2008年シーズンを振り返る
波乱に満ちた2008年シーズン。
そのシーズンを振り返ると、キーワードは「ミス」と「信頼性」と「ペナルティ」と言えるのではないか。
ミスはフェラーリ、マクラーレンともに多かった。
ライコネンがクラッシュしたベルギーとバレンシア。
ハミルトンはカナダでライコネンに激突し、富士の1コーナーで無理な飛込みを見せた。
ピットのミスは、フェラーリに多かった。
今年から信号システムを持ち込んだフェラーリだったが、最後の三戦さすがに従来型のロリ・ポップを使わざるを得なかった。
確かにあのシステムは、机上ではコンマ数秒、ロリ・ポップより時間短縮できるのであるが、人間工学上無理があるので、使用の停止は賢明な判断だった。
人間はミスをする存在である。
それを考えると、ミスをしても取り返しの付きやすいロリ・ポップは有効なアイテムである。
このシステムにより、マッサはシンガポールで10ポイントを失った。
コンマ数秒稼げれば、ピットアウトで抜ける場面もあるとは思う。
だがその犠牲になったポイントを考えると、この信号システムを導入すべきだったのか、疑問である。
フェラーリは信頼性にも悩まされた。
マッサ、ライコネンともにエンジンブローに見舞われた。
特にマッサのエンジン・ブローはトップを快走していただけに、失った10ポイントはあまりにも痛かった。
今年から、1回限りエンジン交換が認められたので、目立たなかったがフェラーリの二台は、共にこのジョーカーを使用している。
マクラーレンのハミルトンはジョーカーを使わず、コバライネンも使わなくてもいいような状況で一度、エンジン交換をしている。
そればかりか、マクラーレンはドイツGPで右側のエア導入口の面積を狭くして、耐熱性に自信を見せていた。
もうひとつシーズンの結果を左右した問題がある。
それがタイヤの発熱問題だ。
タイヤの温度は熱いとオーバーヒートして最悪、バーストするが、かといって低ければ良いというものではない。
F1のタイヤは最適温度内で使用しないと、グリップを発揮しない。
最適温度に達しない温度で、F1マシンを操るのは、雪のモンテカルロを走るようなものである。
独占供給となったブリヂストンは、保守的なタイヤを持ち込むことが多い。
それは当然なことではある。
GPを開催するサーキットの温度は、実際に行ってみないと正確にはわからない。
そうなると路面状況や気温、過去の実績などを考えて、最悪の条件でも使えるタイヤを持ち込むのは、当然の義務である。
そうしないと最悪、アメリカGPでのミシュランのようになる可能性すらある。
ところが、これがフェラーリにとっては災いした。
タイヤにやさしいフェラーリはたびたび、タイヤ温度が最適に温まらない現象に直面した。
また、最適温度にすることができても、時間がかかることも多かった。
その間に、差を広げられれば勝てるチャンスはなくなってしまう。
異常気象の影響なのか、気温が低いレースが多かったこともフェラーリにとって、この問題を悪化させた。
雨が多かったのも、痛かった。
モナコ、イギリス、ベルギー。
そのどれも、フェラーリが勝ってもおかしくなかった(ベルギーはハミルトンのペナルティでマッサが優勝)。
だが、獲得したポイントはわずかである。
特に予選でのタイヤの温度は深刻だった。
ライコネンがチャンピオンにとれなかったは、これが原因だと私は思っている。
決勝は何十周も走るので、最初は冷えていてもだんだんとタイヤの温度は上昇してくる。
ところが、予選の場合は1周で暖めて、即アタックしなければならない。
かといって、アウトラップでスピードを上げすぎて、タイヤのおいしい所を使ってしまうのも、困る。
特にライコネンはそのドライビングスタイルからフロントタイヤがグリップしないと、思い切って攻められない。
マッサはその点、マシンセットアップが安定志向なので、グリップが多少足りなくても、それなりのタイムは出せる。
ライコネンが一時期、予選で落ち込むことが多かったのはこれが原因だと思っている。
やる気がないとメディアに批判されたりしたが、そんなことはない。
そして、シーズン中に物議を醸し出したのが、ペナルティである。
特にチャンピオンを争うハミルトンに対するペナルティは喧々諤々の論争を生み出した。
ハミルトンはそのアグレッシブなドライビング・スタイルにより、危険なドライバーとの批判も受けたが、私は危険だとは思わない。
現代F1で抜きにいけば、リスクは大きい。
彼は積極的にそのリスクをとっているのであって、決して無茶なドライビングをしているとは思わない。
ほとんど場合、彼はマシンをコントロールしている。
彼の問題は技術的なものではなくて、心の問題にある。
つまり自己抑制が出来ないということだ。
ベルギーでのペナルティには疑問もあるが、あそこで仕掛ける必要があったのであろうか。
富士の1コーナーで飛び込む必要があったのだろうか。
そこには疑問が残る。
そこの部分を改善していかないと、ミハエル・シューマッハーの大記録を目指すことはできないだろう。
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