マレーシアGP観戦記 雨中の大混乱
豪雨で大荒れのレース展開だったが、バトンの二連勝と予想通りの結果となったマレーシアGP。
二戦を終えて今シーズンの展開がかなり見えてきた。
【ブラウンGPの速さは本物である】
予選でソフトタイヤ2セットを温存しながら、大差でポール・ポジションを得たバトン。
違うタイプのサーキットで最速を記録したことで、彼らの速さが本物であることが証明された。
だが、予想していたよりも、他との差が少ないのも事実である。
これが、ロス・ブラウンの作戦で、手の内を見せていないというのであれば、それは凄いことである。
恐らく、チャンピオンを狙うことができるだろう。
もし、そうでなくてこれが全力であれば、シーズン半ばには他車の追い上げが急になる。
追いかけるチームの方が有利だ。
なによりも、ブラウンGPの速さには種も仕掛けもある。
ディフューザーをコピーすれば、ダウンフォースが増えて速くなる。
問題なのは、ディヒューザーをコピーするにしても、早くて1ヶ月時間、空力全体を見直せば数ヶ月はかかる。
それまでに、いかにポイントを積み重ねることができるかが、勝負だ。
そう言う意味で、、マレーシアでハーフ・ポイントになったのは痛い。
このハーフ・ポイントは終盤に大きな意味を持つことになるだろう。
【ディヒューザー3は速い】
灰色のディヒューザーを装着するブラウン、トヨタ、ウィリアムズを一部で、ディヒューザー3と呼んでいるらしい。
実際、彼らは速い。
マレーシアでも予選上位6人中5台がディヒューザー3のマシンである。
他のチームがどの時点で、二重ディヒューザーを持ち込んでくるのか、興味深い。l
【レッドブルも速い】
そう考えると、この6台以外で最速なのは、レッドブルと言うことになる。
今回も、トップ6に唯一正規(?)のディヒューザー装着者として潜り込んだ。
彼らのマシンのリアエンドは低く、絞られている。
ニューウェイの面目躍如と言える、攻めたデザインだ。
だが、このレッドブルにも弱点がある。
それは、リアエンドを絞り込みすぎているのでブラウンGPと同様のディヒューザーを装着するのは、難しい。
かつて、フラットボトム規定が導入されたとき、ユニークなマシンと作戦ででピケをチャンピオンにしたブラバムBT52を思わせる、ユニークなレッドブルRB5。
もし、ブラウンGPのディヒューザーが違反と判断されれば、レッドブルは大きなアドバンテージを得ることになりそうだ。
【KERSは遅い】
ディヒューザー3の速さに比べてKERS採用チームの結果は冴えない。
これはKERS採用マシンの出来がもともと悪いと言うことも関係している。
KERS非採用マシン3チームが、灰色のディヒューザーを搭載して速いことも、一層わかりにくくしている。
少なくとも今年前半に限れば、KERS搭載車の競争力は厳しい。
スタート時やオーバーテイクをする際には有効だが、重量配分の変更が限られるのと、ブレーキング時にモーターを回し、電気を蓄えるのだが、その際にモーターの抵抗があるので、微妙なブレーキ・フィールが得られない。
F1ドライバーは、緻密なブレーキングをして、マシンの姿勢を制御しているので、これは大きな問題だ。
実際、今回雨のレースでは、大半のドライバーがKERSをオフにして走っていた可能性が高い。
ただ来年以降はこのKERSの使えるパワーと時間が増える。
それを考えて今年は、熟成の年を割り切れるだろうか。
かといって、BMWのように1台にKERSを搭載し、1台は乗せないという判断も難しい。
KERS搭載マシンと非搭載マシンでは、別のマシンを開発するほどの違いがあるという。
そうすれば、シーズン半ば以降の競争力に問題が出てくる可能性がある。
チャンピオンを狙うには、早々にKERSに見切りをつけた方がいいようだ。
だが、開幕遠征4連戦中に方針を変更するのは、難しい。
ヨーロッパ・ラウンドからはKERSを諦めるチームが出てくると思うが、どうだろうか。
【タイヤ選択の明暗】
雨が降り始めたとき、どのタイヤを選択するかは、難しい判断であった。
確かにTV解説者が言っていたように、マレーシアは豪雨のイメージが強すぎるので、大半がヘビーレインタイヤに交換した。
しかし、この選択を非難することはできないだろう。
というのも、マレーシアのスコールは本当に半端でなく、豪雨である。
一度、そうなると全く手が着けられなくなる。
100キロ以下で走行していても、ハイドロ・プレーニング現象が発生する。
そうなれば、ドライバーはもうお手上げである。
結果的には、インター・ミディエイトを履くのが正解だったのだが、これはそのリスクを考えた上で、大胆な選択をしたトヨタとグロックを褒めるしかないだろう。
結果的に彼は3位という果実を得た。
ちなみに、TV解説で少しだけ濡れていた時のラップタイムが遅いので、タイム的にはヘビィレインで正解だと言っていたが、あれはコースの半分くらいで雨が降っておらず、ドライ路面をヘビィレインで走っていたために、タイムが遅かっただけで、正解はインターミディエイトだった。
【イブニング・レースの憂鬱】
予想通り夕方からの豪雨でレース中断、打ち切り。
確かにヨーロッパでのテレビ中継時間は重要なのであろう。
だが、それ故にレースの途中打ち切りが発生しては、視聴者の満足度は下がるだろう。
かといって、ナイト・レースは費用がかかるし、電気の使用量も半端ではない。
今回の場合、レースが再開されても薄暗くて、最後まで走りきることはできなかった。
昼間の時間帯にレースをして欲しい。
【フェラーリの迷走】
ドライ状態でライコネンに、ウェットタイヤを履かせて自滅したフェラーリ。
Q1突破タイムを見誤り、Q1で脱落したマッサ。
だが、彼らが不思議な作戦をとるのは、これが初めてではない。
思い返せば2年前。
2007年辺りから彼らはおかしな作戦や馬鹿げたミスを犯すことが多くなった。
幸いなことに2007年、2008年は連続してタイトルを取ることができたので、大事にならなかっただけである。
だが、本来2007年も2008年も大差をつけてダブル・タイトルを取っているべきだった。
この二年間、彼らのマシンは最強だった。
にもかかわらず、タイトル獲得に胡座を書いていたツケがここに来て、出てきただけである。
彼らを弁護するのであれば、Q1でもう1セット余分にソフトタイヤを使うのは、Q2 Q3 での展開に大きな影響を及ぼすので、できなかったと考えるべきだろう。
アウトラップに出て、状況を見てアタックすべきという考えもあるが、そうすればタイヤ摩耗し、Q2でのアタックで最後まで持たない可能性もある。
Q2に進出することだけを考えれば、Q1でもう一度アタックすれば良かったが、Q3進出を考えれば1セットのソフトタイヤを温存する意義はとても大きい。
結局、これは作戦のミスというより、マシンに速さがない事に起因する問題ととらえる方がいいだろう。
ドライ状態で、ライコネンにウェットタイヤを履かせたのも、スピードがないマシンで勝つためには、そうするしかなかったということだろう。
確かにあの状況で、ウェットタイヤに履いて走ればドライタイヤよりも15秒以上遅くなる。
そうなれば3周もすれば、タイヤ交換する時間分は余裕でロスする。
そうなれば全く意味をなさないタイヤ交換だったにもかかわらず、彼らがそうせざるを得なかったのは、彼らは勝たなければならないという、大きなプレッシャーを抱えていたからだろう。
この部分に関しては、外部からは見えない部分である。
過去二年は、作戦ミスを最速マシンが補っていたが、今年はそのマシンがないので、作戦ミスが大きくクローズアップされている。
これを修正するにはマシンを速くするか、スタッフを変えるしかない。
過去2年、フェラーリの最大の問題はリーダーシップを取れる人がいないことである。
それは、スタッフ側にもいないし、ドライバー側にもいない。
ミハエル・シューマッハー存在していた頃は、彼やロス・ブラウン、ジャン・トッドがリーダーシップを取り、問題を特定し、修正していけた。
だが、今のフェラーリにそのような存在はない。
フェラーリの迷走はまだまだ、続きそうである。
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