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2008 Rd.18 ブラジルGP観戦記

▽大波乱のエンディング 波乱のシーズンを締めくくる、大波乱のレースでした。 今まで劇的なチャンピオン決定の瞬間を見てきましたが、最後の10秒でひっくり返ったのは記憶にありません。 チャンピオン決定ではありませんが、1984年のモナコGPの大逆転劇にも匹敵する、劇的なエンディングでした。 ちなみに、そのモナコGPは最終ラップで2度もトップが入れ替わるレースで、ブラバムにのるR・パトレーゼが初優勝を飾りました。 確かに、低レベルなチャンピオン争いなどと揶揄する声が聞こえてきました。 それでも、最終戦での二人のトップドライバーによる人間同士の戦いは見応えがありました。 チャンピオンを争う二人のドライバーは、慎重にドライブしていました。 スタート直前に雨が降り、スタートは10分ディレイ。 ほとんどのマシンが、スタンダードウェットタイヤでスタート。 ハミルトンのスタートはあまり良いとは言えず、コバライネンが1コーナーへ早く到達しますが、ブレーキングでハミルトンを先に生かせます。 これで失速したコバライネンは、アロンソとベッテルにかわされ、徐々に引き離されハミルトンの援護はここで終わりました。 マッサのチームメイトである、ライコネンもペースが上がりません。 TVでは、ライコネンが意識的にペースを落として、ハミルトンを押さえ込むのではとの発言がありましたが、それはなかったと思います。 ライコネンはいつでも直球勝負ですから、レース後にコメントしたとおりタイヤが冷えてペースが上がらなかったのでしょう。 もし、ライコネンがハミルトンを押さえ込みたいのであれば、もっとペースを落としてハミルトンの直前を走らなければなりません。 正直な話、ライコネンは、チャンピオンがマッサであろうが、ハミルトンであろうが関心がなかったと思います。 雨の中のスタートを無難にこなしたマッサとハミルトンでしたが、タイヤ交換のタイミングが遅れたハミルトンは、7位に落ちます。 7位では意味のないハミルトンは、路面がぬれているにもかかわらず、ツゥルーリをパスして、6位に順位を上げます。 レコードライン以外は濡れている路面で、フィジケラを抜くのにてこずりますが、なんとか抜いて5位。 これでハミルトンは、マッサが優勝してもチャンピオンになれるポジションに戻ります。 路面が濡れる中、マッサもハミルトンも難しいドライビングを強いられます。 特に1コーナーであるエス・ド・セナでは、スピンしそうになりました。 ここは、急な下り坂でリアのトラクションが抜けながらも、アクセルを踏んで方向転換しなければいけない、ドライでも難しいコーナーです。 そこを濡れた路面で、アクセルを踏み続ける二人のドライバーの走りはスリリングでした。 最後の7周で雨が再び降り始めたとき、誰もがタイヤ交換をすると確信していました。 マッサとハミルトンもタイヤ交換をします。 ところがトヨタの二台はギャンブルをしました。 雨のインテルラゴスをドライタイヤで走ることを選択しました。 いったん降り始めると大雨になる確率が高いインテルラゴスで、ステイアウトしてドライタイヤで走ることは、大博打です。 ところが、雨は予想したより小降りで、降雨地域も限定されていたので、ドライタイヤのグロックは67周目から3ラップは1分18秒台で走り、この期間はグロックがコース上で最速で、トヨタの作戦は当たっていました。 一方のハミルトンは慎重に走っていたこともあり、残り三周で周回遅れのクビサに抜かれます。 クビサがハミルトンの直前で、レコードラインに戻ったので、ダーティな空気の中に突然入ったハミルトンは、マシンのバランスを崩して、レコードラインを外れました。 その瞬間を見逃さなかったベッテルがハミルトンをパスし、5位に進出。 ハミルトンを地獄に突き落とします。 残り三周で、ベッテルと追うハミルトン。 焦るハミルトンはアクセルを踏み込みますが、濡れた路面でマクラーレンはスライドして、ベッテルに引き離されます。 万事休すと誰もが思ったことでしょう。 ところが残り2周で雨が強まります。 残り2周目のグロックのタイムは前のラップより10秒遅くなり、1分28秒台へ落ちます。 これでもまだ、ハミルトンとの差は十分にあります。 そして、最終ラップで更に雨が強くなります。 グロックのタイムは1分44秒台に失速。 もはや、ドライタイヤで走れるコンディションではありませんでした。 そして、ハミルトンは最終コーナーでグロックをかわして、最後の最後に5位を確保。 最年少チャンピオンを決めました。 あまりにも劇的なチャンピオン決定の瞬間です。 ハミルトン、マッサ両陣営とも一瞬何が起こったのか、理解できなかったでしょう。 レース後に喜ぶ両陣営の姿は象徴的でした。 マッサ陣営の落胆ぶりは、いかほどのものだったでしょう。 私自身、アナウンサーが「ハミルトンがグロックをかわした」と言ったのが、信じられませんでした。 グロックじゃなくて、ツゥルーリの間違いだろうと思いました。 ハミルトンがフィニッシュラインを越えて、モニターに順位が表示されるまでは、この結果を信じることはできませんでした。 それでも、レース終了後10分くらいまでは、ハミルトンのチャンピオンを信じることはできませんでした。 まさしくアンビリーバブルなレースでした。 一部の心ない人は、グロックが故意に遅く走ったと主張しているようですが、そのような事実は絶対にあり得ません。 同じマシンで、ドライタイヤを履いていたツゥルーリも最終ラップで1分44秒台で走っています。 雨が降る状況でドライタイヤを履いたF1マシンは、まさに氷の上を走っているかのようです。 グロックはコース上にマシンをとどめるだけで精一杯だったはずです。 雨が激しくなったのがもう十秒遅ければ、ハミルトンのチャンピオンはなかったでしょう。 スタート直前の雨でスタートが10分ディレイになったこと、序盤にSCが入ったことなどを考えると、運はハミルトンに味方しました。 SCが1周早くピットに入っていれば、マッサがチャンピオンになっていた可能性もあります。 ▽ブラジルの勝者 マッサと年間の勝者 ハミルトン 敗れたとはいえマッサは、ブラジルGPの勝利者です。 素晴らしい走りを見せてくれました。 雨に弱いと言われていましたが、この難しいコンディションの中、ほとんどリードを譲ることなく、勝利を飾りました。 正直、シーズン前にマッサがここまでの存在になるとは想像もしていませんでした。 年間6勝は最多勝です。 しかも、ハンガリーではトップを快走中にエンジン・ブロー、シンガポールではピットのミスでノーポイントに終わります。 最終的には、この2回の取りこぼしが、マッサの敗因と言えるでしょう。 今年のフェラーリは、ピットでのミスやトラブルが多すぎました。 マクラーレンの信頼性とピットの作業は、フェラーリより安定していました。 言い古された格言ですが、「完走しなければレースに勝つことはできない」のです。 ハミルトンはこのレース、終始慎重に走っていました。 ハミルトンにとって序盤で7位まで順位を落としたことは、幸運だったのかもしれません。 これで優勝の可能性は低くなったからです。 目の前をマッサが走っていれば、持ち前のレーシング・スピリットで仕掛けた可能性もゼロとは言えません。 7位に落ちたことで、5位という明確な目標ができ、落ち着いてレースができました。 確かに運はハミルトンに味方しましたが、ハミルトンのチャンピオンは、それに値すると思います。 1年を通じて晴れても曇っても雨でも、ハミルトンは終始安定していました。 ただ、若いハミルトンはまだ学ぶべきことが、あります。 それができたとき、彼は2回3回とチャンピオンになる、偉大なるドライバーの仲間入りをすることでしょう。 彼にはその可能性があります。

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