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難しいメキシコを征したマックス メキシコGP観戦記

 
一年のうち最も高地で開催されるメキシコGPは、その特徴通り通常とは大きく異なる光景を映し出した。まずはレッドブルが予選でフロントロウを独占。レッドブルがこれほどの速さを見せつけたのは、モナコGP以来である。だがメキシコとモナコではコースの特徴が全く異なる。ではどうしてレッドブルはここまでの速さを見せたのだろうか。
 
これにはルノーのターボが影響している。ルノーのコンプレッサーはライバル達よりも直径が大きいと言われている。メキシコは高地なのでライバルもターボを利用していても、通常のサーキットよりはパワーが落ちる。だがルノーはコンプレッサーが大きいので、より多くの空気を充填できる為、通常のサーキットよりライバルとの差が縮まったと思われる。また空気が薄いのでダウンフォース量も通常より少なくなる。条件は他のチームも同じだが、レッドブルのダウンフォース量の絶対的な大きさが、彼らのは有利に働いた。
 
そうなるとレッドブルの車体性能の高さが存分に発揮される。ポールポジションは逆転でリカルド、2位にはフェルスタッペンである。だがせっかく渾身の走りでポールを取ったリカルドだが、蹴り出しは悪くなかったのだが、その後の加速で失速。フェルスタッペンとハミルトンに先行されてしまう。ハミルトンは7位以上でチャンピオンが決まる状況なので1コーナーへの飛び込みでも無理にフェルスタッペンと勝負せず2位をキープ。
 
これまでのGPであれば、このままハミルトンは2位を守ってチャンピオン決定となるはずだが、このメキシコGPではそうはならなかった。ハミルトンはトップより60秒以上遅れてなんとか4位でフィニッシュするのが精一杯だった。
スタート直後からグリップの低下を訴えていたハミルトンは上位陣で一番早い11周目にタイヤ交換。だがタイヤ交換しても苦しい状況には変わりなく、その後もベッテル、リカルドに抜かれて47周目に2度目のタイヤ交換をする。だがそれでも1ストップのライコネンやリカルドにも追いつけず5位が精一杯だった。
 
 
とにかく今回は誰にとってもタイヤが難しい問題となった。グレイニングが激しく、グリップの低下が予想より早い。トップを走るフェルスタッペンはクリーンな状況で走るので一番恵まれていた状況ではあったが、その彼も楽な状況ではなかった。
 
空気が薄いのでダウンフォースは少なくなるし、PUやブレーキの冷却も厳しい。そしてタイヤも苦しいとなると全車完走するだけでも一苦労である。
 
特にメルセデスはアメリカGPに続きタイヤに苦しんでいた。彼らはピレリが持ち込んだ3種類すべてのタイヤで苦しんでいた。ボッタスは3ストップを強いられたほどである。それでも4位フィニッシュでチャンピオンを決めるのだから成熟した新しいハミルトンを見せてくれた。
 
フェルスタッペンはポールポジションをリカルドに取られて、ものすごい悔しがりようだった。そのためスタートで完璧な蹴り出しを見せレースをリードする。彼は最も扱いの難しいウルトラソフトで第1スティントを走ったが、それでもタイヤの状態は良かった。余裕を見て13周目にタイヤ交換したが、まだまだ走ることができた。
 
それを見てレッドブルはリカルドのワンストップ作戦を決断。そしてリカルドは2位まで上がったのだがご存知の通り彼はクラッチのトラブルでリタイアとなった。これで彼は今シーズン8回目のリタイア(このうち6回がメカニカルトラブル)で、これはどのドライバーよりも多い数字である。
 
こうしてダウンフォース、PU、ドライバーのクオリティ、タイヤのライフ、全て揃ったフェルスタッペンが快勝してメキシコGPは終わった。
 
 
ハミルトンは4位で2年連続でメキシコでチャンピオンを決めた。苦しみ抜いたレースだったがそれでも確実にポイントを稼ぎチャンピオンを決めるところが、ベテランの域に達してきたハミルトンの力である。表彰台に登れなくてもいい、勝てなくてもいい、そこを割り切って走れるというのは簡単そうに見えて実は難しい。
 
F1ドライバーは誰もが世界一負けず嫌いだし、走り出したらアドレナリン出まくりの世界なので冷静になるのは難しい。それをこのレースはチャンピオン獲得に焦点を当てて、それだけ決められればいいと考えられるのは、優れたドライバーの証拠である。F1に来るくらいのドライバーは、全員ドライブ能力は高い。差はそれ以外のところで出るのである。
 
今年はメルセデスは決して最速ではなかった。フェラーリの方が速い時の方が多かった。それでもハミルトンがチャンピオンになったのは、彼とメルセデスの方が安定していたからである。仲間内で喧嘩しているようでは、フェラーリはこの争いに勝つことは難しいだろう。
 
 
▽チグハグなトロロッソ ホンダ
今回、トロロッソ・ホンダはガスリーに新品のスペック3のパワーユニットを投入した。今回はホンダとしてはひとつ前のスペック2でレースに臨もうとしていた。理由は使いこなれ特性もよく理解しているPUの方が、特殊なメキシコのサーキットで、回生や放出などのセッティングが容易にできると考えたからだ。
 
ただガスリーの以前投入したスペック3のPUに製造上の問題がある疑いがでて、そのPUは日本に送り返されて非破壊検査を受けることになった。
 
ただこのPUに問題が見つかった場合、次のブラジル(メキシコよりトロロッソに合っている)でPU交換、ペナルティとなるのでそれを避けるためにガスリーはこのメキシコでペナルティを受けてスペック3のパワーユニットのストックを作ることにした。
 
そういう理由でガスリーは最後尾スタートとなった。だが苦戦するとみられてメキシコでトロロッソは速さを見せた。予選でもガスリーはQ3に行けるくらいの速さを見せたし、決勝でも一番軟らかいウルトラソフトでスタートするギャンブル。5周目にはタイヤ交換するがあとの二回のスティントをスーパーソフトでつなぎ、見事に10位入賞した。
 
もっとも課題がないわけではなく、9位のエリクソンに追いつきながら追い越すことはできなかった。これはホンダのPUの性能が堂のと言う前に、トラクション性能が違いすぎてストレートでDRSがあっても仕掛けることができなかったからである。
 
次のブラジルでは新しいアップデートを投入する予定のトロロッソ。これにホンダのスペック3のパワーユニットを搭載して、今回コンストラクターズ選手権で逆転されたザウバーを逆転することを狙う。