F1 ニュース&コラム Passion

マックスのスーパーショット メキシコGP観戦記

絶対的に有利なはずのレッドブルがまさかの予選3番手で、フロントロウをメルセデス独占という中でスタートしたレース。スタート直後のスーパーなオーバーテイクでトップに立ったフェルスタッペンが独走したメキシコGPで何が起こったか?振り返って見ましょう。

連勝でリードを広げたフェルスタッペン

まずは予選になります。予選のQ3の最初のアタックで驚きの結果が出ます。なんとメルセデスの2台が1位と2位でメキシコを得意にしているはずのフェルスタッペンが3位という意外な結果です。Q1、Q2と順調に来ていたフェルスタッペンに、これまで力を抑えていたメルセデスが最後の力を振り絞っての一撃です。

予選で大逆転したように見えるメルセデスでしたが、実はフリー走行での実際の差は記録されたタイム差よりもかなり小さかったのです。メルセデスのフリー走行での各セクタータイムのベストタイムを比較するとレッドブルより0.1秒ほどしか変わりません。毎年、ここでは冷却に苦しむメルセデスですが、今年はそれを解決し、長い直線でタイムを刻んできました。

予選の最後のアタックでペレスがブレーキングをミスしてコースアウトし、その埃の煙を見たフェルスタッペンがアタックを中止することもありました。この時、ペレスの前を角田が走っていたので、角田がレッドブルのアタックを邪魔したというように思われましたが、角田は無線で二台のレッドブルが後ろから来ることを知らされており、しかもコーナーの多いセクター2区間だったので、コースを外れて二台を先に行かせようとしました。たまたまそこでペレスがミスをしてコースアウトしてしまったので、角田が悪いと言われてしまいましたが、角田は無実です。

運命を分けたスタート直後のターン1、三台並んで突入するトップ3

▽マックスのスーパーオーバーテイク
それではスタート直後から振り返りましょう。予選1位はボッタス、2位はハミルトン、3位フェルスタッペンです。蹴り出しはハミルトンとフェルスタッペンが良く、ボッタスも悪くはないものの少しだけ出遅れます。そのためイン側スタートのハミルトンがボッタスのインに並びかけます。これでメルセデスの2台がコースを塞いだので、フェルスタッペンは行き場がありません。ただフェルスタッペンは長い直線を活かしてボッタスのトウに入りボッタスに急接近します。そこであろう事か、ボッタスがイン側にいたハミルトンに寄せていき、アウト側にコースが空きました。トウから抜けたフェルスタッペンは迷うことなく、そのアウト側にマシンを向けます。これでターン1の入口では3台が並びます。スタート直後のターン1に向かう速度は、カレンダーの中でもメキシコが一番速い速度でアプローチします。

ここで中にいたボッタスがイン側のハミルトンとの接触を避けるために最初にブレーキングをします。イン側にいたハミルトンは普段マシンが通らないコースなのでダスティで汚れていたのと、ターン1がきついコーナーなのでこちらも早めにブレーキングをしました。一番不利だと思われていたアウト側のフェルスタッペンはレコードラインだったので一番グリップがいい路面でした。しかもフリー走行か予選と何回も走っていたのでグリップ感もわかっています。そこでギリギリまでブレーキングを我慢します。フェルスタッペンのラインはアウトからアプローチしてアウトに抜けていくの、高いボトムスピードを維持できました。なので後退したボッタスと汚い路面で苦しむハミルトンを一度にパスすることに成功します。これは数年に1回かもしれないすごいオーバーテイクでした。しかもすごいのは、フェルスタッペンはこれをターン1のアウト側にはみ出ずに走り抜けたことです。確かにフェルスタッペンの条件は三人の中で一番良かったのですが、それでもこのオーバーテイクは歴史に残るオーバーテイクとなるでしょう。

後から振り返るとこのターン1でのオーバーテイクがチャンピオンを決めたと言われるかもしれないほど、すごいオーバーテイクでした。

独走で連勝したこの日のフェルスタッペンには誰も追いつけなかった

オーバーテイクが難しくなったとか、少ないとか言われる最近のF1ですが、この日のようなオーバーテイクが見られるから、F1を観ることは辞められません。それほど素晴らしいフェルスタッペンのオーバーテイクでした。一度にライバルチームの2台を抜き去るなんて、そうそう見られるものではありません。

有利なレコードラインを走ったフェルスタッペンでしたが、フリー走行や予選とスタート直後では条件も違います。なのでこのオーバーテイクはかなりギャンブルだったと思いますが、それでもそれを決めてしまうフェルスタッペンのすごさがわかります。

またメルセデスはフリー走行において、このターン1で複数回飛び出していました。なのでギリギリまで我慢するのは難しかったこともあります。ハミルトンはフリー走行で2回、予選ではロックアップしていました。メルセデスにとってこのターン1はかなり難しいコーナーとなっていました。メルセデスはこのコーナーにうまくマシンを合わせることができませんでした。

メルセデスはスタート前にハミルトンにボッタスのトウを使わせて、フェルスタッペンを抑え込む作戦でした。さすがのフェルスタッペンでもメルセデスが二台縦に並んでいたら、二台同時に抜くことはできません。ところがハミルトンの蹴り出しが良く横に並んでしまったでのボッタスのトウを使えなくなってしまいました。ボッタスがイン側にマシンを寄せた理由はわかりません。F1の小さなミラーで後ろの状況を完全に把握することは不可能です。ただボッタスがアウト側を走り続けて、ハミルトンがコース中央を走ればフェルスタッペンの行き場はなくなります。こうすればメルセデスの1-2体制ができたのですが、メルセデスにとっては悪夢のようなターン1となりました。ハミルトンにしてみればボッタスがフェルスタッペンにドアを開けたとぼやきたくなる気持ちもわかります。

こうしてフェルスタッペンがトップに立ちます。そしてハミルトンがフェルスタッペンとの距離が一番近かったのはこのスタート直後のターン1となりました。この後二人の差は広がるばかりです。ミディアムでもハードでもフェルスタッペンは自由自在にペースをコントロールできていました。

メルセデスはすぐにハミルトンにはフェルスタッペンに追いつけるペースがないことに気がつきます。日曜日のような暑いコンディションではリアのグリップが足りませんでした。タイヤが暑くなり過ぎるからです。レッドブルはメルセデスより大きなリアウィングを持ち込み、リアのダウンフォースがあり、リアタイヤのスライドを防ぎ、リアタイヤの温度を管理することができました。もちろんトップを走っていればタイヤの冷却ということではより簡単になります。

日曜日はとても暑くなったので、このエンジンやタイヤを冷やすことはとても重要な意味を持ちました。
メキシコGPは高度2200メートルの高地にあるので空気が薄い。その分、空気抵抗は低くなるのですが、得られるダウンフォースもその分減ります。ほとんどのチームは最大のリアウィングを持ち込んでいましたが、それでもモンツァレベルのダウンフォースしかえられないといえば、どれほど空気が薄いかはご理解いただけると思います。そして空気が薄ければ冷却も厳しくなります。

大観衆の後押しを受けてハミルトンに迫ったが3位のペレス。それでも連続表彰台でチームへ貢献した

▽ハミルトンとペレスの3ポイント掛けた戦い
ボッタスがスタート直後にリカルドと接触して後退すると、レッドブル2台とハミルトンの戦いになります。この日のハミルトンはフェルスタッペンには敵わなかったので、ライバルはペレスとなりました。ペレスはミディアムで速く28周目にはハミルトンは1.5秒差にまで近づきます。ペレスにとってアンダーカットを仕掛けるチャンスです。しかしここで問題がありました。それはこのタイミングでタイヤ交換したら、まだタイヤ交換していないルクレールとピットの出口で接戦になることでした。なのでレッドブルは確実にルクレールの前で戻れるようにもう一周走らせることにしました。しかし先にタイヤ交換されると抜かれる可能性のあったメルセデスが先に動きます。28周目の終わりにハミルトンをピットに戻してタイヤ交換します。

ここで素早いタイヤ交換をしたハミルトンですが、ターン1でルクレールと並びますが、先に行かれます。これで新品のハードを履いたハミルトンはせっかくの新品タイヤを活かすことができません。ただルクレールも悪いタイムではなかったので、大きなタイムロスはありませんでした。

なのでペレスが次の周にタイヤ交換すればハミルトンの前に出られる可能性もありました。ただペレスはスタイアウトします。この時点ではタイヤ交換したペレスとハミルトンの差はコンマ数秒しかなく、確実に前に出られる保証はなかったからです。ルクレールがハミルトンの前にいるなら、確実にもう一周してからタイヤ交換した方が良いと判断したようでしょう。ところがなんとルクレールが30周目の終わりにタイヤ交換してハミルトンの前にスペースが出現しました。ここでハミルトンは新品ハードを活かしてタイムアップ。もう次の周にタイヤ交換してもペレスはハミルトンの前では戻れなくなりました。これによりペレスはタイヤを引っ張るしかなくなり40周目にハードに交換して、若いタイヤでハミルトンを追いかけます。

メルセデスの予想では最終ラップでペレスが追いつく予想でしたが、それよりはるかに早い(71周レースの)61周目にペレスはハミルトンに追いつきます。タイヤの距離(11周も)が違う二人なので、ペレスが抜くかと思われましたが、なかなかペレスはハミルトンに仕掛けられません。

というのも高地のメキシコでは空気が薄いので冷却の効率が悪く、前のマシンに接近するとたちまちエンジンやタイヤの冷却に問題を抱えてしまいます。なので何周も続けて後ろからプレッシャーを掛けることができません。1〜2周したらバックオフしてマシンを冷却しなければなりません。これではDRSを使えてもなかなか抜くことができません。しかもメルセデスは直線が速く、ペレスがDRSを利用しても差を詰めることすら難しい状況で、最後まで追い抜くことはできませんでした。

最後の最後にファステストラップを記録して、仕事をしたボッタス

▽メルセデス執念の1ポイント奪取
そして最後のもう一つのドラマがありました。メルセデスはフェルスタッペンが持っていたファステストラップの1ポイントを奪おうとポイント圏外を走っていたボッタスに新品のソフトを履いてファステストラップを狙います。ポイント圏外の場合、ファステストラップの1ポイントは得られませんが、この場合誰にもファステストラップの1ポイントが与えられないので、結果的にフェルスタッペンの1ポイントを剥奪できるからです。

まずは63周目にボッタスがタイヤ交換をします。しかしこの時コースに戻ったボッタスのすぐ後ろにフェルスタッペンがいました。周回遅れのボッタスはトップのフェルスタッペンに譲らなければなりません。こうして前に出たフェルスタッペンですが、ここでわざと遅く走りボッタスにアタックをさせません。その後、ボッタスを前に行かせますが、その後すぐに追いつき、またブルーフラッグを振らさせて、前に行きます。これではボッタスはいつまでたってもファステストラップが狙えないので、メルセデスは67周目にもう一度タイヤ交換をします。そうして最終ラップでなんとかファステストラップを記録し、フェルスタッペンの1ポイントを執念で奪い取りました。

チャンピオン争いで苦しい状況のハミルトン

▽大きく傾いたチャンピオン争いの行方
このフェルスタッペンの優勝で、ハミルトンはかなり苦しい立場になりました。これで二人の差は19ポイント差。次のブラジルでフェルスタッペンが勝てば26ポイント差をつけることができます。これはフェルスタッペンが一度リタイヤしても、まだチャンピオン争いをリードできることを意味します。またブラジル終われば残りは3レース。ハミルトンが3連勝してもフェルスタッペンが2位に入り続ければチャンピオンが決まります。しかも次のレースでハミルトンはエンジンの交換を計画していると言われています。ただいくら抜きやすいブラジルとは言え、エンジン交換すればフェルスタッペンに勝つことは難しいでしょう。もちろんブラジルは荒れることも多いので、絶対とは言えませんが、ハミルトンはかなり不利な状況です。

二人のチャンピオン争いにとって、次のブラジルがチャンピオン争いに決定的な意味合いを持ちそうです。