインの立ち上がりでベッテルはライコネンに前をふさがれて立ち上がりの加速が鈍った。
 
それには影響されなかったハミルトンが次のシケインであるロッジアでフェラーリに迫る。この時ライコネンを抜きたかったベッテルはインにマシンをふり、アウト側にいったハミルトンの前が空く。ブレーキングを遅らせたハミルトンはベッテルよりほんの少し前でシケインに飛び込む。そこに曲がりきれなかったベッテルが接触しスピン。フロントウイングやバージボードなども破損し最後尾まで落ちてしまう。
 
この時の接触ではペナルティはなかった。ハミルトンはベッテルにスペースを残しており、単純にベッテルは飛び込みすぎて曲がりきれなかっただけである。
 
本来ならベッテルはロッジアの入り口でアウト側にマシンを振らなければならなかった。アウト側はレーシングラインでタイヤのグリップもいい。イン側は路面がダーティーで止まりにくい。ベッテルはライコネンを抜くことにこだわりすぎて自滅自滅してしまった。
 
ベッテルは無理をせずにここではハミルトンを前にいかしても、この後に抜くこともできたはずだ。実際この後でライコネンはハミルトンに抜かれるが、すぐに抜き返している。フェラーリの方がストレートスピードが速いのをベッテルは忘れてしまったのだろうか。 
 
ベッテルはライコネンを早く抜きたい気持ちが強すぎて、ハミルトンへのガードが低くなり、焦り自滅してしまった。
 
 
これでトップはライコネンだが、フェラーリ一台に対してメルセデス2台の戦いとなった。これはのちにメルセデスにとり大きなアドバンテージとなる。
 
予選のペースを見ると、ライコネンはハミルトンを引き離さなければならないのだが、ハミルトンは常に1秒前後の差をキープする。こうなるとライコネンはハミルトンに先にタイヤ交換されると、アンダーカットされる可能性がある。
 
だからライコネンはハミルトンが先に入ってからタイヤ交換する余裕はなかった。そしてライコネンはハミルトンより先に20周目にタイヤ交換を実施した。
 
だがここでもメルセデスはしたたかだった。ライコネンがピットに向かう前に、メルセデスのピットクルーが出てきてタイヤ交換するふりをしたのだ。これを見てライコネンはピットイン。メルセデスはハミルトンにライコネンがピットに入ればステイアウトし、ライコネンがステイアウトすれば、ピットインするように指示した。
 
ライコネンがピットインしたので、ハミルトンはステイアウトを選択した。タイヤ交換後、ライコネンはハミルトンがいつタイヤ交換しても大丈夫なようにプッシュする。だがハミルトンはタイヤ交換しない。結局ハミルトンは8周後にタイヤ交換する。この間、古いタイヤで走るハミルトンは、4.3秒もタイムロスする。
 
だがこの時、ボッタスがタイヤ交換せずにトップを走っていた。そして新しいタイヤを履くライコネンが追いつく。古いタイヤを履くボッタスはタイムは良くないのだが、ライコネンはタイヤ交換直後にプッシュしたことによりリアタイヤにブリスターが出ていてボッタスを抜けない。
 
 
ハミルトンはリアタイヤを傷めないように、慎重に走りながらライコネンに追いついてくる。ライコネンとハミルトンはボッタスに追い付き三台が並んで走る状態になる。
 
36周目にボッタスはタイヤ交換のためにピットに入る。これでライコネンは前がクリアになったが、ボッタスの後ろを走ることによりさらにタイヤを傷めており、ペースが上がらない。
 
しかもボッタスが前にいた時にはライコネンもDRSが使えていたが、ボッタスがいなくなると使えない。後ろを走るハミルトンはDRSを使えるのでハミルトンは絶対的に有利な状態になった。
 
それでもライコネンは8周にわたりトップをキープしたが、ついに44周目にハミルトンにパスされて万事休す。
 
圧勝するはずのイタリアでフェラーリは勝てなかった。このレース、ベッテルの判断ミスもあったが、明らかにチームとしての判断もフェラーリよりメルセデスの方が一枚も二枚も上手であった。
 
正直言ってこれで今年のチャンピオン争いは終わったと思わせるイタリアGPとなった。 
 
 
▽実力を活かせなかったトロロッソ ホンダ
高速のイタリアGPはホンダにとっては得意ではないサーキットである。フリー走行では2台とも冴えなかった。予選でもハートレーはQ1で脱落したが、ガスリーは1000分の2秒差でQ3に進出して9位スタート。ペナルティを受けることが決まっていたヒュルケンベルグとリカルドが走らなかたことも大きいが、それでも高速のモンツァて予選9位は立派な成績である。間違いなく今年最高の予選であった。
 
 
だが決勝レースは一転して悪い方へ向かってしまった。スタート直後にハートレーは接触しリタイア。ガスリーも4周目にアロンソを抜く時に接触を避けようとして、縁石に乗り上げてフロアを傷めた。これでダウンフォースを失ったガスリーは順位を落としていく。12周目にリカルドに抜かれる際にも接触し、フロア後部を傷めて正常なパフォーマンスを出せなくなった。
 
もしアクシデントがなければ、高速モンツァでも実力で入賞できる可能性はあっただけに残念な結果ではあった。だが高速モンツァで見せたホンダのパフォーマンスはかなりのもので確実な進歩が見られたので今後のレースも楽しみである。