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2006 Rd.18 ブラジルGP観戦記 皇帝時代の終わり

▽皇帝時代の終わり ついにミハエル・シューマッハーのラストレースが終わった。 彼は8度目のワールドチャンピオンにもなれなかったし、最後のレースを勝利で飾ることもできなかった。 だが、彼は勝者に値することを証明して、最後のレースを終えた。 フリー走行からダントツの速さを見せつけていたフェラーリとブリヂストンタイヤ。 予選でも第一、第二ピリオドと他車を圧倒し、ポールポジションはほぼ間違いがないと思われていた。 そんな絶対的優勢の中、第三ピリオドに突然、トラブルに見舞われることになる。 燃料ポンプにトラブルが発生し、マシンがスローダウン。 そのまま、ピットに戻ったミハエルのマシンはガレージへ入り修理を開始した。 予選中には直る見込みのないトラブルだったが、それでもミハエル・シューマッハーはコックピットを降りない。 これには、彼の勝利への執念を感じた。 結局、彼の望みは叶えられることはなかったが、彼の勝利を求める気持ちはいささかも衰えていなかった。 このトラブルにより、ミハエル・シューマッハーは一度もアタックすることなく第三ピリオドを終え、予選10位からスタートすることになる。 しかし、トラブルがエンジンでなかったこと、発生したタイミングが予選第三ピリオだったこと等を考えると、まだミハエル・シューマッハーにツキは残っていた。 これが予選第一もしくは第二ピリオドで発生していたら、彼はスタート順位はもっと悪かったはずだ。 決勝スタート後に発生していれば、その時点で彼のレースは終わっていた。 それを考えると10位からスタートできると言うことは、まだミハエル・シューマッハーにはチャンスが残されていた。 幸い、インテルラゴスは抜くことが可能なコースであり、ブリヂストンタイヤの抜群のパフォーマンスを考えれば、予選10位からもでも十分に優勝が狙えるはずだった。 ミハエルは1周目にBMWの二台を一気に抜き去ると、バリチェロもパスし6位へ。 さらにルノーのフィジケラをパスしたところで、決定的なトラブルがミハエルを襲う。 この時点でトップを走るのはチームメイトのマッサ。 2位に上がれば、優勝するのは間違いなかった。 トヨタの二台はスピード不足でミハエルの敵ではなかった。 前を走るアロンソは、ミハエル・シューマッハーを抑える気持ちはなかっただろうし、ライコネンは来シーズン移籍するフェラーリを抑えるとも思えなかったから、優勝の可能性は大きかった。 (ライコネンに対するこの考えが甘かったのは、最後の最後で見せつけられることになる) ところがフィジケラをパスした直後、ミハエルのマシンが大きく振られる。 左のリアタイヤのパンクだ。 しかも、パンクの発生地点が第一コーナーで、ミハエルはほぼ1周をスロー走行せざるをえず、大きくタイムロスをした。 ここでミハエルの優勝の可能性はほぼなくなった。 このパンクの原因が何かはよくわからない。 激しくクラッシュしたニコ・ロズベルグの破片を拾ってしまったのかもしれないし、フィジケラと接触したのが原因かもしれない。 もっともフィジケラと接触したのなら、フィジケラのフロント・ウィングがダメージを受けていても、おかしくない。 ミハエルはフィジケラを追い抜いた直後に、タイヤがパンクしている。 普通、少し接触しただけでここまで急激に空気圧が低下することは考えづらい。 ミハエル・シューマッハーはフィジケラを抜いたときには、マシンの姿勢を乱しているようには見えない。 ミハエルが姿勢を乱したのは、フィジケラを抜いた後だ。 だから、ニコ・ロズベルグの破片を拾ってしまった可能性が高いと思う。 パンクした部分は左のショルダー部分なので、フィジケラと接触した可能性がゼロとは言えないが、故意にやったとは思えないのでその場合でも、レーシング・アクシデントとして片付けるしかない。 ロズベルグの破片を拾ってしまったのであれば、不運としか言いようがない。 優勝も見えてきていただけに、なんともミハエルにとっては悔やみきれないトラブルとなってしまった。 これで最後尾に下がったミハエルだが、最後のレースでも最後まで諦めることなく激しく追い上げを開始する。 二度目にフィジケラを抜くシーンなどは、あまりにもスピードが違いすぎて本来ブロックしなければならないフィジケラは、何もできなかった。 その迫力はTV画面を通じても感じられた。 まるでクラスの違うマシンが走っているようだった。 そして、最後にベストラップをマークし、ライコネンに対し素晴らしいオーバーテイクを見せて有終の美を飾った。 彼のファーステストラップは2位のマッサを0.7秒も引き離す圧倒的なタイムだった。 91勝を記録したミハエル・シューマッハーにとって4位は記録だけ見ればたいしたことがない結果だろう。 だが、このレースで誰が一番速かったのかは、みんながわかっている。 ▽手堅いアロンソの走り アロンソは3日間を通じ、やるべき事を計画通りに実行していった。 ほとんどリスクは冒さず、レブリミットまで回すこともほとんどなかっただろう。 それでも2位になってしまうところが、アロンソのすごいところ。 今年一年を通じて、大きなミスはなかったので、10ポイントのリードがあればほぼ、チャンピオンになるのはほぼ間違いなかった。 もっとも何が起こるのかわからないのが、モータースポーツの世界。 それでも、何も起こらないのがルノーとアロンソの実力だ。 10ポイント差で向かえたブラジルGPは、アロンソにとってもプレッシャーがあったと思う。 誰もがチャンピオンはアロンソと考える中でのレースは難しい。 しかしアロンソは、そんなことを微塵も感じさせないレースを見せてくれた。 昨年もそうだったが、アロンソは常に冷静で勝ちに行くときと、ポイントを拾う時とを冷静に判断してドライブしていた。 それに加えてミスが少ない走り。 ペースを抑えてミスを少なくすることは誰でもできるが、彼の場合は速く走った上で、ミスが少ない。 これはミハエル・シューマッハーやセナ、プロストなど偉大なチャンピオン達に共通するポイントだ。 今回もリスクをほとんど冒さないにもかかわらず、ファーステストラップは全体の3位で、2位のマッサとは僅差だった。 最後は二戦連続でフェラーリのトラブルに助けられた面はあるが、それはお互い様。 アロンソもトラブルに見舞われて失ったレースがあり、アロンソのチャンピオンは正当な結果といえるだろう。 彼こそはミハエル・シューマッハーなき後のF1を支えるチャンピオンだ。 これでアロンソはルノーで最後のレースを終えた。 まるでかつてのミハエル・シューマッハーを見るようだ。 セナが死亡した後とはいえ、ミハエル・シューマッハーは当時のベネトンで2年連続チャンピオンに輝き、フェラーリへ移籍して更に五回のチャンピオンを取ることになる。 世代交代とでも言えばいいのかもしれないが、かつてセナがプロストを引退に、ミハエルがピケを引退に追いやったのとは少し違う。 なにしろ、ミハエル・シューマッハーこの時点でもアロンソと並んで最速のドライバーの一人なのだから。 ミハエルが引退して、来年からアロンソの時代が来るのか、ライコネンとの二強時代が来るのかはわからないが、これまでとは全く違うF1になることだけは間違いがない。 ▽ホンダとスーパーアグリの快走 今回のホンダはよかった。 特にバトンは終始、トップグループと同程度のラップタイムを連発し、三位でゴール。 だが残念なことにバトンは14位スタートだった。 予選順位がもう少し良ければ、2位は確実に、もしかしたら優勝も争えたかもしれないほどのペースだった。 今年のホンダはレースの週末を通じて、コンスタントな力を発揮することができなかった。 予選が良ければレースが悪く、予選が悪ければレースがいい。 レース中も第一スティントが悪ければ、第二、第三スティントが良いなどということもよくあった。 今回は気温が高くなり、タイヤの発熱が悪いホンダにとってはいい条件となったことは間違いない。 このタイヤの発熱の問題は1年を通じてホンダを悩ませ続けた。 来年はこれをどう解決してくるのだろうか。 一方のトヨタは、鈴鹿に続いて予選は良かったが決勝では伸び悩んだ。 予選ではタイヤとドライバーの頑張りで上位に来るが、レースではペースが上がらず、今回は二台ともリタイヤとなった。 これはマシンの総合力が良くないので仕方のない結果だ。 ガスコインが抜けた、来シーズンはどういう体制で臨んでいくのか。 それが見えてこない。 スーパーアグリに取っては1年の苦労が報われたれブラジルGPとなった。 佐藤琢磨が10位でフィニッシュしたのだ。 しかも、このブラジルGPは1周のラップタイムが75秒前後と短い。 それを考えると周回遅れとはいえ、立派な結果だ。 あと二台リタイヤすれば、入賞できる位置だ。 それにしても琢磨はこのレース、序盤から12位を走行し、期待を持たせてくれた。 彼のファーステストラップは全体の9位で、ホンダのバリチェロと1/100秒遅いだけ。 山本左近はなんとバリチェロより速いファーステストラップを記録し、全体で7位のタイムとなった。 この二台のタイムはマクラーレンのデ・ラ・ロサより速いタイムだ。 通常、周回遅れ以外ではほとんど国際映像に映らないスーパーアグリが今回は何度も画面に映った。 この1年を振り返ると、本当に大変な1年だったと思う。 でも、それをやり遂げた鈴木亜久里とチームのメンバーは素晴らしかった。 結果の数字だけを見れば最下位だが、それだけでは計れない偉大な挑戦を成し遂げた。 もっともスーパーアグリはこれで止まっているわけにはいかない。 来年からホンダのシャシーを使用できるように、FIAや各チームと交渉してきたがここにきて、それが許されない状況となってきた。 そうなると、来年用のシャシーの開発に取りかからなければならない。 また、彼らの忙しい冬が訪れる。 最後に優勝したマッサに一言。 おめでとう、マッサ。 地元のGPで、地元のドライバーが優勝することは難しい。 誰もがそれを期待するからだ。 セナが長年勝てなかった地元ブラジルGPで勝ったあと、泣き崩れたことが懐かしく思い出される。 この勝利で、マッサは今年、初優勝を含む2勝をマークした。 だが、ライコネンをチームメイトに向かえる、来シーズンは真価を問われるシーズンとなる。 ▽今シーズンを振り返って 今シーズンはまれに見る、激しいチャンピオン争いが繰り広げられた。 新世代のチャンピオン、アロンソとF1界に君臨し続けた皇帝ミハエル・シューマッハー。 結果的にアロンソの2年連続チャンピオンで幕を閉じたが、この激しいチャンピオン争いを忘れることはないだろう。 最後にミハエル・シューマッハーには、素晴らしい走りをありがとうと言いたい。 セナ亡き後のF1を支えたのは、彼だったし彼の走りに批判はあるが、間違いなく一番速いドライバーであり続けた。 彼を倒すことが、全てのF1ドライバーの目標だったし、良くも悪くも彼はF1の中心だった。 今後、彼がどのようにF1に関わるかは現時点では不明だが、お疲れさまと言っておきたい。

4 thoughts on “2006 Rd.18 ブラジルGP観戦記 皇帝時代の終わり

  1. くにへ

    はじめまして!
    いつもF1情報(F1ニュースも)を見させてもらっています。
    今シーズンも終わってしまいましたね。
    ミハイル最後のブラジル戦はすごい戦いで最後感動で泣いてしまいました。
    琢ちゃんもがんばりがやっと報われて、10位という快挙?で終われて本当によかったと思います。
    来年のドライバーの移動やルールなど、変わっていくとは思いますが、ミハイルのいなくなったあと、どうなるのか寂しくもあり、楽しみでもあり複雑な感じです。
    F1初心者の私が、楽しんでF1を見られるのも仙田さんのF1ニュースやこのブログのおかげです。
    これからもいろいろ教えてくださいね。
    楽しみにしています。

  2. ちさと

    遅くなってしまいましたが、トラバありがとうございました!!
    今シーズンのラストレースにふさわしい、
    そして、ミハエルのラストランにふさわしい
    レベルの高いレースだったと思います。
    ミハエルのいないF1は寂しくもあるんですが、
    来期から登場する新人ドライバー活躍にも期待できますし、
    また違ったF1を観る楽しみが増える予感がしています。

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