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マックスのスーパードライビング 2022 Rd2 サウジアラビアGP観戦記

先週と同じくルクレールとフェルスタッペンの抜きつ抜かれつのバトル。苦戦するメルセデスに、初ポールのペレスがリードするも不運なタイヤ交換等々のサウジアラビアGPを振り返ります。

カーナンバー1をつけて優勝を争うフェルスタッペン

▽超絶フェルスタッペン
フェルスタッペンの強力な精神力と超絶テクニックがもたらした、シーズン初勝利でした。開幕戦と違っていたのは、このサーキットはバーレーンよりもタイヤに優しくワンストップのレースでした。しかも第2スティントのハードタイヤは(フェラーリの予想とは違い)ほとんどデグレがなく、ルクレールはレース終了3周前にファステストラップを記録しています。

このレースもダウンフォースを付けたフェラーリ対ドラッグの小さなレッドブル、コーナーで速いフェラーリと直線が速いレッドブルの競争でした。セクター1で引き離すルクレールとセクター3で追いつくフェルスタッペン。

前回はタイヤに厳しいサーキットだったので、ダウンフォースを付けたフェラーリがタイヤのデグラの状況も良く、全体的にフェルスタッペンを上回りました。

しかしながら、このサーキットではデグラは僅かで、ハードではほとんどありませんでした。そのため、フェルスタッペンがプッシュしてもタイヤ的には問題はありませんでした。

フェルスタッペンがルクレールを抜く鍵は、いかにセクター1で引き離されないかでした。DRSゾーンに入ってしまえば、直線の長いストレートでフェルスタッペンは圧倒的に有利です。

タイヤの状態的には問題がないとはいえ、高速の市街地コースでダウンフォースの少ないマシンを操って、ダウンフォースの多いドライバーに対してタイムを刻むというのは簡単なことではありません。

レースの大半をリードしたルクレールだったが、最後はフェルスタッペンに逆転された

フェルスタッペンは、本当にギリギリまで攻めていました。いつクラッシュしてもおかしくないほどでした。時にはマシンを横にしながらも壁ギリギリに走り抜けていきました。ほんの少しでも壁に当たればゲームオーバーな状況で、速くしかも壁にぶつからずに走るのは技術的にも難しいですが、メンタル的にもよほど強くなければできることではありません。

確かにフェルスタッペンはストレートが速く、ルクレールを追い抜くのは容易だったかもしれませんが、その前のセクター1でルクレールに引き離されなかったフェルスタッペンの走りは圧倒的で、他のドライバーは真似できないでしょう。

セクター1で少しタイムを落として走っても、誰も責めはしなかったでしょうし、それで2位でも普通のドライバーなら納得のはずです。

ただルクレールも黙ってやられていたわけではありません。バックストレートで意図的に早めに抜かれてDRS検知ポイントでフェルスタッペンを前に行かせて、ホームストレートでDRSを使って抜き返します。これはバーレーンGPでも見られた光景でした。

上位陣はワンストップ。ペレスの15周目のタイヤ交換が明暗を分けた

なのでフェルスタッペンも今回は、バックストレートでは抜かずに、ホームストレートで抜いてトップに立ちます。それでもコーナーの速いルクレールはフェルスタッペンについていき、ストレートでDRSを使って抜き変えそうとしますが、レース終盤にセクター1でアルボンのマシンが止まりイエローフラッグが提示され、ホームストレートで抜くことができなくなりました。

しかもルクレールはレース終盤、後輪タイヤのオーバーヒートがあり、トラクションが悪かったのも状況を悪化させました。

ストレートの遅いルクレールはバックストレートでは抜くことができずに、バックストレートで追いついてホームストレートで抜くしかなかったので、このイエローフラッグは痛かったですね。結局、これ以降はアタックすることもできずに終わります。

ただこの二人の勝負に大きな影響を与えたのは、2回目のSCでした。それまでルクレールはフェルスタッペンをセクター1で引き離し、ストレートでも順位を守れました。

ただSC明け直後は、ハードタイヤを温めるのに苦労して、フェルスタッペンにDRSゾーンに入られてしまいます。そこからはストレートの遅いルクレールは手を尽くしましたが、フェルスタッペンに勝つことはできませんでした。

初ポールポジションからリードを奪うペレス。このあとに悲劇が待ち受けているとは想像もできなかった

▽不運だったペレス
自身初となるポールポジションからスタートしたペレスは、スタートも問題なくこなし、レースをリードします。ルクレールを1.6秒ほど後方に置いて、問題なくレースをリードできていました。

そんな時、フェラーリから変な無線が入ります。追い抜くためにタイヤ交換する(BOX to Overtake)とピットからルクレールへ指示が出ます。要するにアンダーカットを仕掛けるぞと言うことです。それを聞いたレッドブルは15周目、ペレスにタイヤ交換を指示します。ところがルクレールはピットインしません。

これはフェラーリに嘘情報だったんですね。レッドブルはその間違った情報にまんまと騙されてペレスをタイヤ交換してしまいます。そしてペレスは5位のラッセルの後ろで戻ってしまったので、タイムをロスしてしまいます。

しかも温まりのハードタイヤで、悪いことに今年からタイヤブランケットの温度が70度への下げられており、さらにタイヤを温めるのに苦労しました。

その次の16周目にウィリアムズのラティフィがクラッシュしてVSCが出たので、ルクレールやフェルスタッペンは労せずペレスの前に出ることができました。しかもタイヤ交換したサインツにも抜かれて4位に落ちて、これでペレスのレースは台無しになってしまいました。

ただこれはレッドブルの判断ミスだと思います。普通タイヤ交換するのにBOX to Overtakeとは言いませんから、怪しいと感じますよね。

しかもワンストップが予想されていて、第2スティントはハードと予想できました。ハードはタイヤの温まりが悪いので、後ろのマシンがアンダーカットにするには、いいタイヤではありません。またこのサーキットはタイヤに厳しくないのでバーレーンGPよりもアンダーカットのパワーが大きくありません。

しかもペレスはルクレールに2秒ほどの差がありましたから、ルクレールのあとにタイヤ交換しても順位を守れた可能性は高かったと思います。せっかくポールからスタートしたにも関わらず、4位に終わったペレスは少しかわいそうでしたね。

接近戦が随所に見られたサウジアラビアGP。レギュレーション変更は成功したか

▽レギュレーション変更は大成功
開幕2戦を見る限りFIAがオーバーテイクを増やす為に導入したレギュレーションは成功しているようです。マシンは間隔を空けずに走行できていますし、タイヤのデグラもひどくありません。そのため一度抜かれても、次に抜き返すことが可能なので、バトルの際に必要以上に厳しく走る必要がないので、接触事故も減っているように思います。

昨年までは一度抜かれると、距離を離さないと走れないし、デグラは大きくなるし、オーバーテイクが難しいので、抜かれる際に厳しく閉めていましたが、今年は抜き返せるので、接触も少なくなりそうです。

それにしてもウィングカーが禁止されてから約40年間。ウィングカーにすればこんなにオーバーテイクが増えるなら、もっと早く導入しとけば良かったのにと考えるのは私だけなんでしょうかね。

ジェッダサーキット図。高速での市街地コースでひとつ間違えばゲームセットの厳しいコース

▽依然苦しむメルセデス
メルセデスは、まだバウンシングの問題を解決することができていません。ハミルトンはなんとQ1脱落。ちょっと信じられませんね。ハミルトンは予選前にセットアップを(ほんの少しフロントウィングと空気圧を)変更したのですが、これが事態を悪化させリアの落ち着きをなくしました。

高速での市街地コースでは、リアが落ち着かなければ攻めることはできません。また攻めなければタイヤ温度を上げるにも苦労します。

メルセデスのバウンシング問題は、エアロの問題ではなくて、マシン側の問題のようです。そうなると解決には時間がかかるかもしれません。とにかく実際に走らないと発生しないというのが一番困ります。このレースでは考えてきた解決策が合わなかったのですが、次にそれが証明できるのは2週間後のオーストラリアGPまで待たなければなりません。

苦しむハミルトンはなんとQ1で敗退。復活への道はまだ遠い

さらにこのサウジアラビアGPのコースは新しいコースで、路面はスムーズです。にも関わらずバウンシング問題が緩和されていない部分も、この問題の深刻さを表しています。

更に問題もあります。新しいバイオ燃料を10%混合させた燃料にメルセデスのPUが対応できていない疑惑があります。サウジアラビアGPの予選で下位の順位はメルセデスPUユーザーが占めました。もちろんこれには、マシン側の問題もあるとは思いますが、これだけメルセデスPUのユーザーが苦戦しているのを見ると、PU側にも一定の問題があると考えるのが普通です。

またバウンシングは、メルセデスにPUのパワーを制限することを強いています。パワーが増えれば、速度が増します。速度が増せばバウンシングがひどくなります。開幕戦ではチームはドライバーにストレートの終わりで、アクセルを戻すように指示していました。

しかもこのマシンはドラッグが大きいのも問題です。これだけサイドポッドを小さくしているにも関わらず、ドラッグが大きいというのも信じられませんが課題は満載のようです。

これらの問題が複合的に絡み合った結果、開幕戦の予選時の最高速でラスト8位中7台がメルセデスPUユーザーでした。最高速はPUのパワーだけではありませんが、それでもここまでハッキリと数字が出るとPUに一定の問題があると考えますよね。

最後に角田は予選も走れず、決勝も走れず、かわいそうでしたね。ただF1にいればこういうこともあります。次のレースで頑張って欲しいと思います。

サウジアラビアGP最終結果
フェラーリは敗れたものの2位と3位で好調を維持