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信じられない結末 2007年 ブラジルGP観戦記

時々、世の中には驚くべくことが、起こる。 頭ではわかっているのだが、いざ目の前でそれを見せ付けられると言葉が出ない。 確かに、ライコネンにもチャンスは残っていた、数字上は。 しかし、それが現実になるとは想像もできなかった。 長く激しい戦いの最後に2007年のドライバーズ・タイトルは、キミ・ライコネンの手に落ちた。 とにかく、このブラジルGPは、予想外の出来事に満ち溢れていた。 ハミルトンにとって悪夢の始まりは、スタートでマッサに頭を抑えられライコネンに抜かれたことだ。 だが、ここまではいい。 ライコネンは奇数列からのスタートで、スタートで前に行かれることは想定していただろう。 だが、この些細な出来事からハミルトンの失速が始まった。 その直後、ライコネンが1コーナーでリアをスライドし、ハミルトンはスピードダウンを強いられた。 ハミルトンはそのスピードダウンによって、アロンソに抜かれてしまった。 ハミルトンにとってはスタート前に想像していた状況よりも、悪い状況になってしまった。 だが、彼はそれでも問題なかった。 アロンソが優勝しない限り、彼は4位でもよかったからだ。 そして、そのアロンソは予選から苦しんでいた。 彼のマシンは本調子とはかけ離れた状態で、フェラーリの二台は、ここブラジルGPで予想通り速かった。 ところがハミルトンがオープニングラップでコースアウトしてしまう。 これはまったく予想できなかった。 これまでの彼は突然の雨や、トラブル以外でコースアウトすることがなかったからだ。 非常に丁寧なドライビングをする彼が、コースアウトするとは。 ハミルトンは想像していなかった事態に直面し、普段の自分を見失ったのだろう。 この状況で、ハミルトンはあせってアロンソに仕掛ける必要はまったくなかった。 だが、それをやってしまった。 それが、チャンピオン争いのプレッシャーだ。 自分自身をコントロールできないドライバーは、チャンピオンになれない。 プロストやマンセルだって何度もチャンスを逃しながら、チャンピオンにたどり着いたのである。 ライコネンだって、これが三回目のチャンスだったのだ。 日本GPまでのハミルトンは無欲だった。 チャンピオンが取れれば最高のシーズンだが、そうでなくてもルーキーのシーズンとしては過去の誰よりも優れているといえた。 とにかく前へ前へ進んでいけばよかった。 だが、日本GPで優勝したことで流れが変わった。 彼は中国GPでチャンピオンを決めることができるポジションにつけていた。 人間守りに入ると弱いものである。 それはハミルトンとて、例外ではないのだろう。 これが、三つ巴で最終戦に突入した場合、ポイントリーダーが負けることが多い大きな理由だと思う。 そして、さらにハミルトンは大きなミスをしてしまう。 彼は手が滑り、ステアリングにあるスタート時に使用するボタンを、押してしまったのだ。 そのため、彼のマシンはギアがニュートラルになり、システムを再起動する間、ギアが入らず30秒近く失い、最後尾まで後退してしまった。 このミスがなければハミルトンは、チャンピオンになれていただろう。 ここまで、ほとんどミスのなかったハミルトンが、これほど初歩的なミスをするとは、想像することは出来なかった。 その後、彼のマシンは再びギアが入り、競争力を取り戻し、最終的には7位になったが、この2ポイントは彼には何の慰めにもならなかった。 最終的にライコネン110ポイント、ハミルトンとアロンソは共に109ポイントである。 極限状態の中では、想像しなかったこととが起こる。 私はそのたびに、自分の想像力の乏しさを痛感する。 ▽歓喜のフェラーリ 一方のフェラーリは、スタートから最高の展開。 それでもハミルトンに何かが起こらないと、奇跡は起こらないはずであったが、ハミルトンはコースアウトし、ギアのトラブルを抱えて大きく後退した。 逃げるマッサと追うライコネン。 マッサはレース前から、ライコネンを助けることを明言していたので、順位が入れ替わるのは時間の問題だと思われた。 だが、フェラーリはなかなか順位を入れかえない。 本来であれば、3位アロンソとの差がついた時点で、もっと早く順位を入れ替えペースを落とすべきであった。 マッサがどんどん逃げるので、追うライコネンもチームオーダーの疑いをかけられないためには、ついて行くしかない。 だが、この暑いブラジルではできるだけ、マシンに負荷をかけたくはない。 結果的にライコネンは逆転でチャンピンになれたから良いものの、もし、ライコネンがトラブルでリタイヤしたらと考えると、理解に苦しむ戦術であった。 同様の事は、スタート直後の1コーナーへの飛び込みでも見られた。 ライコネンはマッサが先に行かせてくれると思いながら、飛び込んでいったような挙動を見せた。 だが、マッサはライコネンに譲らずにそのままラインを維持した。 その為、ライコネンは状態のよくないラインを走りバランスを崩してしまった。 ライコネンは辛くもコース上に留まったからいいが、そこでライコネンのチャンスが終わっていた可能性もあるだけに、冷やりとした。 そのようなことが、ありながらもマッサは、ライコネンをサポートした。 レース途中で、ミスをしたのも何やら、チームオーダーを悟られないための作戦のような気がしなくもないが、スタートでハミルトンの前に飛び出て押さえ込み、それによりライコネンが前に出る進路を作った。 これは当初から計画されていたのだろう。 アロンソが4位以下になれば、マッサに優勝のチャンスもあったが、アロンソは苦しみながらも、なんとか3位でフィニッシュしたので、マッサの地元二連勝の夢はついえてしまった。 初めてチャンピオンに輝いたライコネンであるが、彼も過去二回チャンピオン争いをしたことがある。 その時も、追う立場であったが、隙を見せないミハエル・シューマッハーに敗れている。 だが過去の二回比べて、自分にとって一番チャンスが少ないと思われた今シーズンに、チャンピオンになれてしまうのであるから、不思議なものである。 ▽健闘!中嶋一貴 このレースがデビューレースとなった中嶋一貴であるが、悲喜こもごものレースになった。 まずは予選であるが、Q1を突破することができなかった。 フリー走行ではニコ・ロズベルグと同程度のラップ・タイムをマークしていたが、予選ではフリー走行よりも遅いタイムしか出せなかった。 ラップタイムを見ると第一、第三セクションはニコとほぼ同じタイムであり、第二セクションだけが0.7秒ほど遅かった。 フリー走行では、そのセクションも問題なく走れていたので、残念な結果となった。 予選アタックで、全てのセクターでいいタイムを出すのも、そのドライバーの力量だ。 速く走れるだけに、惜しい予選になってしまった。 これで、佐藤琢磨の後ろからスタートすることになった中嶋一貴だが、佐藤琢磨を追い抜くなどいい走りを披露し、10位でフィニッシュ。 19位スタートしては悪くない結果だ。 ラップタイムも、序盤から中盤はニコより遅かったが、終盤スーパーソフトを履いてからは、1分13秒台を連発。 ファーステスト・ラップもニコより速い1分13秒116をマーク。 それだけに予選での失敗が悔やまれる。 このレース、チームメイトのニコは4位に入賞しているだけに、予選さえよければ入賞は十分に可能だった。 初めてのサーキットで、初めてのF1という状況を考えれば、彼の可能性を感じさせるレースだったと思う。 ただ、来年のシート考えると、結果が欲しかったのは事実だ。 どんなにいい走りができたとしても、結果の出せないドライバーはシートを得るのが難しい。 ウィリアムズが経験のあるドライバーを選ぶのか、可能性のある中嶋を選ぶのか注目していきたい。 ▽最後まで苦しかったトヨタとホンダ トゥルーリは今回も、きっちり結果を残した。 予選8位からスタートし、決勝でも8位でフィニッシュ。 今年のトヨタは、ツゥルーリに助けられた。 彼がいなければ、トヨタはどうなっていた事だろう。 彼の元に、他のチームからオファーがないのが不思議だ。 これが、トヨタで最後のレースになるラルフ・シューマッハーだったが、15位スタートで、11位でフィニッシュ。 見せ場もなく、終わった。 残りのシートも少なくなる中、果たして来年、彼はF1で走っているのだろうか。 ホンダはバリチェロが11位スタートと期待を持たせたが、結果はリタイヤ。 バトンも予選16位から、リタイヤしてしまった。 苦しかったホンダの2007シーズンが終わった。 フル・ワークスでの参加となっているだけに、二年連続の失敗は許されない。 スーパーアグリの二台は琢磨が12位、デイビッドソンは14位で最終戦を終えた。 スーパーアグリの今シーズンは、躍進の前半と我慢の後半戦であった。 来シーズンのカスタマー・カーがどうなるか明確でない中、彼らの来シーズンも見えてこない。 ホンダの資金的な支援打ち切りの噂もあり、彼らの苦闘は続いていくが、何とか来シーズンも彼らの姿を見たいと思う。 【編集後記】 私が観戦記を書いて4年目のシーズンが終わりました。 いつもながら、多くの方に読んでいただき、ありがとうございました。 そして、多くの方からの励ましのメールがあればこそ、続けられたのただと思います。 11月の初旬には今シーズンを振り返るコラムを書かせていただこうと思っています。 よろしくお願いします。

3 thoughts on “信じられない結末 2007年 ブラジルGP観戦記

  1. 義経

    こんばんは、いつも楽しみにしております。
    いつもはメールで配信されているのをみているんですが、どうも最終戦のハミルトンのトラブルが何だったのか確定出来なくて気持ちの悪いところ、そうだ、仙太郎さんならば、なにか書いているかもしれないと思い、此処に来ました。
    情熱というネーミングも好きですが、さて、話が脱線してしまいましたが、そうハミルトン。
    なんと、ハミルトンのアレはステアリングのスタートに使用するボタンを押してしまったからだったんですね。
    なんか不可解でしたが、疑問が晴れてスッキリしました。
    あの時点でもうほぼハミルトンのチャンピオンは無くなったなと思いました。
    今、マクラーレンが控訴している問題もどうなるやら。
    私としては何度も挑戦し、移籍したが色々苦労していたライコネンにそのままシリーズチャンピオンであって欲しいです。
    そして、頑張れスーパーアグリ、頑張れホンダ。

  2. 特・名機某

    ども初めまして。
    スタートの時に使うというと"ローンチコントロール"でしょうかね?
    でも"ローンチ"を複数回も使うとドライブシャフトとかクラッチトラブルで止まってしまいそうと考えてしまうのは"シロート"でしょうか?
    "ライコネン"を前に出してしまった時点で勝負あったって感じました。

  3. shn-GT

    ハミルトンのスターティングスイッチを間違えて押したという件ですが、誤報であったと報道がでております。
    ですので、確実にヒューマンエラーが原因ということではないようですので、訂正されるのが懸命かと思われます。
    失礼ながら書き込みさせていただきました。

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