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ハミルトン圧勝の裏側 カタールGP観戦記

F1初開催のカタールGPでハミルトンを止めるものは、なにもなかった。予選では大差を付けポールを獲得し、全ラップをリードして圧勝。しかもブラジルGPで投入した新しいエンジンを利用することなく独走したハミルトン。チャンピオン争いがますますエキサイティングになってきたカタールGPを振り返って見ましょう。

予選で2位以下に驚異的な差を付けたハミルトン

▽予選から圧倒するハミルトン
まずは予選ではかなりの衝撃がありました。ポールを取ったハミルトンが2位のフェルスタッペンに0.4秒もの大差を付けたからです。ただ驚いたのはそのタイム差ではなくて、どこでそのタイムを稼いだのかという点です。基本的に全てセクターでハミルトンはフェルスタッペンを上回りましたが、セクターごとの二人の差はセクター1 約0.1秒、セクター2 約0.2秒、セクター3 約0.1秒差です。

つまり最もコーナーの多いセクター2でフェルスタッペンはハミルトンに一番差を付けられています。レッドブルがメルセデスはリアウィングでインチキしているので、直線が速いと主張していますが、今やコーナーでもメルセデスはレッドブルに勝っています。実際、予選最後のアタックのトップスピードは二人はほぼ互角です。

しかも驚くべき事に、ハミルトンはブラジルで投入した新エンジンではなく、それ以前に使っていた古いエンジンを利用していて、この速さなのです。このサーキットでは最高出力がタイムに及ぼす影響が少ないことから、メルセデスは古いエンジンを選択しました。それでもこれだけの差を付けられるのですから、イギリスGP以降アップグレードしていないメルセデスの底力には驚かされるばかりです。

フェルスタッペンはQ3最後のアタックで、ガスリーがメインストレート上に止まっていて、ダブルイエローフラッグがでているにも関わらずアクセスを緩めなかったので、ペナルティで5グリッド降格となり7位スタートとなりました。同じくボッタスは3グリッド降格で6位スタートです。これも少し複雑で当該箇所でダブルイエローフラッグが振られていましたが、イエローのライトは点滅していませんでした。このシステムはまずはイエローフラッグが振られて、それを見たマーシャルがライトを点滅させる端末を操作しイエローやレッドのライトが点滅し、FIAに通知される仕組みになっています。つまりこの時、イエローフラッグは振られていたのですが、システム的にはイエローではなく、イエローのライトも点滅しておらず、FIAもその事実を知らなかったことになります。ただイエローフラッグが振られているのだから、イエローのライトが点滅していなくてもドライバーは減速する義務があると判断して、二人にペナルティを課しました。ボッタスが3グリッドペナルティなのは、彼が通過したときはシングルのイエローフラッグで、フェルスタッペンが通過したときはダブルイエローフラッグだったので5番手降格のペナルティとなり、サインツは減速したのでペナルティはなしでした。

スタートでトップをキープして、独走したハミルトン

ペレスも予選Q2で敗退していたので、スタートでは最大のライバル3人がいないハミルトンが余裕のスタートでトップをキープします。フェルスタッペンはスタートで一気に4位に上昇して、4周目にはアロンソも抜き2位に上がります。この時点でハミルトンとの差は4.2秒。これから追い上げるかと思われましたが、これ以降は差が開くばかりでした。

フェルスタッペンは最初の2周のターン14と15の縁石でフロントウィングのエンドプレートにダメージを受け、マシンの挙動が安定せず、アンダーステアに悩まされまされ、レースを通じてハミルトンに追いつくことはできませんでした。そしてこの縁石がレース後半に大きな影響を及ぼすことになります。

もともと2輪のレースが開催されることが多いこのサーキットは、赤白の縁石部分は低く非常にスムーズなのですが、ターン4、5と13、14、15、特に最後の3コーナーは高速コーナーで、通常の縁石の外側に緑色に塗られている追加の縁石があり、それがマシンやタイヤに大きなダメージを与えます。タイムを稼ぐには積極的に縁石を利用しなければなりませんが、その外側の縁石に乗るとタイヤやマシンにダメージを与えて、それが積み重なることで構造の一部が破壊されタイヤがパンクしたと考えられます。ガスリーが予選でフロントウィングを壊したのもこのターン15でした。速く走るには低い縁石を最大限利用しなければなりませんが、その先にある追加の縁石に度重なって乗り上げると危険でした。

ハミルトンとの差を縮められないフェルスタッペンにレッドブルはワンストップを考えます。この日の速いハミルトンに対抗するには、それしか方法がなかったからです。ただ7位スタートから最初にハードに攻めたフェルスタッペンを17周目にタイヤ交換させたレッドブルがいくら第2スティントでハードを履いたフェルスタッペンとはいえ最後まで走らせるのには無理がありました。ハミルトンは当然、フェルスタッペンの次の周にタイヤ交換します。フェルスタッペンと同じタイミングでタイヤ交換していればセーフティカーが登場しても、何が起こっても逆転されることがないからです。しかもフェルスタッペンはアンダーカット圏内に近づくこともできていませんでした。

ハミルトンのペースについて行けなかったが、2位とファステストラップを獲得したフェルスタッペン

▽続出するタイヤのパンク
その攻撃的な外側の縁石がレースを大きく動かします。まずはボッタスがタイヤパンクに見舞われます。その後も三台が犠牲になります。ラッセルはタイヤライフの32周目、ラティフィは33周目、ボッタスは33周目にタイヤがパンクしました。ノリスだけは24周目にバーストですが、これは例外と言えるでしょう。このようにノリス以外はすべて30周を超えてからパンクしています。つまり先ほど述べたように縁石の攻撃がラップを重ねるごとに積み重なってタイヤがパンクしたと考えられます。

ボッタスは30周を過ぎたミディアムでもペースは良く、グリップもあり、バイブレーションもなく、順調だったと述べていますが突然のタイヤパンクでした。これでボッタスはリタイヤとなり、コンストラクターズ選手権を争うメルセデスには大きな痛手になりました。スタート直後に11位にまで後退して表彰台圏内まで追い上げていただけに残念な結果となりました。

1度目のタイヤ交換をすませていた、ハミルトンもフェルスタッペンも40周を過ぎた頃からのバイブレーションを感じるようになったので、まずフェルスタッペンが41周目に新品のミディアムに、ハミルトンが42周目に中古のミディアムに交換して、安全策をとります。

パンクに見舞われたラティフィ以外の三台は自力でピットまで戻りましたが、ラティフィはターン6で止まりリタイヤしました。最初はそのまま撤去できるのか思われたのですが、結局撤去できずにマーシャルがラティフィのマシンを撤去する間、VSCが登場します。

これでフェルスタッペンがフィニッシュの2周前にソフトタイヤに交換してファステストラップを狙います。3位アロンソとは30秒以上の差があったので順位を落とすことなくフリーストップとなります。そして最終ラップでフェルスタッペンはファステストラップを記録し、貴重な1ポイントを手にします。

それ以上に影響があったのが3位争いです。4位を走っていたノリスがタイヤのパンクで後退し、ボッタスもいません。最後の脅威となるペレスが追い上げてVSC時点で2.8秒差まで詰めてきました。残りは5周でアロンソ絶体絶命のピンチだったのですが、ここでVSCが出ることによりペレスはアロンソとの差を詰めることができなくなりました。そしてVSCが解除されたファイナルラップだけでは、ペレスはアロンソに追いつくことができませんでした。

特に最後のターン13、14、15の高速コーナーでの縁石がタイヤにダメージを与えた

アロンソはVSCの指示がでた時点でハードで30周を走っていました。つまり先ほどのタイヤパンクしたリミットギリギリでした。ところがVSCが出てスロー走行になりそして最後の1ラップをタイヤを労りながら走りきり2014年のハンガリーGP以来の表彰台に登ることができました。アロンソは最後の1周だけレーシングスピードで走りましたが、特に右コーナー(左フロントに負荷が掛かる)ではアクセルを緩めて、タイヤを労って走りました。

アロンソはタイヤライフの30周目でVSCが出たので助かったことになります。もしそのまま走っていれば彼のタイヤもパンクしていた可能性がありました。ワンストップで走りきったサインツもレース後に、「ワンストップだとタイヤに厳しいことがわかっていたので、攻撃的な走りはできなかった」と述べています。ということはレッドブルがフェルスタッペンとペレスを2ストップにしたことは間違っていたわけではありません。最後の最後にVSCが指示されるところまでは予想できませんからね。結果としてフェルスタッペンが早めにタイヤ交換したことにより、ハミルトンもタイヤ交換して二人とも難を逃れた格好となりました。

ピレリはレース前にワンストップは難しいとアドバイスしていました。彼らはタイヤウェア的に厳しいサーキットで30周以上走ったタイヤはトレッドがほとんど残っておらず、その状態でさらに攻撃的な外側の縁石に乗り上げて激しい振動によりタイヤがパンクしたと予想できると話していますが、ボッタスが順調だったのに突然パンクしたと証言しているので、やはり外側の攻撃的な縁石に何度も乗り上げることでタイヤがダメージを受け、パンクしたと考えるのが現時点では妥当ではないかと思います。

スタートで順位を上げたフェルスタッペン

▽さらに緊迫するチャンピオン争い
最後にフェルスタッペンがファステストラップの1ポイントを獲得したので、二人の差は8ポイント差。この1ポイントを取ったのはフェルスタッペンには大きい意味がありました。これがなくハミルトンがファステストラップを取っていれば二人の差は6ポイント差となり、次にハミルトンが優勝しフェルスタッペンが2位だと逆転となる点差となっていました。

レッドブルはカタールGPのアスファルト表面が予想よりもスムーズで、タイヤの温度を上げるのに苦労しました。ペレスがQ2で脱落したのもタイヤ温度を上げることに失敗したからです。フェルスタッペンもタイヤから全てを引き出すことができなかったとレース後に述べています。初めてのサーキットでの初期セットアップの正確性とその後の修正においてはメルセデスの方が優位なようです。

こうしてカタールGPはハミルトンの圧勝となりました。次のサウジアラビアGPは全開部分が多く高速コーナーも少ないので、メルセデスが優位だと思います。最終戦のアブダビは昨年、フェルスタッペンがポールからスタートし優勝しているサーキットですが、今年はコースを大改修しているので、どちらが有利かはわかりません。小さなコーナーやシケインがなくなり、シンプルなレイアウトになったので、こちらもややメルセデスが有利な改修となっています。

勢いはハミルトンにあります。彼は序盤のポルトガルとスペインGP以来の連勝を、ブラジルとカタールで成し遂げました。ハミルトン 7勝に対して、フェルスタッペンは10勝です。ハミルトンは残り2戦を連勝する必要があり、フェルスタッペンはどちらかに優勝すればチャンピオンの可能性は高くなります。ハミルトンには強力な新しいエンジンもあります。正直言って、この二人は別次元の世界で争っているので、残り2戦でトラブルやペナルティでもない限り、二人が3位以下になることはないでしょう。最後にファステストラップを狙えるかどうかは、チームメイトがどこを走っているかも重要な要素になります。その意味ではボッタスとペレスの役目がとても重要になります。

次の初開催となるサウジアラビアGPも目が離せないレースとなりそうです。