オーストラリアGP観戦記 不思議の国のブラウンGP
オーストラリアGP観戦記 不思議の国のブラウンGP
▽不思議な光景
実に不思議な光景であった。
真っ白なボディのマシンが二台フロント・ロウに並び、その二台が1-2フィニッシュ。
私も長年、F1を見てきたがこんな光景を見たことがない。
記録によれば1977年にウルフが開幕戦で勝った時以来の、新しいチームによる勝利。
新しいチームによる1-2フィニッシュとなると、1954年のメルセデス以来というのであるから、歴史的な勝利であるのは間違いがない。
確かにブラウンGPを全くの新しいチームと言うのもどうかとは思うが、参戦が決まるのが遅れ、準備不足で臨んだレースでの勝利はやはり快挙と言えるだろう。
では、彼らの強さの源はどこにあるのだろう。
一部では、昨年早々に2008年型マシンの開発を諦め、今年のマシン開発に集中したからと言う報道も見受けられたが、それには賛同しかねる。
そもそもホンダは2007年シーズンも冴えないスタートを切り、マシン開発を打ち切り2008年のマシン開発にかけたが、結果は芳しくなかった。
それに開発期間が長ければ、いいマシンが開発できるのであれば、後続集団はシーズン早々に、来年用のマシン開発を始めれば、翌年はいい成績が望めるはずだが、そうはならない。
彼らの強さの秘密が、新しいディフューザーにあると見るのは妥当だろう。
今年から高さと幅が制限されたディフューザーにより、ダウンフォースは50%減っている。
外見的には幅広のフロント・ウィングや高くて狭いリア・ウィングに気を取られるが、今年のレギュレーション改定で最もタイムに影響を及ぼしているのは、このディフューザーの制限である。
幅を1,000mm、長さ350mm、高さ175mmに制限しているのだが、彼らはレギュレーションの抜け道を使い、センター部分を高く跳ね上げている。
これにより15%程度ダウンフォースを増やしていると見られる。
F1の世界において15%ダウンフォースが違えば、違うクラスのスピードを実現できる。
実際、予選ではフロント・ロウを独占し、レースでもバトンがポール・ツゥ・フィニッシュで勝利を飾った。
ただ、トヨタやウィリアムズも形が若干違うが同じアプローチを取ってきているにもかかわらず、ブラウンGPが飛び抜けて速いのは何故だろう。
真の理由はまだわからないが、彼らのマシンの速さがディフューザーだけでないのもまた、事実である。
恐らく重量配分などが、タイヤにあっているのだろう。
これがロス・ブラウンの力と言うべきなのだろう。
だがこのディフューザーは既に他チームの研究対象にされており、早々にコピーされる運命にある。
その時に、どの程度の走りを見せられるかがチームのそして、ドライバー達の真価が問われるときと言えよう。
彼らにはスポンサーの問題もある。
開幕直前にヴァージンとの契約がまとまったが、これは二戦限定の5000万円という破格の金額での契約であり、1年間を戦い続けられる資金があるかは不透明な状況だ。
ホンダからは1年間活動を続けられる必要最低限の資金供給はあったようだが、それだけでは今後失速するのが目に見えている。
今後は、株式の一部譲渡やメインスポンサーの獲得など、難題が山積みされている。
▽勝ちを逃がしたクビサ
そんな別次元のブラウンGPではあるが、開幕戦の勝利は幻に終わっていた可能性もあった。
第三スティントにハードタイヤを履いたクビサが急追。
二位のベッテルをかわしバトンに狙いを定めた直後に、ベッテルが逆襲。
クビサのインをつくが、曲がりきれずにクビサと接触。
二台ともリタイヤとなった。
昨シーズンから大躍進をとげたベッテルであったが、若さが出ての自滅。
本人も反省しきりだったが、誰でもこの類のミスはする。
問題はミスから学んで二度と同じミスをしないか、他人のせいにして同じミスを続けるか。
どちらの道を選ぶのかが、今後の彼のキャリアを大きく左右する。
そう言う意味では、ベッテルは大いに反省しているようなので、将来は明るい。
今時のドライバーとしては、珍しく素直であり、彼の今後に期待したい。
だが、勝利を逃したクビサの悔しさも相当なモノだっただろう。
彼はソフトタイヤを履いてスタート。
今年、ブリヂストンはスリックタイヤを復活させた。
今年のタイヤは、溝のあるなしという以外に大きな特徴がある。
持ち込む二種類のタイヤの特性に大きな差があるのだ。
コンパウンドが違うのは昨年までと同じだが、今年は動作温度領域も違う。
よってサーキットのレイアウト、気温、マシン、ドライビング・スタイルの違いによりソフトとハードの差が昨年より顕著に表れる。
ソフトは早く暖まりタイムもいいがすぐにグリップが落ちる。
ハードは暖まりが悪くタイムは良くないが、安定しており、長いスティントでも安定したタイムで走りきることができる。
オーストラリアの環境ではほとんどのマシンで、ハード側が安定していて、ソフトは一発のタイムは出るモノのタレが激しかった。
タイヤの状況でもバトンは、もっともうまくやっていたドライバーの一人だったが、クビサは第一スティントでソフトを履き、遅れたが、その遅れをSCで挽回。
第三スティントでハードを履いたクビサは、激しく追い上げベッテルを抜き、バトンを射程圏内に納める勢いだったのだが、ベッテルと絡んでリタイヤ。
あまりにも痛いアクシデントとなった。
ソフトを履いたベッテルに勝ち目はなかったで、ベッテルは自重すべきだった。
▽バリチェロの棚ぼたの二位
このアクシデントでバリチェロが4位から2位に繰り上がり、ブラウンGPの1-2フィニッシュとなったわけだが、バリチェロのドライビングも褒められたモノでは無かった。
フロント・ラインからのスタートをミスで大きく後退。
さらに接触などもあり、マシンの良さを活かしきれない。
結果的に二位にはなったが、決して褒められた走りではなかった。
だがこのバリチェロのドライビングでわかったことが一つある。
それは、ブラウンGPのフロント・ウィングがかなり頑丈に作られていることである。
幅が広くなり、見切りが悪くなったので、接触する可能性を考えて強くしているのであれば、さすがである。
ウィリアムズはテストから好調が伝えられていたが、中嶋は昨年同様、予選でのタイムが伸び悩み、Q2で脱落。
レースでも縁石に乗り上げ、クラッシュ。
最初のSC導入の原因となった。
予選でのタイムを何とかしなければ、今年も苦しい。
特にシーズン序盤では、ディフューザーのアドバンテージがあるだけに、序盤で結果を残しておきたい。
- F1開幕直前情報 Part2 ディフューザー、タイヤ、エンジン
- 開幕戦を終えて