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天国と地獄 角田はなぜ2021年を苦しんだのか

久しぶりの日本人ドライバー 角田。日本人F1ファンの大きな期待を受けてのシーズンでした。開幕でいきなり入賞しながらも、シーズン途中は鳴かず飛ばずでどん底に落ちたにも関わらず最終戦で自己最高位を得たジェットコースターのような角田の2021年シーズンを振り返って見ましょう。

出撃を待つ角田

角田のデビューイヤーが浮き沈みが激しかった理由はいくつかあります。ひとつずつ振り返りましょう。

▽速いアルファタウリのマシン
角田が苦しんだ理由のひとつ目が、彼の乗るアルファタウリのマシンに競争力があったことです。マシンに競争力があるのはいいことと思われるかと思います。確かに遅いマシンに乗るよりも、速いマシンに乗った方がいいのは間違いありません。ただルーキーシーズンに競争力のあるマシンに乗れば、それだけ結果を求められます。実際、角田もチームから結果を求められましたし、周囲からも結果を求められました。これはルーキードライバーには大きなプレッシャーとなります。

速いマシンに悩まされた角田

例えば角田がハースに乗っていたらどうでしょうか。ハースで最下位を争っていればクラッシュしても、マシンが乗りにくいんだな程度にしか思われません。実際、ハースのシューマッハがミスをしても、クラッシュしても、無得点でも誰も興味を持たないですし、批判されません。

だがチームメイトが予選Q3へ進出し、得点を重ねていて、角田が結果を残せなければ批判されるのは当然です。実際ガスリーはコンスタントにQ3に進出し、時には予選4位や5位を取ることもありました。予選4位とは2強のレッドブルやメルセデスの一台を食わないとなれない順位です。それだけの競争力のあるマシンを与えられていれば、求められる水準は高くなります。

チームメイトというには、あまりにも強敵なガスリー

▽速いチームメイト
もうひとつの角田の問題は、速いチームメイトであるガスリーの存在でした。先ほども述べたように予選4位を4回も獲得しています。これはマシンが優れていることも間違いないのですが、ドライバーが優れていなければできる結果ではありません。

予選順位が二桁になったのは、僅かに3回。最悪の予選順位が12位というのですから、ガスリーがいかに優れたドライバーであるかわかります。さらに彼はとてもコンスタントでミスが少ないドライバーです。これは彼が無理に攻めているわけではなく、マシンをコントロールできていることの証です。これはトップドライバーには必要不可欠な能力です。

実際、ハミルトンやフェルスタッペンが最後のアタックに出ても、大きなミスなくタイムが出せるのは、彼らがほぼ完全にマシンをコントロールできているからです。

そんな優れたドライバーであるガスリーがチームメイトとは、角田は不運でした。もちろんガスリーから学べることは多く、その点では良かったと思います。でもガスリーと比較されるルーキードライバーはとてもつらい状況です。

マシンの性能差が結果に表れるF1では、本当にドライバーの能力を比較できるのは、同じチームで同じマシンに乗るチームメイトになります。角田はガスリーと比較されることで、大きなプレッシャーにさらされました。

昔とは違い、今のF1はあまりにも複雑で学習すべき部分が多くあります。昔はパワーに違いはあっても、基本的には同じ構成のマシンでしたから、ルーキーが1年目から活躍することも可能でした。また近代F1になってからも、テストは自由におこなえましたから、ルーキーがマシンになれることはできました。しかし今のF1は史上最も複雑なマシンで、まるでコンピュータが走っている感じのマシンです。コーナーごとにセットアップを変更しながら走る必要すらあります。テストもなしにこんな複雑なマシンを操るには、速く走る能力以上のものが必要になります。

今のF1で、1年目から結果を残すのはかなり難しい状況です。ルクレールもフェルスタッペンも最初は遅いチームで走り、ミスをし、多くの学び得たからこそ、トップチームでの活躍が可能になりました。ラッセルもそうですよね。

事前のテストも限られているので、かつてのハミルトンの様に最初の年からチャンピオンを争うドライバーというのは、もう出てこないのではないでしょうか。ハミルトンの時代にはテストは自由にできていましたからね。

でも仲のいいガスリーと角田

▽順調な昇格と自信喪失
もうひとつの角田の問題点は、あまりにも順調にF1に昇格したことです。角田はとんとん拍子でF1まで来たので、学習する機会が多くはありませんでした。F3からF1までたったの二年で登ってきて、その間に大きな問題を抱えることもなかった。

F1はF2やF3に比べてもはるかに複雑で簡単ではありません。F2やF3はまだ20世紀のマシンですが、今のF1は21世紀のマシン。パワーも大きいしい、重いし、ダウンフォースも多いし、設定項目多いし、データ量も多い。何もかもが違う。昔はパワーも大きいし、ダウンフォースも大きいけど、下位フォーミュラとの根本的な違いはありませんでした。

角田に才能はあるのは間違いありません。才能がなければ、F3からたったの2年でF1に上がることもなければ、開幕戦で入賞したり、最終戦で4位になることはできません。ただ今のF1はレース数も多く、コンスタントに結果を残し続けなければなりません。その点、ガスリーの方がはるかに安定しています。

初戦で結果が出てしまったので、本人も初戦後に自信過剰になり、F1は簡単だと思ってしまったと語っています。イモラのQ1の1周目でクラッシュ。マシンのポテンシャルを考えれば多少抑えていてもQ1突破は確実な状況。であれば最初は多少抑えめにして押さえのタイムを出しておいて、2回目のアタックで攻めるというのが定石。後方からスタートしたレースでも、濡れた路面に助けられ上位に来たところで、スピンして自滅。

それでも角田の自信は失われませんでしたが、その後もコンスタントにクラッシュをするようになり、チームの信頼を失い、彼自信も自信を失っていきました。彼はF2と同じアプローチを取って失敗したと述べています。F2はフリープラクティスをやると、すぐに予選。なので最初からプッシュする必要があります。しかしF1のレースフォーマットは違いますし、アプローチも変えなければなりません。

角田自身も一時は完全に自信をなくしたと話しています。それまで自信を完全になくしたことなど一度もなかったですし、バーレーンの時のような自信を取り戻すのにとても苦労しました。彼が自信を取り戻すのには、とても時間がかかりました。失敗を恐れるあまり、慎重にアプローチするようになったので、結果が残せなくなってしまいました。

コーナーを攻める角田

チーム代表のフランツ・トスツは角田にバーレーンの時の様に、もっとプッシュし、アグレッシブに行くよう求めたが、自信を失った角田にはできることではありませんでした。

そしてトルコGPでシャシーを交換したことで、立ち直りのきっかけをつかめました。彼はマインドセットを切り替える必要があると感じていました。

「トルコGPが自信とレースへのアプローチの意味でターニングポイントになりました」

「トルコGPまでの自分はミスをしないように、クラッシュをしないように走っていました。なのでペースが遅くなりました。とにかくクラッシュしないようにだけ注意して走っていたので、ペースは良くありませんでした」

「遅くて結果の出ないレースが続いた後でもっとプッシュしなければ行けないと気がつきました。F1において速く走ることが一番重要だからです」

「トルコGPでシャシーを交換したことがひとつの契機になりました。マシンのコントロールができるように感じられ、スナップしてもコントロールできるようになりました。以前のシャシーではできないことです」

角田は古いシャシーに問題を見つかったかどうかはわかりません。しかしそれは問題ではありません。彼は徐々に自信を取り戻しました。そしてこれが最終戦での自己最高位につながりました。

「今年は大きな年になりました。こんな浮き沈みの激しいシーズンを経験したことはありません」

彼の言動を見ていると子供っぽいと思います。日本人の若い男子は欧米の男子より子供っぽい人が多いのですが、角田にもその傾向が明らかに見られます。他のドライバーは若くても、自我を確立し、自分のスタイルを持っていますし、インタビューの受け答えもしっかりしています。

レース中に自分のエンジニアにむかって「黙れ」とは普通言わないですよね。英語能力の問題もあり、レース中は興奮状態である事を差し引いても、子供の発言と言われてもしかたないと思います。

その点角田は英語に不慣れな部分も含めて、子供っぽい言動が多いと思います。初戦で入賞したことは、すごいことですが、それだけでF1は楽勝と普通は考えないですよね。もちろん彼のF1での目標が入賞であれば、それもわかるのですが、彼の目標は表彰台であり、優勝であり、チャンピオンになることでしょう。ならば開幕で入賞したとしても、それで天狗になることは普通はないですよね。

今年が勝負の年になる角田

でも彼はまだわずか21歳です。自分が21歳の時どうだったかを考えると恥ずかしくて、彼が子供っぽくても批判はできません。ただ改善はしていく必要があります。彼には、これからまだまだ成長の伸びしろがあります。そう考えるとこの一年は彼にとって大きな学習の年になりました。彼の本当の勝負は2022年になります。彼の後ろからは優秀な若いレッドブルドライバーが追いかけています。結果が残せなければ、過去のレッドブルドライバーのように契約を打ち切られるだけです。

ただ逆にいうと結果を残せば、レッドブルへの昇格の道が開かれています。今のところガスリーがレッドブルへ昇格することはないでしょう。ペレスは外様でピンチヒッターなので、優秀なレッドブルドライバーがいれば、ペレスに取って代わることは可能です。そしてそれが角田の目の前にあるのです。

しかもチームメイトは優れたガスリーです。つまりガスリーに勝てれば、それは角田の能力の証明ですし、来年レッドブルに乗ることも夢ではありません。それを関係者も望んでいると思います。

角田の2022年シーズンが天国になるか地獄になるかは、誰にもわかりません。ただただ彼が能力の全てを出し切って悔いのないシーズンを過ごしてくれることを望むばかりです。

頑張れ、角田!

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