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ウィリアムズ売却はバラ色の未来の始まりなのか?

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F1界の名門、数々のタイトルを保持するウィリアムズの売却が正式に発表されました。売却先は投資ファンドです。これでウィリアムズが消滅するという最悪の事態は避けられました。ではこの売却でウィリアムズの未来はバラ色となるのでしょうか。

売却された後も当面はウィリアムズの名前と現在、イギリスのグローブにあるファクトリーもそのまま存在します。これは当然のことで由緒正しいウィリアムズの名前は大きな価値があるので変更する理由はありません。またF1のファクトリーも高度で特殊な工場なので、いきなり移転することはないでしょう。

売却金額は約190億円で、負債や手数料(契約や資産内容審査等)を差し引くと140億円がウィリアムズの株主に支払われる。これは消滅寸前のチームにとっては悪くない金額です。

ただこれでウィリアムズにバラ色の未来が開けるかというと、そうとは言えないと思います。それは売却先が投資ファンドだからです。投資ファンドとはお金持ちとか機関投資家からお金を集めて、それを企業に投資して投資額より高いリターンを得て投資家に還元するのが基本的なビジネスの成り立ちになります。

190億円支払うと言うことは、それ以上の価値にしてまた別の人や機関に売却するのが目的になります。こう書くと簡単そうに聞こえますが、それをF1の世界で実現するのは容易ではありません。

ビジネスの世界だとそれは簡単だとは言いませんが、実現の可能性あるでしょう。例えば業績の落ち込んだ老舗企業が売却されたとします。すでに一定の売上金額あるのですから、人や資産をリストラしてコストを削減し、そこに新たに投資をして販売を増やせば企業価値は上がります。

ただF1の場合は、そう簡単にはいきません。まずF1の場合、人と資産はマシンの速さの根幹をなしますから、ここを減らすわけにいきません。逆に投資を増やして人も施設も増強しなければ、チームの競争力は増えません。

確かにコンコルド協定により、一定の収入は望めます。しかも予算制限が実施されるので、大幅な赤字になることもないでしょうが、そもそもウィリアムズの年間予算は予算制限以内ですから、あまり影響は受けません。収入よりも費用を低くすれば利益はでますが、それではマシンが速くなることはないでしょう。そしてマシンが速くならなければ、チームの価値が上がることもありません。もちろんF1全体の収入が増えれば分配金も増えますが、これ以上レース数を増やすのに限界がある事は明らかです。

それに過去にも機関投資家がF1チームを買収したことはありますが、あまりうまくいったとはいえません。F1チームはかなり特殊なのでその運営経験がないと成功するのは難しいと思います。

普通の企業だと人気製品や人気サービスを開発したら、それをたくさん提供して事業を拡大することが可能です。世界中の国で販売すれば大きな売上が見込めます。しかしF1のマーケットには限りがあります。サッカーは世界中どこに行ってもだいたいNo.1のスポーツですが、F1はそうではありません。また先ほども述べましたがレース数はほぼ限界です。これ以上増やすことはできません。またテレビ放映権収入も上限に近づきつつあります。

簡単に言えばF1チームは儲かるものではないのです。

サッカーや野球なら自分達で努力して、スタジアムへ来るファンを増やすこともできますが、F1ではそれもできません。あとはスポンサー収入を増やすことですが、これも速くなければ増えないということでまた議論の振り出しに戻ります。

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しかもお金をかければ速くなれるかというと、そうでもありません。投資資金と速さには関連性はありますが、一番お金を使っているチームが最速でないのは明らかです(特に今年は)。問題はお金の使い方にあります。

それを外部の投資家が判断するのは難しいでしょう。通常、投資ファンドが企業を買収すると優秀な経営者を引っ張ってきて経営を任せることが多いです。それは買収するのと企業を経営するのとはまた別の能力が必要な事を彼らもわかっているからです。

以前、チームを買収した投資ファンドはこの人選を誤りました。だから今回買収した投資ファンドも優秀な経営者、例えばトト・ウルフとか、クリスチャン・ホーナーとかを引き抜く位のことをしないと成功は無理でしょう。ただヨーロッパのF1世界の人間がアメリカからやってきた投資機関のオファーに飛びつくとは思えません。

今は売却直後なのでウィリアムズチーム内部の人間と機関投資家との間の軋轢はないでしょう。しかし今後活動が進んできても成績が上がらない場合、問題が表面化することも出てくると思います。そう考えるとこれでハッピーエンドとは到底思えません。

逆にこれからが大変なのだと思います。それでも一人のF1ファンとしてみれば、名門ウィリアムズが生き残ったことを喜ぶべきなのでしょうが、素直に喜べない自分がいることもまた確かです。