F1 ニュース&コラム Passion

鈴木亜久里の冒険の終わり その二

スーパーアグリのF1参戦は無謀だったのでしょうか。 2005年当時は、F1に参戦できるチームの数は限られていました。 2008年からカスタマーカーでの参戦が許可されることになっていました。 2008年からカスタマーカーを使用した、チームの参入が多くなることが予想されました。 そうなると、確実にF1に参加するためには、それ以前に参入するというのは、当然の発想になります。 そして、スーパーアグリはF1に参戦しました。 資金調達のめども立たずに、F1に参加するのは無謀だという声があることも知っています。 それも一つの意見でしょう。 ただ、2005年にエントリーしなければ、スーパーアグリは永遠にF1には参加できなかったと思います。 参戦を発表しなければ、スポンサーとの契約活動も本格的には、できません。 だから、その点においては、問題はないと思います。 ただ、大きな誤算がありました。 それは、カスタマーカーの問題です。 これは、スーパーアグリのスポンサー獲得活動において、致命的だったと思います。 スーパーアグリの年間活動予算は一説によると、100億円と言われています。 これを一社でまかなえる企業は、ある程度規模の大きい会社でなければなりません。 ところが、そういう規模の会社は、カスタマーカー問題のようなスキャンダルを嫌います。 これは、スポンサーになったチームが、カスタマーカー問題で失格になったならば、大きなイメージダウンになることから、理解できます。 カスタマーカー容認の流れの中で、独立系F1チームとしてウィリアムズとフォース・インディアが強硬に、カスタマーカーに反対したことも理解できます。 彼らからすれば、カスタマーカーは死活問題です。 いきなり、マクラーレンとフェラーリが4台体制になるのですから。 もし、最初からカスタマーカーが容認されないとわかっていれば、スーパーアグリもF1に参戦することはありませんでした。 今のF1は極度に、先端化しておりマシンの開発には、多額の資金が必要だからです。 昔は極端な話、エンジンさえ確保できれば、後はアルミの板を曲げて、鋼管を溶接すればF1マシンはできました。 今は違います。 カーボンを焼く窯や、風洞施設、シュミレーションする多くのコンピュータなどが必要です。 逆に言うと、マシンさえ提供してもらえれば、活動費用は安く済みます。 これは、とても大きな違いです。 さらに、SS Unitedの契約不履行が追い打ちをかけました。 この会社、私は当初からかなり怪しい会社だと思っていました。 消費者向けのビジネスをやっている風でもないのに、F1のスポンサーになるというのは、不可解でした。 しかし、当時のスーパーアグリの置かれた状況を考えると、他に選択肢はなかったのでしょう。 彼らの契約不履行により、シーズンの後半には、急速に資金が厳しくなりました。 では、ホンダはもっとスーパーアグリを支援すべきだったのでしょうか。 心情的に言えば、そうでしょう。 しかし、そう簡単な構図でもありません。 F1チームの親会社である本田技研工業は、立派な一部上場の会社です。 アメリカでも上場しています。 そうなると、資本関係のない他社に、資金供与をするわけにはいきません。 お金を外部に流出させることになるので、株主から賛同を得られませんし、利益が減ることにより税金の減ることになる税務署も厳しく指摘してくるでしょう。 それは、技術供与に関しても同じだと思います。 私は当初、ホンダはスーパーアグリに無償でエンジンやトランスミッションを供与しているのだと思っていました。 ただ、今回スーパーアグリの負債が100億円と言われる中で、そのうち80億円がホンダの債権だと報道されています。 いろいろな情報を総合しますと、この債権の大部分はエンジンやトランスミッションを供与した費用のようです。 ただ、これもよくよく考えれば普通のことです。 先ほど、お金を供与することが難しいことを話しましたが、ホンダの資産であるエンジンやトランスミッションを無償で提供することも、利益供与と見なされます。 この部分は、会計の厳格化の流れの中で、ホンダとしてもどうにもできない部分であったのではなかったかと思います。 心情的には、無償で提供したいが、それができない。 そういう理由があるので、ホンダを恨むのも、違うと思います。 ホンダとしては、債権として表に出ている以上の支援をスーパーアグリにしていたと思います。 栃木研究所の協力なども、その中に含まれます。 ホンダの社内でも、もっとスーパーアグリを支援すべきだと思う人もいたと思います。 しかし、ホンダは昔の中小企業だったホンダではありません。 このように見ていくと、この活動停止が一つの要素によって引き起こされたことではないことが、おわかりいただけると思います。 F1は経済的に見ると戦争と同じです。 F1チームは軍隊と同じ構造を持っています。 会社であれば、うまく経営すれば100億円を投資して200億円、300億円を回収することが可能です。 だから、出資してくれる人もいますし、お金を貸してもくれます。 これは、F1以外のスポーツでも同じです。 自分たちでチームを立ち上げ、リーグに参加して、試合をやれば入場料収入が得られます。 この入場料収入の範囲で経営すれば、チームが強いか弱いかは別にして、経営は成り立ちます。 しかし、F1は違います。 F1は大金を投資して、速いマシンを作りますが、直接の収入はグッズなどのマーチャンダイズなどであり、それでチームを運営することはできません。 また、前年のコンストラクターズのランキングに基づきTV放映権料の分配金が配布されますが、それとても下位チームには少額しか分配されません。 F1は金を集め続けて、投資し続けなければならないのです。 そうすると、技術だけあってもうまくいかないですし、お金だけあってもうまくいきません。 その両輪が回らなくては、ならないのです。 そうなると、マーケティングをうまくやらなければなりません。 お金を集められなければ、活動を続けることはできません。 お金があれば、優秀なスタッフを集めることもできます。 ただ、現在のように活動するのに巨額に費用がかかるとなると、趣味でサポートするというわけにはいきません。 大企業の世界的なマーケティング活動の中での、F1スポンサーとなります。 そうなると、ほとんどTVに映らない、小さいチームを支援する理由がありません。 現在、F1に参加している10チームの内、ワークス系はマクラーレンも含めると6チーム。 プライベータで老舗のウィリアムズを除く3チームは、大富豪が所有しています。 こう考えると、今のF1は巨大な自動車会社か、大金持ちしか参加できないスポーツになってしまいました。 それが、F1のステータスを高めることに貢献していることは間違いありませんが、かつてのプライベータが支えていたF1を知っている人間からすると、残念でなりません。 彼らの活動を無謀と片付けることは簡単です。 ただ、不可能を可能にした実行力は、賞賛に値すると思います。 何事も、できるできないで考えていれば、新しいことは何もできません。 結果だけ見て失敗というのは、あまりにも単純な結論だと思います。 彼らのおかげで日本のF1はどれほど盛り上がったことでしょうか。 恐らくスーパーアグリは、過去に消えていった小さなチームと同じように扱われるのでしょう。 今までF1から消えていったチームは、星の数ほどあります。 あの名門ロータスやブラバムさえも、消滅しました。 チームがなくなることは、F1では珍しいことではありません。 ただ、恐らくF1では最後の純粋なプライベータであるスーパーアグリを私は、忘れません。 彼らが復活することはまず、ないでしょう。 復活して欲しいとは思いますが、鈴木亜久里代表のこれまでの苦労を考えると、復活してくれとはお願いできません。 今はただ、ゆっくりしてくださいと言いたいです。

3 thoughts on “鈴木亜久里の冒険の終わり その二

  1. のりさん

    仙太郎さん…同感ですね…悲しいです。 言われるとおり、いろんな要素があったに違いありません。 そして表面には出てこない(あるいは出せない)こともいろいろあったのでしょう。 その詳細は我々には知る由もないことですし、1つのことを挙げて「あれのせいで」と言うことは浅はかなことなのでしょうが、少なくとも表面的は「ニックフライが妨害し、潰した!」ようにみえる!(先に交渉していたヴァイグルの邪魔をして、チーム存続に間に合わないタイミングまで引っ張って突然一方的に交渉をうち切ってきたのをみても、SAF1を潰そうとしていたとしか思えない…そしてマグマを紹介したのはニックフライなのだ) どうしてこんなヤツがホンダのCEOなんだぁ!? ホンダの気が知れない! こんなことするなら最初からスーパーアグリF1なんてやらせるなぁ! ふざけやがってぇ! 今後納得のいく説明がホンダとニックフライからない限り、こいつらへのバッシングはまぬがれないだろう! 私も前からホンダファンなのでホンダへのバッシングは本意ではないが…ちくしょう!

  2. うちゃみくん

    SAF1のいちファンとして、今回のF1撤退の件はただ「無念」としか言いようがありません。
    SAF1の活躍は、カネや権力が渦巻くF1の世界でも、努力は報われるということを見せてくれました。本当にすばらしいドライバー、スタッフでした。琢磨がアロンソをオーバーテイクしたシーンは有名ですが、あれには本当にしびれました。
    そんなSAF1が撤退に追い込まれるとは・・・。これで当面は佐藤琢磨という有能なドライバーが活動の場を奪われるわけです。
    私もホンダのファンなのですが、今回の件に関しては、ホンダのとった行動には怒りすら覚えます。特にニック・フライ。「トルコGPにSAF1が参加しない」という報告をFOMにしたのは、ニックだとか。「何でそんなこと言うの?」と。ふざけんなよ、と。ホンダは「SAF1の決断を尊重する」というような声明を出してますが、ホンダは彼らのできることをやりきったのでしょうか?SAF1を存続させるために、本気になったのでしょうか?私はホンダの真剣さに疑問を感じます。そうでなければ、ニックがあのような行動に出るわけがない!HONDAにも責任の一端がある以上、今後の彼らの責任ある説明・釈明を求めます。
    ところで、佐藤琢磨は少なくとも今シーズンはマシンに乗ることはありません。ここは、今シーズン限りでバリチェロとの契約を切り、琢磨を来シーズンからHONDAで戦わせるというのはどうでしょうか。これも責任のとり方の一つだと思います。

  3. horippp

    非常に残念な結果です。
    やっぱりF1は金持ちの道楽なのだろうか
    地上最速とおもってこどもの頃みていた
    自分も年をとり、なんだかとっても残念です
    あぐりさんお疲れさまでした。
    私には
    ホンダの意図もわかりません。
    わかろうともおもいませんが、、、。

horippp へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください