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勝てなかったフェラーリの事情とハミルトンのスーパーラップ シンガポールGP観戦記

 
シンガポールGPが終わり、ハミルトンとベッテルのポイント差が40点差に開いたが、まだレースは残っており計算上、ベッテルはハミルトンを逆転ができる。
 
だがこのレースを見ると今年のチャンピオン争いは、ハミルトンに大きなトラブルでもない限り勝負あったと思わた。
 
まずはハミルトンの予選の走りがすごかった。フリー走行ではフェラーリやレッドブルにも負けそうだったのに最後の予選でのスーパーラップはお見事と言うしかない。完璧な予選アタックなどというものはないと思っていたが、もしあるとすればこの日のハミルトンのアタックをおいて他はない。追い抜きの難しいシンガポールでは、このポールポジションはレースでの展開を有利にし、大きな分岐点となった。
 
メルセデスもハミルトンを後押しするアップデートをしてきた。彼らはこのレースに新型のリアホイールドラムを持ち込んだ。以前のドラムより放熱性が高いと見られている。メルセデスは毎年このシンガポールGPでは苦戦してきた。その理由のひとつにタイヤがオーバーヒートしてしまうことがあげられる。
 
彼らのマシンはダウンフォースは大きいのだが、その分ライバルよりタイヤ温度が上がりやすい傾向にある。特に温度管理面ではフェラーリは優れている。
 
 
今回メルセデスはその新型のドラムを持ち込んだことにより、タイヤ温度の管理に成功した。シンガポールでは苦しいリアタイヤの温度を管理できたことにより、ハミルトンは予選の第3セクターで最速のタイムを記録している。これはタイヤがオーバーヒートしていればできないことである。
 
一方のベッテルは、予選3位。ギアボックスに不安があり予選モードが使えなかったフェルスタッペンにすら負けてしまう。これでベッテルはハミルトンと勝負する前にフェルスタッペンを抜かなければならなくなった。この追い抜きが絶望的なシンガポールでである。
 
レース前にはワンストップが予想されたのでタイヤ交換のタイミングで抜けるのは一台だけ。そう考えるとベッテルは必ずフェルスタッペンをスタートで抜かなければならない。
 
スタートではベッテルの蹴り出しがよく、ターン1の入り口でフェルスタッペンに並びかけるが、スタートからターン1までの距離が短いこともあり、ここでは抜くことはできなかった。だがフェルスタッペンはポジションを守るためブレーキを遅くしたのでその後のシケイン脱出でのラインが厳しくなり、加速が鈍くなった。
 
 
ベッテルは理想的なラインからシケイン出口での加速がよく、その後のストレートでフェルスタッペンをパス。これでハミルトンとの一騎打ちに持ち込むことには成功し、一つ目の課題はクリアした。
 
レース序盤はベッテルもハミルトンの1秒以内につけており、アンダーカットが可能な距離につけていた。だがハミルトンにはまだ余裕があった。ハイパーソフトでスタートした上位陣はこのタイヤを15周前後持たせないとワンストップが難しい計算だった。だからハミルトン(だけではないが)は意図的にペースを落としタイヤ交換の時期を遅らせようとしていた。その証拠にハミルトンの後ろにはマシンが連なっていた。
 
だがタイヤ交換の時期が近づいていた11周を過ぎたあたりからハミルトンはペースを上げてきた。1秒差であるとベッテルはハミルトンをアンダーカットする可能性が大きいので、差を広げ始めた。ベッテルはハミルトンについていきたいのだが、少しずつ差を広げられていき2秒以上の差がついてきた。
 
ここでフェラーリはベッテルをタイヤ交換させるべくピットに入れる。タイヤ交換したベッテルはペレスの後ろで戻ってしまった。アンダーカットを避けるべくハミルトンはベッテルの次の周にタイヤ交換する。このインラップでハミルトンはハードにプッシュ。メルセデスのタイヤ交換も素晴らしくハミルトンはペレスの前で戻る。
 
ペレスはまだタイヤ交換しておらず、同一周回なのでベッテルに道を譲る必要がなく、ベッテルは2周近くなすすべなくペレスの後ろで待つしかなかった。
 
その翌周にはペレスをかわしたベッテルだったが、その時ハミルトンは先をいっておりもはやベッテルにハミルトンに勝つすべはなかった。
 
しかもベッテルがペレスに引っかかっている間にフェルスタッペンがタイヤ交換し、先に出られるという失態を演じてしまった。
 
これでせっかくスタートで抜いたフェルスタッペンの後ろをベッテルは走ることになった。
 
 
そしてこの時点で追い抜きが事実上不可能なシンガポールでの、トップ3の順位は確定してしまった。ここでフェラーリの作戦は酷いと批判することは簡単なのだが、フェラーリにはフェラーリなりの事情があった。
 
まずタイヤ交換のタイミングだが、あれ以上引っ張るとハミルトンとの差が3秒以上開く可能性もあった。だからあのタイミングが可能性が低いとはいえ、アンダーカットを狙うギリギリのタイミングだった。
 
しかもベッテルはハミルトンより先にタイヤ交換しないとアンダーカットを仕掛けられないので、必ずハミルトンより早くタイヤ交換しなければいけなかった。
 
だからフェラーリはペレスの後ろになることを理解した上であのタイミングでのタイヤ交換を選択した。あとは自分達のエースドライバーが不可能を可能にして、ペレスをすぐにかわしてくれるのを願いながら。
 
またハミルトンもギリギリペレスにひっかかるタイミングでもあったので、そうすればベッテルにも追い抜きのチャンスがある。
 
ただ結果としてハミルトンはペレスの前で戻り、ベッテルはペレスを抜けず、フェルスタッペンはベッテルの前で戻ってしまった。
 
ベッテルがウルトラソフトに交換したのもアンダーカットを狙っていたからである。定石でいけばソフトタイヤに変えるべきである。ウルトラソフトで最後まで走るのはかなりギリギリだった。だがウルトラソフトはソフトタイヤよりウォームアップ性能がいい。だからフェラーリはウルトラソフトに勝負を賭けた。
 
そうすればハミルトンをアンダーカットできなくても、コース上で抜けるチャンスも出てくる。それにトップにたてればペースを数秒落としても抜かれる心配はないので、ウルトラソフトでも最後までいけると考えたはずだ。
 
結果はフェラーリは賭けに失敗し、フェルスタッペンにも抜かれベッテルはさらに3ポイント失った。
 
さらに言うとフェラーリは、レースの前から負けていたとも言える。彼らはソフトタイヤをたったの1セットしか持ち込んでなかった。第二スティントでほとんどのマシンが履いたタイヤである。1セットしかないわけだから、彼らはフリー走行で一回もソフトタイヤで走行していない。これではウォームアップがどうとか、タイヤのタレ具合とか、何周持つとか正確に理解することは不可能である。つまり彼らはソフトタイヤを捨てタイヤと考えていたのである。
 
だがそもそも追い抜きが絶望的なシンガポールで、予選3位の時点でベッテルが勝つ確率はかなり低かった。だからフェラーリの作戦ミスを責めるより、ハミルトンの予選スーパーラップを讃えたほうがいい。彼のキャリア最高の予選アタックといってもいいハミルトンの走りだった。
 
 
▽調子の上がらないトロロッソ ホンダ
本来なら低速のシンガポールGPはトロロッソにあっているサーキットのはずだった。ところが2台ともフリー走行からタイムが冴えない。土曜日にセットアップを変更して多少良くなったが、それでも予選ではハートレーはQ1脱落、ガスリーもギリギリ(16位のマグヌッセンとの差はたったの0.03秒)Q2進出したものの、ライバルが自己ベストを更新するにもかかわらず、自己ベスト更新ならず最下位の15位に終わった。
 
彼らのマシンはフロントとリアのタイヤの温度上昇が前後のタイヤで揃ってなくて、前がグリップしたら後ろがグリップせず、前のグリップが落ちてきたら後ろのグリップが良くなると言う具合である。こうなると1周のアタックの間中マシンの前後バランスが変化し続けるので、これではどんなドライバーでも全力でアタックすることは不可能である。
 
ガスリーはスタートタイヤもハイパーソフトにするギャンブル。高いグリップでスタートで二台抜くが、その後はタイヤのタレが激しくタイムが上がらない。ほとんど見せ場もなく13位に終わった。
 
いつものことではあるが、トロロッソはこの原因をつかめていない。今年何回もあったことだが、このあたりの部分がトロロッソがなかなか飛躍できない大きな理由のひとつである。
 
ちなみにトロロッソもソフトタイヤをワンセットしか持ち込んでいなかった。しかも彼らはこのソフトタイヤをフリー走行で使用した。レース前に新品ソフトタイヤを持っていなかったのはトロロッソだけである。こういう理由もあり、トロロッソの2人はレースでソフトタイヤを使用しなかった。
 
ソフトタイヤをワンセットしか選択しなかったのは、フェラーリとトロロッソとシロトキン、マグヌッセンのみである。
 
唯一の朗報は次のロシアGPでホンダがスペック3のPUを投入するかもしれない。これは事実上鈴鹿に向けてのテストとなるだろう。まだホンダは正式にアナウンスしていないが、順調にいけばロシアGPは楽しみになる。