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ドイツGPウラ観戦記 アロンソの敗因はマスダンパーなのか?

▽マス・ダンパーとはなにか? FIAはフランスGP終了後、マス・ダンパーを禁止する通達をおこなった。 そして、アロンソはドイツGPで5位に沈んだ。 これはFIAが禁止したマス・ダンパーなるデバイスが原因ではないかと言われている。 では、マス・ダンパーとは何をするモノなのか? 詳しい機構を文字だけで説明するのは難しいので結論だけを言うと、マシンの姿勢を制御するデバイスだと考えて欲しい。 F1マシンだけでなく、クルマは全てに言えることだが、ブレーキをかけると荷重が前に移動する。 いわゆる前のめりになる状況だ。 F1マシンの場合、フロントウィングの下側でもダウンフォースを発生させている。 マシンの荷重が前に移動すると、フロントウィングと地面の距離が変化し、縮まる。 そうするとフロントのダウンフォースの量が増える。 今度は加速するときのことを考えてみよう。 加速すると、マシンの荷重は後ろへ移動する。 するとフロントウィングと地面の距離は広がり、ダウンフォースは減少する。 F1マシンは長い直線以外では、常に加速と減速を繰り返しているので、地面とマシンの距離も常に変化している。 普通のクルマであれば、多少地面とクルマとの距離が変化しても問題はない。 クルマの下面では、ダウンフォースを稼いでいないからだ。 ところがF1は違う。 F1はマシンの下面で強大なダウンフォースを発生させ、マシンを地面に押しつけて高速なコーナーリングを可能にしている。 だから、デザイナー達はマシン下面と地面との距離が変化し、ダウンフォース量が変化することを極端に嫌う。 最近のF1マシンのサスペンションがほとんど動かないのにはこういう理由があるのだ。 ダウンフォース量が変化するとドライバーは、どの程度のスピードでコーナーリングすればいいかがわからない。 その為、思い切って攻められないし、予想以上にダウンフォースが減少するとコースアウトしてしまう。 最近のF1でパッシングシーンが少なくなったのも、これが関係している。 二台のマシンが連なって走っているところを想像して欲しい。 後ろのマシンが前のマシンに、接近しすぎると何が起こるだろうか? そうすると、前のマシンが乱した空気に当たったフロント周りのダウンフォースが減少し、その結果フロントタイヤのグリップが減り、極端なアンダーステアが突然出現し、コースアウトしてしまう。 だから、最近のF1では後ろのマシンが前のマシンと一定の距離を取らなければ、フロントタイヤのグリップが安定しない。 コーナーリング中に前のクルマと一定の距離をおくと、直線で離され、その後のブレーキングで抜くことができない。 結果的にオーバーテイクシーンが減ることになる。 マス・ダンパーはこのフロントと地面の距離の変化を抑えるために用いられている。 ルノーはこれを使うことにより、安定したダウンフォース量を得ている。 特に路面状況が悪いサーキットでは有効だ。 路面状況が悪いとマシンと地面の距離が一定でなくなるからだ。 もちろん、リアにも装備されていて、同様の効果を得ている。 前後の荷重移動を制限するのでタイヤにもやさしくなる。 このマス・ダンパーを最も有効に活用していたのがルノーだったと言われている。 あるルノー関係者の話だと、マス・ダンパーを使うことにより1周0.2秒速くなるという証言もある。 実際、FIAはフランスGP終了後にマス・ダンパー禁止を通達したが、直接連絡したのはルノーだけだったと言われている。 (一説によればフェラーリにも通知したと言われている) ▽マス・ダンパー禁止の影響 では、ドイツGPでのアロンソ&ルノーの不振はマス・ダンパーの禁止が影響したのであろうか? これを検証するには他のミシュランランナーと比較しなければいけない。 ルノーはドイツGPで5位、6位に沈んだ。 これより上位でフィニッシュしたミシュランユーザーはライコネンとバトンだ。 日曜日に気温が上昇したことにより、ミシュランはリアタイヤのブリスターに悩まされた。 これはルノーだけの現象ではない。 だから、タイヤのブリスターはマス・ダンパー禁止の影響ではない。 今回、ミシュランはかなり攻めたタイヤを持ち込んだが、予想以上に気温があがりブリスターが出てしまった。 レース中盤以降、雲が出てきて路面温度が少し下がった状態では、ブリスターは出ていない。 確かにファーステストラップを見るとフィジケラとアロンソのタイムは8位と9位。 ミシュラン勢でトップだったライコネンから約0.5秒落ちだ。 とても速いとは言えないタイムだが、今回はマス・ダンパーの影響というより、タイヤ選択のミスと見た方がいいだろう。 もちろんマス・ダンパー付きのマシンでテストしてきたタイヤを持ち込んだのであり、マス・ダンパーなしでは有効に機能しなかった可能性はある。 それならば次回以降、マス・ダンパーなしのマシンでタイヤテストして、タイヤ選択をすればいいだけだ。 昨年、中盤以降ルノーはマス・ダンパーを導入したが、彼らはそれ以前でも十分に速かったことを思いだそう。 この三戦はブリヂストンタイヤが優勢で、今回ルノーにマス・ダンパーがあろうとなかろうとミハエル・シューマッハーの勝利は動かなかっただろう。 ホッケンハイムのような急ブレーキと急加速を繰り返すようなサーキットではマス・ダンパーは有効だ。 だからマス・ダンパーがあれば、アロンソが3位でフィニッシュできていた可能性はあるが、だからといってフェラーリの二台に勝てたとは思えない。 ルノー対フェラーリという面で見れば、両方ともマス・ダンパーを使用しているので、その影響は同じと言う意見もある。 だが、フェラーリは、ルノーほどマス・ダンパーに依存していなかったようなので被害は限定されるだろう。 彼らははモナコGPでは使用したが、路面がスムースなフランスGPでは使用していない。 彼らのマシンは通常ダンパーの使用を前提として作成されている。 一方のルノーはマス・ダンパーを前提に設計されている。 だから、マス・ダンパー禁止の影響はルノーの方が多いだろう。 実際、今回のマス・ダンパー禁止をFIAに働きかけたのはフェラーリだと言われている。 フェラーリもマス・ダンパーを使用していたにもかかわらずだ。 これが事実だとすると、とても興味深い。 つまり、フェラーリはマス・ダンパーなしでも影響が少ないが、ライバルであるルノーには決定的に不利な影響を与えられると彼らが考えているということだ。 ▽マス・ダンパー禁止の理由 FIAはマス・ダンパーを空力に影響を及ぼすデバイスと見なした。 車体と地面の間の距離を一定に保ち、ダウンフォース量を増やすためのデバイスという解釈だろう。 空力的付加物は可動してはならないというレギュレーションはある。 だから中でおもりが動くマス・ダンパーは空力的付加物であり、違反だという理屈だ。 また、マス・ダンパー内のおもりがマシンに固定されていないのも、違反の疑いがあるそうだ。 だが、この理屈はおかしい。 車体を水平に保つデバイスが違反というならば、コイルスプリングやダンパーも違反ではないのか。 だいたい、車体の中に収まっているマス・ダンパーが空力付加物と見なすのは、少し解釈に無理があるのではないだろうか。 これはどこかで見たことが様な気がする。 そうだ、昨年のBARの燃料タンク疑惑の時と同じではないか。 それまでは使用を認めておきながら適当な理由をつけて突然、使用を禁止する。 マス・ダンパーが違法か合法かはハンガリーGP後に決定がなされる。 だが違法の決定はほぼ間違いがない見込みだ。 なぜなら、BAR失格の際でもそうだったが、FIA自身がその判決を下すからだ。 FIAはそれまでは(要するに判決が出る前のハンガリーGPだけは)マス・ダンパーの使用を認めるとルノーに伝えたと言われる。 これ以前のポイントは剥奪されないが、少なくないインパクトがルノーにはあっただろう。 本来できるはずの開発作業のいくらかは、この対策に振り向けざるを得ない。 私はアロンソはマス・ダンパーなしでもチャンピオンになれると思う。 だが、それには条件がある。 ミシュランタイヤがブリヂストンタイヤと少なくとも同等程度のタイヤを持ち込むことだ。 少なくともここ三戦、ミシュランタイヤのパフォーマンスはブリヂストンタイヤに劣っている。 ミシュランが上位に来ているのは、トヨタが予選でミスし、ウィリアムズが信頼性を欠いているからだ。 もしこれらがなければ、ブリヂストンが上位5台を独占してもおかしくない状況だ。 マス・ダンパーは有効なデバイスであるとは思うが、それがなければ勝てないと言うほどのシステムではないと思う。 それよりもタイヤのパフォーマンスの方が決定的な影響を与えるだろう。 ▽なぜ、今マス・ダンパー禁止なのか? どういう理由があるにせよ、シーズン途中に急にレギュレーションの解釈を変更するのはやめてもらいたい。 ルノーはマス・ダンパーを採用する前に、FIAにレギュレーションに合致するかどうか確認して、OKをもらっている。 それをシーズン途中に違法とするのは全く理解できない。 昨年のBARを見るまでもなく、FIAの判断には一貫性がない。 エンジンの開発を凍結するとか、共通のECUを使用するとか、最近FIAのやることは理解に苦しむことが多い。 FIAはなぜこの時期にマス・ダンパーを禁止にしたのか? それはよくわからない。 ルノー独走により、チャンピオンシップが面白くなくなりそうだから、ルノーに意地悪したのか。 それとも以前、F1以外のチャンピオンシップを立ち上げると脅していたその報復なのか。 来年以降、エンジン開発を制限したいFIAとの対立があったとも、言われている。 その動機が何にせよ、これがチャンピオンシップ争いを左右する重大な問題にならないことを願う。

3 thoughts on “ドイツGPウラ観戦記 アロンソの敗因はマスダンパーなのか?

  1. 宙太郎

    詳細説明助かりました、いつの時代も横槍で有利不利が作り出されますね。
    シーズン途中のレギュレーション変更なんて、強いチーム(良いマシン製作している)への嫌がらせなんでしょうね。

  2. プロスト

    結局、FIAはフェラーリ贔屓なんですよ。
    フェラーリが得をするようにFIAは動くのは明白です。V12の燃費の悪さを燃料給油可能にして克服させたり、マクラーレンのブレーキバランスシステムを禁止させたり、テストの日数を制限させたり(フェラーリは自社のテストコースがあるので、こっそりテストが出来る)、実はエンジンも勝手にどんどん進化させていると思いますね。FIAもそれを見てみぬ振りをしていると思います(あまりにもバレバレなので、トップスピードを控えるように忠告したそうですけどねbyK井ちゃん)。
    古館流で言うなら、フェラーリはまさに日本で言うところの巨人状態ですね。

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