ポイント・ルール改正へ 金メダルの数で決まるチャンピオン
▽金メダルでチャンピオンが決まる!?
来シーズンから金メダルの数でチャンピオンが決まる?
突然、バーニー・エクレストンがこう言い出した。
確かに、彼は以前にも追い抜きが少ないレースに不満を持ち、このような話はしていた。
だが、それは単なるレースを面白くしたいと言う彼の希望で、実現させるとは思っていなかった。
だが、このルールでチャンピン争いは本当に面白くなるのであろうか。
まずは、少し説明が必要だろう。
F1のチャンピオンシップは過去から現代に至るまで、一貫して最もポイントが多いドライバーが勝つ仕組みになっている。
この場合、たとえ1勝しかしなくても2位や3位の数が多ければチャンピオンになれる。
実際、1982年ケケ・ロズベルグは1勝しただけでチャンピオンになっている。
これを勝ち星が一番多いドライバーが、チャンピオンになれるようにしようというのが今回のルール改訂の趣旨だ。
実は、この問題は過去から現在にいたるまで議論されてきた。
もっとも勝ち星が多いドライバーが、チャンピオンにふさわしいのではないのか、という議論だ。
その為、過去にはGPの勝者に与えられる9ポイントを10ポイントに増やして、レースの勝者が有利になるように仕組みを変えてきた。
これに加えて有効ポイント制が導入された年もある。
例えば年間16戦中14戦でポイントをとった場合、そのうちの11戦分のポイントだけがカウントされるとされるものだ。
これもまた、低いポイントを多く稼いだドライバーがチャンピオンになるのを防ぐ効果があるといわれてきた。
ところが、このルールは2003年に変更される。
一位に与えられる10ポイントは変わりないが、二位のポイントをそれまでの6ポイントから8ポイントに増やしたのだ。
要するに、勝者の価値を薄めたのだ。
それと同時に6位までにポイントが与えられていたのが、8位にまでポイントを与えるようになった。
この変更の趣旨は明快で、たくさん勝つドライバーが早々にチャンピオンを決めることを防ぎ、チャンピオン争いを最後まで長引かせて、盛り上げて、TV視聴率を増やそうとしたのだ。
おりしもこのルール変更の前年2002年は、ミハエル・シューマッハーの全盛期で17戦中11戦で勝利して、早々とチャンピオンを決めてしまった年である。
つまりこのルール変更は、強すぎるシューマッハーの独走を防ぐために導入されたシューマッハー・ルールとでもいえるものであった。
実際、2003年以降の6シーズンで、シューマッハーが独走した2004年を除く5シーズンで、チャンピオン争いは最終戦までもつれている。
バーニーの思惑は見事に当たったわけだ。
ところが、何事にもいい面があれば、悪い面もある。
このルールの悪い面は1位と2位とのポイント差が2ポイントしかないので、無理して1位を狙うより2位でフィニッシュすることを選ぶドライバーが増えたことだ。
当然、レースは退屈になってくる。
そこで再びバーニーは、動き出した。
それが一番勝利数の多いドライバーがチャンピオンという、金メダルルールだ。
だが、はたしてこのルールはF1をよりエキサイティングなものにしてくれるのであろうか。
▽追越が少ない本当の理由
そもそも、2位でよしとするドライバーはいない。
彼らは、負けず嫌いであることにかけては、皆チャンピオン級である。
そうでなければ、F1ドライバーなどにはなれない。
彼らが、2位でもよしとするのは、ポイント差が少ないだけではない。
追い越しそのものが、難しくなっているからだ。
みなさんもご存知のように、今のF1マシンの後ろを走ると、ダウン・フォースが急激に変化し、最悪コースアウトしてしまう。
このため、後ろから追い抜こうにも、前走車との差を詰められないというジレンマが発生する。
彼らは好き好んで2位を選んでいるわけでも、喜んでいるわけでもない。
無用なリスクを犯したくないだけだ。
彼らは追い抜くときのリスクはとりにいく。
それくらい攻撃的でなければF1にまで上り詰めることは不可能である。
だが、この空力のリスクは彼らはコントロールできないし、予測も難しい。
このようなリスクは、プロフェッショナル・ドライバーであれば誰もが取りたがらなくて当然である。
▽オーバーテイクがF1を救う
そこで2009年シーズンである。
2009年は空力的なレギュレーションが大きく変わる。
フロント・ウィングの搭載位置の低下と拡幅と可変化、前後ウィング以外の空力的付加物の禁止、及びリア・ウィングの高い位置での搭載と幅の縮小が主な変更点である。
これにより、追い抜きが容易になるといわれている。
であるならば、ルール変更などしなくてもオーバーテイクシーンは増えると思う。
元々、抜きたくて仕方がないドライバーが、自分を抑えていただけである。
追い抜きが可能であれば、彼らがそれを躊躇する理由はない。
また、このポイント・ルール変更により懸念される点が二つある。
それは優秀なマシンにのるドライバーは圧倒的に有利であるということだ。
勝たなければ意味がないのであれば、速いマシンにのるドライバーは圧倒的に優位に立つことができる。
もちろんスピードを競う競技であるF1は、速いマシンにのるドライバー有利なのは、当たり前である。
だが最速のマシンにのるドライバーが、必ずしもチャンピオンになるわけではないのも、また事実である。
過去にも、遅いマシンにのり勝ち星が少ないながらも、2位や3位でポイントを稼ぎ、チャンピオンになった偉大なるドライバーを何人も知っている。
これをある人は、最多勝のドライバーがチャンピオンにならないので、おもしろくないというのであろうが、私の見解は違う。
私はこういうチャンピオンが大好きである。
速いマシンにのって勝つのは、F1レベルのドライバーであれば誰にでもできる。
そうではなくて、多少劣るマシンでもドライバーの腕と知恵で、チャンピオンを取れるところが、F1の面白さであると思っている。
だからこそ、過去には唯一ドライバー・チャンピオンシップが、かけられていたのだと思っている。
ドライバーの力が大きく結果を左右するからこそ、F1のチャンピオンは世界中で尊敬されるのだ。
このルール変更によりドライバーの力が結果に影響を及ぼさないとは思わない。
だが、相対的にその割合が少なくなることは間違いないだろう。
もう一つの懸念すべき点は、勝たなければ意味がないのであれば、無理な追越が増えるのではないだろうか。
確かに、バーニー・エクレストンが言うように、このルールが導入されれば、追い抜きシーンは増えるかもしれない。
だが、それと同時に優勝を争うマシンが絡むシーンも多くなるだろう。
実際、過去に有効ポイント制が導入されていた時期には、シーズン終盤で優勝しなければポイントが増えないドライバーが無理やり追い越しを仕掛けて両方ともリタイヤになり、チャンピオンが決まることがあった。
こういう誰にとってもやりきれない結末を防ぐために、有効ポイント制が廃止され、獲得した全てのポイントが有効になってきた。
そうして、確実にポイントを取るというやり方が、主流になっていく。
それに、勝つことだけが意味があるのであれば、2位や3位のドライバーはどうすればいいのだろうか。
それとも、チャンピオンだけ優勝の数で決めて、2位以下のドライバーはポイントで決めるのだろうか。
2位のドライバーのポイント数が、チャンピオンのそれを上回ったらどうするのであろうか。
優勝の価値を増やしたければ、1位のポイントを13とか15に増やせばいいし、有効ポイント制を復活させるのもいいだろう。
バーニーは、最終戦の最終ラップでチャンピオンが決まった、今シーズンの結果に満足していないのだろうか。
勝ち星だけでチャンピオンを決めれば終盤を待たずして、チャンピオンが決まることも多くなるだろう。
それが彼の望みなのだろうか。
少なくとも今シーズンのレギュレーション改定で、追い抜きシーンが増えるかどうかみてから、決めても遅くないのではないか。
そう思う唐突なポイント制変更のニュースだった。
このポイント制の変更、みなさんはどうお考えだろうか?
もっとも、このルール改正はFIAの承認を得なければならない。
はたして、承認は得られるのか、注目してみたい。
- 佐藤琢磨 バルセロナ・テスト インタビュー
- ルイス・ハミルトンの実力は本物か?