l今回はいつもとは、趣向を変えて一問一答形式で今シーズン前半戦を振り返ってみたいと思います。
今シーズンも残り六戦。
皆さんのF1観戦のお役に立てれば、うれしいと思います。
では、最初の疑問です。
▽ハミルトンはなぜ速いのか?
今シーズン前半はなんと言っても、ルイス・ハミルトンにつきるでしょう。
このドライバーは開幕から第九戦まで一度も表彰台を逃さないという安定性を披露しています。
とにかくミスが少ない。
安定しています。
それはハミルトン自身にプレッシャーが少ないこともあります。
アロンソがハミルトンに負けたらニュースになりますが、逆の場合はハミルトンは健闘していると言われます。
また、今年のマクレーレンのマシンがアロンソよりハミルトンに合っていることも見逃せません。
今年のマクレーレンは、ショートホイールベースです。
マシンはリアが不安定ですが、非常に回頭性が良いのが特徴です。
それ故に、モナコのようなテクニカルなサーキットでは競争力があります。
シルバーストーンでは、フェラーリはロングスティントでソフトタイヤを使用できましたが、マクレーレンには出来ませんでした。
通常、リアが不安定だと乗りにくいのですが、それをハミルトンは難無く乗りこなしています。
ハミルトンはコーナーの入り口で、カウンターを当てている場面もあります。
通常、カウンターはコーナーの立ち上がりで当てます。
それはコーナー入り口で当てていることは、マクレーレンがかなりオーバーステア傾向を持つマシンであることの証拠です。
しかし、ハミルトンは非常に丁寧なドライビングをするドライバーです。
彼は、この安定しないマシンを難無くコントロールしています。
その分、タイヤに対する負荷はフェラーリより厳しいです。
特にリアタイヤは厳しいようですが、徐々に克服してきています。
▽アロンソはなぜ苦しんでいるのか?
ハミルトンと対照的に、アロンソは苦しんでいます。
それは、彼がルノーから移籍するにあたり環境が変わったことがあります。
特に大きく分けて三つ理由があると思います。
その一 マシン
先ほど話しましたように、今年のマクレーレンはリアが不安定なマシンになっています。
アロンソのドライビングスタイルは、コーナーの奥まで突っ込み、そこで強いブレーキングをして、ハンドルを切ってターンインします。
そのようなスタイルで、リアが不安定だとコントロールしにくいのです。
今年のアロンソにミスが多いのはこのことが、大きく影響していると思われます。
その二 ブレーキ
今年のアロンソは何回もブレーキングでミスをしています。
その理由はどこにあるのでしょうか。
アロンソはルノーではヒトコ社製のブレーキを使用していました。
これは強くブレーキを踏むアロンソには合っていました。
彼はF1キャリアのほとんどをヒトコ製ブレーキで過ごしています。
マクレーレンは、カーボンインダストリーズ社製のローターを使用しています。
これはハミルトンのようにやわらかくブレーキするドライバーに合っています。
その為、公表されていませんがイギリスGPからアロンソはヒトコ社製のローターを使用することを、チームに懇願し認められたようです。
その結果、彼は好成績を残すことが出来ました。
その三 タイヤ
ミシュランタイヤとブリヂストンタイヤの特性の違いです。
ブリヂストンタイヤはハンドルを切ったときに、まずサイドウォールがたわんでから、横方向のグリップを発揮します。
つまり、ハンドルを切って、一瞬の間があってマシンは方向を変えます。
一方のミシュランタイヤは、ハンドル切るといきなり横方向のグリップが発生します。
これはコーナーの奥まで飛び込んで、瞬時に方向転換するアロンソのドライビングスタイルに合っています。
アロンソのドライビングスタイルが、ミシュランに合わせたのか、それとも元々そうなのかは不明ですが、これが今のアロンソを苦しめています。
もう一人のハミルトンは、そんな心配はいりません。
彼は今年から、F1にデビューしたので違和感がありません。
GP2でもブリヂストンタイヤを使用していたので、彼はブリヂストンの特性を熟知しています。
ちなみにハミルトンはカート時代もブリヂストンを履いていたそうです。
昨年まで抜群の安定感で、ほとんどミスのなかったアロンソが、今年何度もミスをしているのはこういう理由があるからです。
▽なぜマクレーレンは壊れないのか?
なぜ今年のマクレーレンは壊れないのでしょうか。
2005年、2006年に壊れまくったマクレーレン。
しかし、今年は大きなトラブルがレースでは出ません。
結果的に二人のドライバーは、ここまで全てのレースで完走しています。
その理由は、デザイナーの移籍に大きな関係があるようです。
昨年、マクレーレンのチーフデザイナーであるエイドリアン・ニューウェイは、レッドブルに移籍しました。
今年のマシンは、話題(?)のコフランなどがデザインしています。
ニューウェイはとにかく、過激なデザインをすることで有名でした。
空力的な効率を上げるために、できることは何でもします。
サイド・ポンツーンの後ろを絞り込むために、エキゾースト・パイプを無理に曲げたり、配管を複雑に曲げたりしていました。
それらの、無理な構造にしたことが各種のトラブルの種になっていたと見られています。
今年のMP4-22は、昨年までとは違い極端なデザインを止めています。
もちろん空力的な効率は求めていますが、無理なデザインは採用していません。
こう考えると今年、空力効率のいいフェラーリにトラブルが多くて、空力効率が少し劣るマクレーレンにトラブルが少ないのには、偶然ではなさそうです。
▽フェラーリ好調の秘密とは?
マクレーレンがショート・ホイールベースですが、フェラーリはその逆です。
フェラーリは昨年度のマシンより80mm程度ホイールベースを延ばしてきました。
これはかなり極端な変更です。
その為、非常に安定したマシンに仕上がっています。
これは、ミハエル・シューマッハーが引退したことと、関係があります。
ミハエル・シューマッハーはオーバーステア気味のマシンが好みでしたが、これは他のドライバーにとっては乗りにくいマシンです。
昨年までは、ミハエル中心で来ましたが、今年のマシンは他のドライバーが乗っても大丈夫なように、改良してきた可能性があります。
そして、エアロダイナミクスもマクレーレンより優れています。
その為、マニ・クールやシルバーストーンのようにフラットなサーキットでは非常に強さを発揮します。
タイヤにも非常にやさしいマシンになっています。
特に今年のブリヂストンのリア・タイヤは安定性がないので、これはフェラーリの大きなアドバンテージになっています。
モナコからUSGPまでの不調は、マシンがコースに合わなかったことと、風洞が壊れてしまったためです。
▽ライコネン復調の理由は?
ライコネンがフランス、イギリスと連勝したのは、ブリヂストンタイヤの特性に合わせた走りに代えてきたのが大きいようです。
先ほどのアロンソの項目でも述べましたが、ブリヂストンとミシュランではタイヤの特性が違います。
それに合わせてドライビングスタイルを修正するのに時間がかかったようです。
これは、ルノーのコバライネンに同じ事がいえます。
彼も序盤は散々でしたが、徐々に好成績を残してきています。
こうなってくるとマッサは厳しいですね。
シーズン序盤は、ブリヂストンタイヤを使いこなしていたマッサですが、ライコネンが同じようにしてくると勝ち目は少ないです。
▽レッドブルはなぜ壊れるのか?
レッドブルが速いのになぜ、壊れるのでしょうか?
それは、マクレーレンの項目を読まれた方は、もうおわかりだと思います。
それは、ニューウェイのデザインが過激なため、マシンに負荷がかかってトラブルが発生していると推測されます。
要するに、昨年までのマクレーレンと同じと言うことです。
▽ホンダ 不調の理由は?
大きな理由は、風洞のキャリブレーションに失敗したこと。
これにより、風洞実験の数値は正確ではなくなりました。
これでは、速いマシンを作ることは出来ません。
二番目の理由は昨年、ジェフ・ウィリスを解雇したことです。
解雇したにも関わらず、後任を置きませんでした。
F1マシンはまず必要なコンセプトを立てて、そこから各部を詰めていかなければなりません。
ホンダにはそのコンセプトを立てるチーフデザイナーが不在で、一つ一つのパーツを開発することで、速いマシンを作ろうとしましたが、失敗しました。
その為には、優れたコンセプトを立てられる人間を入れるべきです。
そして、それが出来る人間はF1界中の、ほんの数人でしょう。
その中の一人であるロス・ブラウンを獲得しようとしたようですが、彼はフェラーリに戻ることが有力なようです。
ホンダは何人もの空力のスペシャリストを雇い入れていますが、彼らは所詮、代えることができる存在です。
どんな優れた空力の専門家も、正しいコンセプトがなければ宝の持ち腐れです。
もっともジェフ・ウィリスが今年、いたからと言って勝てたかと言われれば疑問です。
ただこのままでは、来年も同じ事に繰り返しです。
果たしてホンダはどこに向かおうとしているのでしょうか。
今年マクラーレンが速さだけでなく安定性を手に入れたのは、てっきりアロンソ(のマシン開発能力)がもたらしたものと思っていました。実はもっと複雑に様々な要因があったんですね。だとしたらアロンソがマクラーレンにもたらしたものは何でしょう?あとマシンの競争力があればこそFIAが一人のドライバーをスターにする為にあれこれルールを捻じ曲げてまで後押しするのはやめてほしいです。