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ハミルトン衝撃の逆転劇の裏側 ブラジルGP観戦記

ハミルトンの予選失格からの最後尾からのスプリントレースでの5位。そしてエンジン交換ペナルティでの10番手グリッドからの大逆転優勝で盛り上がりを見せたブラジルGPを振り返って見ましょう。

48周目、両雄が激しいバトルを繰り広げる

▽ハミルトン失格の謎
まずは衝撃のハミルトンの予選失格から週末は始まりました。彼のDRSが閉まっている時は問題ないのですが、DRSが開いた状態では規定(85mm)より2mm間隔が開いていたと言うことでタイム抹消。スプリントレースでは最後尾からのスタートが決定します。確かにこれは規定違反しているので、失格に文句が言えないように言えますが、通常F1は高速でバンピーな路面を走るわけで、ねじが緩んだり縁石に乗り上げた衝撃でパーツが壊れたりするわけです。なのでこのような場合、FIAの承認を受けて修理されていることが許されています。実際、メキシコでレッドブルも修復をしてます。

ところが今回はなぜか修復も許されずにスチュワードに報告されて、このような結果になってしまいました。これではメルセデスとしては、納得がいかないと思います。私たちが見たいのは二人のすごいドライバーがバトルする姿です。このようなペナルティでそのバトルが見られないのは、とても残念です(最終的には素晴らしいバトルが見られましたが)。

このようなペナルティが出てしまった以上、今後はレース中に接触してパーツが最大幅より飛び出しているマシンはみんな失格になります。それが良いこととは思えません。

メルセデスはこの判定に抗議をすることも考えました。そうすればスプリントレースを前のグリッドからスタートできます。しかし最終判決がレース後に出ることを考えると、ハミルトンが前からスタートして優勝したとしても、あとから失格になることも考えられます。そしてFIAを相手に抗議しても勝った事例はほとんどありません。

メルセデスは自分達のマシンに競争力ある事を知っていました。だから抗議をせずに最後尾からスプリントレースをスタートしても10位くらいまでには上がれると予想しました。そこでエンジン交換のペナルティで15位からスタートしても、決勝レースでは4位にはなれるとシミュレーションしました。激しいチャンピオン争いをしている今、レースで無得点に終わるリスクは冒せません。なのでメルセデスは抗議しないことにしました。そしてハミルトンの走りがシミュレーション以上だったのは、みなさんがご存じの通りです。

大逆転で優勝を飾り、ブラジル国旗を手にウィングランするハミルトン

▽幸運のスプリントレース
不運に見舞われたハミルトンでしたが、そんな彼にも幸運が残されていました。それがスプリントレースです。スプリントレースは24周あります。これは決勝レースが延長されたのと同じ意味があります。それだけ追い上げるチャンスが増えたと言うことです。そしてハミルトンは実際に最後尾の20位から5位まで追い上げます。これで日曜日の決勝は10位から(エンジン交換のペナルティで5位後退)スタート出来ます。これで最後尾から追い上げるよりは、仕事は楽になります。

日曜日は土曜日よりも気温が高くなりました。土曜日は比較的暑くなく、ボッタスがソフトタイヤを履いてスプリントレースで1位になりました。日曜日が暑くなればレッドブルの方が有利と思われましたが、実際はメルセデスの方がタイヤはいい状態でした。暑い気温なのになぜメルセデスの方がタイヤの持ちが良かったのでしょうか。

今年これまでのレースを見ていると暑いコンディションではメルセデスはタイヤのオーバーヒートに悩まされていました。さらに今年のメルセデスはリアの安定性がよくないのでスライドし、さらにその傾向を悪化させていました。一方のレッドブルは暑い気温のレースでもタイヤの温度管理ができていて、メルセデスよりタイヤの持ちがいい傾向でした。

しかしこのレースでは逆になりました。メルセデスはリアのダウンフォースを付けてリアの安定性を増しました。それでも彼らには強いパワーユニットとディヒューザーを失速させることにより、高い最高速を得られています。レッドブルは直線での不利をセクター2のコーナー部分で巻き返そうとしました。となると当然タイヤを酷使することになります。なので48周目のハミルトンのアタックはギリギリでかわせたフェルスタッペンでしたが、59周目の時はもうタイヤが厳しくなっていてバックストレートので出口でのトラクションがかからず、ターン4に行く前にハミルトンに抜かれてしまいました。

特にこの日のメルセデスは、トラクションのかかりが抜群で最高速自体はトップではなかったのですが、直線前のターン3とターン12の脱出速度が抜群でした。

48周目のフェルスタッペンの走りは少しやりすぎかなと思います。ブレーキングをリリースするのを遅らせるのは、抜かれないためなので理解できます。ただコースアウトしたときのフェルスタッペンはコースから3台分ほども離れています。イモラのオープニングラップのターン1もギリギリの走りでしたが、少なくともフェルスタッペンはコース内を走っています。そう考えると、今回フェルスタッペンにペナルティが出なかったのは幸運でした。

正直、予選失格した直後はハミルトンも決勝レースで勝てるとは思っていませんでした。チームとしても4位になれればいいくらいに予想していました。しかしこの日のメルセデスは最速のマシンでした。特にハードタイヤでのメルセデスは手がつけられませんでした。メキシコGPの観戦記で、フェルスタッペンがチャンピオンになれば、このレースがターニングポイントだったと言われるだろうと書かせて頂きましたが、ハミルトンがチャンピオンになれば、このレースが勝負の転換点だと言われると思うほど、すごい勝利でした。

このレースは2005年日本GPのライコネンの走りと並び称されるでしょう。ライコネンは16台抜きでしたが、ハミルトンは20台しかグリッドにいないのに25台抜きという偉業を成し遂げたのですから。

ブラジルではメルセデスに対抗できなかったレッドブル・ホンダ

▽メルセデスの異次元の最高速
メルセデスはハミルトンに5基目のエンジンを投入し、彼らが抱えていた信頼性の問題も解決されてる模様です。もともとメルセデスのエンジンはほんの少しガスが漏れていたと言われており、それを解決したことでパワーが更に使えるようになったと思われます。

彼らはこのエンジン投入で約20馬力のアドバンテージを得ています。通常は得られても数馬力なので、これはかなりの驚きです。ハミルトンはフェルスタッペンに対して最高速で15Kmも上回っています。トウとDRSが使えたオーバーテイクシーンでは30Kmも差があり、まるで周回遅れを抜くようにフェルスタッペンを抜いていきました。これは大きなアドバンテージです。

このレースでのメルセデスは、リアのダウンフォースを付けてトラクションが良かったので、ストレートで抜き放題でしたし、それにより今シーズンの課題だったリアの安定性が増し、タイヤのオーバーヒートを防ぐことができ、フェルスタッペンがタイヤで苦しむ中、ハミルトンはタイヤの心配をすることなく走ることができました。

一度前に出られると抜くのが難しいフェルスタッペンは、アンダーカットを避けるために早めに2回目のタイヤ交換を強いられ、それがさらにタイヤの負担を増すことになりました。一方のメルセデスはいつもなら最後のタイヤ交換を後ろにずらすことにより、タイヤライフのギャップを作り、それを利用してオーバーテイクを狙うのですが、今回はマシンのペースが良かったので、それよりも残り周回数が多い方がハミルトンが追いつける可能性が高いと判断して、フェルスタッペンの3周後にタイヤ交換させたのは驚きました。しかし的確な素晴らしい判断でした。

ただ新品エンジンのパワーが大きいのは他も同じなので、今後差は縮まるかと思いますが、同様にホンダのパワーも落ちることが予想されるので、これはかなり不利です。レッドブルはスプリントレースで見たように一度メルセデスに前に出られると、抜き返すことはかなり難しい状況です。

しかも残りの3レースはすべて長い直線を持っていて、メルセデスがかなり有利です。もっともここ最近のレースは有利だと思われた方が負けるような展開も多いので、何が起こるかはまだまだわかりません。メルセデスとレッドブルの差はほんのわずかで、ほんの少しでもコンディションがが変わったり、スタートの蹴り出しの成否、コースレイアウト次第で大きくレース展開は変わってくると思われます。

もう少しだけこの最高のシーズンを楽しみましょう。