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フェルスタッペン勝利への三つの鍵 USGP観戦記

今年のタイトル争いが佳境を迎えようとしている。アメリカGPはタイトル争いに更なる記憶を追加してくれた。スタートでフェルスタッペンを出し抜いたハミルトンに対して、作戦面で逆転したレッドブルとフェルスタッペン。そして最後は2台が僅差で争うスリリングな展開。そして結果は…..。激しいバトルの見られたアメリカGPを振り返って見ましょう。

ギリギリの戦いを制したフェルスタッペン

▽予選で逆転したマックスとスタートで逆転したハミルトン
タイヤに厳しいこのサーキットでの決勝レースでは、ソフトタイヤの出番はほとんどありません。そのためQ2でもほとんどのドライバーがミディアムでアタックしていました。そして迎えたQ3では全ドライバーがソフトタイヤでアタックします。ここでメルセデスはソフトタイヤを一周に渡ってタイヤを活かすことができませんでした。セクター3ではタイヤの熱だれが出てしまい、タイムが落ちてしまいます。その為、レース前は不利と思われていたフェルスタッペンがポールポジションを獲得しました。

さらにメルセデスは、ボッタスのエンジンをまたも交換。これでボッタスは5グリッドダウンが決定。予選4位のボッタスは9位からのスタートになり、1位フェルスタッペンと3位ペレスに挟まれて、ハミルトンは1人で2台のレッドブルを相手に戦うことになります。

しかし劣勢を予想されたハミルトンはスタートでフェルスタッペンを出し抜きます。路面の汚い偶数グリッドからのスタートだったハミルトンは蹴り出しはほぼ同じでしたが、その後の加速でフェルスタッペンに並びかけます。すかさずイン側を締めに行くフェルスタッペンでしたが、その時にはハミルトンが完全に並んでおり、防ぐ術はありませんでした。

ただスタートで前に出たハミルトンでしたが、その後はフェルスタッペンを引き離すことができません。明らかにフェルスタッペンの方が速いのですが、ストレートが速いハミルトンを抜くことができません。ハミルトンはミディアムでは苦しんでいて、本当は早くタイヤ交換をしたかったのですが、そうすると新品のハード2セットを持っていても最後までタイヤが持つかどうか心配でした。テキサスのサーキットは路面も粗く、中高速コーナーも多く、タイヤに厳しので、もし最後までタイヤが持たなければ最悪2位の座を失いかねない状況でした。この時、僅差の位置でペレスが3位につけてハミルトンにプレッシャーを掛けていました。もし3位がボッタスだったらまた違った作戦をとる可能性もあったので、ボッタスのペナルティとペレスの好走はレース展開に大きな影響を与えていました。

ストレートの速いハミルトンをフェルスタッペン抜くことができません。だからハミルトンは常にフェルスタッペンより早くタイヤ交換をすれば、順位を守れました。ただしタイヤが最後までもてばの話です。それにトップを走るハミルトンより2位のフェルスタッペンの方がギャンブルを仕掛けやすいポジションです。フェルスタッペンは同じように走っても絶対に1位には慣れないので、思い切った作戦を取りやすく、また3位にペレスがいたので、最悪作戦が失敗しても最後にペレスと順位を入れ替えれば2位は確実という考えもありました。

スタートで前に出たハミルトンだったが、保守的な作戦がレースを難しくした

▽レッドブルのギャンブル
そこでレッドブルはわずか10周目にフェルスタッペンをタイヤ交換に入れます。これにはハミルトンのダーティエアの後ろで走ることにより、スライドしタイヤの消耗が激しかったことも影響しました。一方のハミルトンは速くはありませんが、トップなのでフリーエアで走れてタイヤの状態は悪くはありませんでした。

タイヤに厳しいオースティンでは、アンダーカットは大きなアドバンテージがあります。1秒差につけていたフェルスタッペンが先にタイヤ交換すれば、次の周にハミルトンがタイヤ交換しても抜かれることは確実です。実際、アウトラップでフェルスタッペンはハミルトンのピットストップウィンドウ内に入り、実質的にレースをリードします。

だからフェルスタッペンが先にタイヤ交換した時点で、メルセデスの取れる作戦は限られたものになりました。さらに3位につけていたペレスもメルセデスにとっては厄介な存在でした。フェルスタッペンがタイヤ交換した時点で、ペレスはハミルトンの4.8秒後方にいました。そして12周目にペレスがタイヤ交換をします。こうなるとあまりハミルトンを長く走られていると、ペレスにもアンダーカットされる危険性があります。そのためハミルトンも13周目の終わりにはタイヤ交換をします。これでハミルトンはフェルスタッペンの6.8秒後方で戻ることになります。

しかしながらペレスもまたコックピット内で苦しんでいました。彼は食あたりで体調が悪いのに加えてマシンのドリンクシステムが故障し、1周目の終わりから水分補給が取れない状況でした。20周を過ぎた辺りからは力も入らず、視力も落ちている状況でした。彼のキャリアの中でもっとも長いレースとなりました。それでも2週連続で3位になったペレスは、良い仕事をしたと言えるでしょう。次の地元のメキシコGPが楽しみです。

トップに立ったフェルスタッペンでしたが、ハードを履いた第2スティントは、ミディアムを履いた第1スティントより難しくなりました。フェルスタッペンはハードで走り始めたとき、ミディアムほどペースがないことに驚いたと述べています。またアウトラップでハミルトンをアンダーカットするためにハードにプッシュしたことも、タイヤの寿命にも悪影響を与えてしまい、2度目のタイヤ交換した後に確認するとキャンバスまで見えるような状況でした。ハードでペースの上がらないフェルスタッペンに比べて順調に走るハミルトンは、タイヤ交換直後には6.8秒あった差を徐々に詰めてきます。

レースの折り返し地点の28周目にはハミルトンはアンダーカットレンジにとらえました。ここで再びレッドブルが先手を取って29周目に2度目のタイヤ交換を実行します。残りは約半分も残った時点で、最後のタイヤ交換をするのはかなりリスクがあります。それでも勝つにはやるしかありません。

一方のハミルトンは今回、37周目まで引っ張りました。この時、ペレスは体調不良で正直走らせているだけで精一杯ということで、ペレスにアンダーカットされる心配がなかったからです。

ハミルトンが2度目のタイヤ交換後に戻ったとき、フェルスタッペンとの差は8.8秒で、残りは19周です。変えたばかりのタイヤのアドバンテージを活かしてハミルトンは、その後9周で毎周平均0.67秒を削ってきます。

またフェルスタッペンは周回遅れにも悩まされていました。41周目から42周目にかけてライコネンと角田を抜く
のに手間取り、リードを吐き出してしまいます。

体調不良とドリンクシステム不調でも、表彰台を獲得し、フェルスタッペンと喜びを分かち合うペレス

しかしフェルスタッペンにとって、ハミルトンが差を詰めてくると、予想していたよりも状況は悪くありませんでした。フェルスタッペンは第2スティントでタイヤに苦労したことを学習し、できるだけタイヤを温存し、来たるべく最後のハミルトンとのバトルに備えていました。

タイヤ交換直後からフェルスタッペンは、とにかくタイヤを労りながら走りました。タイヤをスライドさせずに、タイヤロックを避け、ホイールスピンをさせないように、慎重にマシンを走らせるフェルスタッペン。これ口で言うのは簡単ですが、タイヤを労りながらも、タイムは記録しなければならなくて、走るフェルスタッペン。誰でもできる走りではありません。

48周目にハミルトンが2.1秒差まで詰めてきましたが、フェルスタッペンのダーティエアに邪魔されて、近づけません。ここで逃げ切れるかと思われたフェルスタッペンでしたが、残り2周でミック・シューマッハーのハースに邪魔されます。ミックは単独で走っていたのですが、セクター3ではなかなか抜かせるポイントがありませんでした。ここで一気にハミルトンが差を詰めてきます。そうなるとハミルトンはDRSを使えます。

ところがフェルスタッペンの邪魔をしていたミックが、今度はフェルスタッペンをアシストします。ミックは最終コーナー手前で2台に道を譲りましたが、この時フェルスタッペンはDRS検知ラインの過ぎてからミックを抜きました。つまりフェルスタッペンはホームストレートで誰も前にいないのにDRSが使える幸運を得ました。これでフェルスタッペンはハミルトンとの差を少し広げます。

ただそれでもターン1での二人の差は1秒以内。このままバックストレートに入れば、ハミルトンはDRSを使えますが、ここでフェルスタッペンは最後の力を振り絞り、DRS検知ラインの手前で1.3秒差をつけることに成功します。これではストレートが速いハミルトンでも抜くことができません。

ただこのフェルスタッペンの最後の力走もまた簡単ではありませんでした。彼のタイヤはほぼ終わっていたからです。

こうして二人の偉大なドライバーの対決は、フェルスタッペンの勝利で終わりました。

ほとんど終わっていたタイヤで、なんとかハミルトンを抑えきったフェルスタッペン

▽フェルスタッペン勝利の三つの鍵
このフェルスタッペンの勝利には三つの要因があったように思えます。ひとつ目がレッドブルのセットアップ変更です。全般的に見てレッドブルの方がやや競争力があると思いますが、その競争力を引き出すセッティングを決めるのはレッドブルの方が難しいようです。だから彼らはトルコで苦戦しましたが、ここアメリカでは巻き返しに成功しました。金曜日から土曜日のセットアップの変更は、レッドブルに競争力をもたらしました。

二つめの理由はメルセデスが車高を上げざるを得なかったことです。路面がバンピーなオースティンで、メルセデスはボトミングをしてアンダーフロアを交換しなければならないほどでした。またガスリーやアルピーヌの二人はマシンにダメージを与えるほど、路面はバンピーでした。

金曜日の最初の時点ではメルセデスの方がペースが良かったのですが、メルセデスは車高を上げざるを得ず、これはパフォーマンスに影響を与えました。ダウンフォースは減少しますし、ストレートで車高を下げて、デヒューザーをストールさせることにより、最高速を稼いでいたメルセデスにとって、そのストールの効果が減少することにより、最高速に影響がありました(それでも十分速かったですが)。

三つめの理由は気温です。この週末は高い気温になりました。気温が上がるとレッドブルの競争力は増してきますが、同時にメルセデスはセットアップを間違えたことを認めています。そのためこの暑さと強い風に対応できず、ドライバーは難しいドライビングを強いられました。ハミルトンは常にリアの不安定に悩まされました。

予選でも一周に渡ってタイヤを適切に動作させることができませんでした。一方フェルスタッペンはそのような心配はありませんでした。

現在、この2チームの競争力にはほとんど差がなく、ほんの少しの温度や天気の状況、セットアップや些細なミスで結果が大きく変わります。

残り5レースはほんの少しの差で、メルセデスが有利になることもあり、レッドブルが有利になることもあります。タイトなタイトル争いはこらからも続きそうです。

ただレッドブルがひとつだけ有利な点があります。それがホンダのPUです。メルセデスはエンジンの信頼性に不安を抱えており、ボッタスだけではなく、他のメルセデスPU使用ユーザーもエンジン交換をしてペナルティを受けています。あまりにもエンジン交換が多いので製造が間に合わず、ベッテルなどは希望しているにも関わらずエンジン交換ができないほどです。もはやメルセデスにはこのトラブルを修正することができません。

なのでハミルトンは恐らくもう一度エンジン交換のペナルティを受けると思われます。それは彼ら不利で、なおかつ追い抜きが比較的容易なメキシコかブラジルと見られています。ただこれだけタイトな争いを繰り広げていれば、たったひとつのリタイヤが命取りになります。

その不安を乗り越えてハミルトンがチャンピオンになるのか、それともホンダ最後の年にフェルスタッペンが初めてのチャンピオンになるのか、目が離せない戦いがまだまだ続きます。

USGP レース結果