中国GP観戦記
▽ミラクル・ベッテルのスーパードライビング
またまた、この20歳の若者が魅せてくれました。
去年のモンツァに続いて雨のレースでの勝利です。
以前、ベッテルが今年チャンピオン争いをするのではと書いたのですが、今年チャンピオンになってもおかしくないでしょう。
それくらい凄い走りでした。
あれだけの雨の中を走り、大きなミスは一つもなし。
しかも、終盤のラップタイムを見ても、他車よりも早いタイムを刻んでいる。
なんという21歳でしょう。
優れたマシンがあるだけでは、チャンピオンになるのは不可能です。
優れたドライバー、優れたデザイナー、優れたリーダー、優秀な人材、マネージメント力、等々の総合力が求められます。
昨年までのレッドブルにも、優れたデザイナーはいました。
エイドリアン・ニューウェイです。
そして、ジェフ・ウィリスを入れてデザイン部門の管理体制を強化しました。
着々とチーム力を向上させてきたレッドブルに足りなかった最後のピースが、ベッテルなのだと思います。
当時、最強とは言えなかったベネトンがミハエル・シューマッハーという武器を手に入れてチャンピオン・チームへ上り詰めたように、ベッテル、ニューウェイのコンビはレッドブルに初めてのタイトルをもたらす可能性があります。
だが、彼らのタイトルには、二つの障害があります。
それは、ベッテルの若さと信頼性です。
ベッテルは開幕戦で、クビサとからんでリタイヤしました。
接触自体はレーシング・アクシデントで、ペナルティに値するかどうかは、議論の分かれるところでしょう。
問題はあそこで抜き返しても、クビサが圧倒的に速い状況では、また抜き返される可能性が高かったことです。
トラクションの掛かりが全然違っていたので、勝負するのは厳しかったでしょう。
同じタイヤを履いているのであれば、勝負に行くのはわかります。
しかしベッテルはグリップの落ちたソフトタイヤで、クビサはグリップするハードタイヤを履いていました。
クビサにプレッシャーをかけるのはいいのだが、実際に飛び込むのはあまりにもリスクが高い行為でした。
ただ、この件に関してはベッテルも反省しています。
彼はとても頭のいいドライバーなので、二度と同じ間違いは起こさないでしょう。
この種類のトラブルは、速いドライバーが引き起こす熱病みたいなものです。
速いドライバーであれば、一度は通る関門なのです。
彼らは速く、自分の能力に自信を持っているので、追い越しを仕掛けてしまう。
そして多くの場合、それを成功させてしまう能力もある。
追い越しを仕掛けるので、ベテランからは危険なドライバーだと言われることもあります。
しかし、それは彼が優秀だからです。
最初から仕掛けないドライバーに勝利の資格はありません。
かつてはシューマッハーやアロンソも、大きなミスをしてその代償を支払いました。
あのセナだって、デビューした頃には接触して、危険だと言われていました。
ベッテルには、それらの偉大なチャンピオンと並べる可能性があります。
彼がどこまで伸びるのか、今年の彼からは目が話せません。
もう一つの障害は信頼性です。
ニューウェイの攻めたデザインは、機械を狭い場所に押し込みます。
それ故に、取り回しが厳しくなり、トラブルが発生する可能性が高くなります。
このあたりを、ジェフ・ウィリスがうまくコントロールできれば、頂点に立つ可能性は一気に高くなるでしょう。
▽バトン、手堅く3位
レース前の予想では、バトンの勝利は動かないと予想していました。
上海サーキットのレイアウトを見ると、長い直線からのハードブレーキング、低速からの加速が求められる。
オーストラリアGPも見てもわかるように、ブラウンGPのブレーキング・スタビリティ、トラクション能力は優れていて、バトンのスムースな運転は、タイヤに厳しい上海サーキットでは、特に有利でした。
だから予選4位でもバトンの勝利の可能性は高かったと思います。。
前にベッテルとアロンソがいたので、簡単ではなかったと思いますが、バトンは最初のストップを上位の三台より5周以上遅くすることが可能だったので、ドライなら、その間に十分に抜くことが可能でした。
ところが雨が彼らのシナリオを崩してしまいました。
タイヤに優しいブラウンGPのマシンと、バトンのドライビングはタイヤ温度が上がりにくいという現象に悩まされました。
ドライだと彼らの武器になるタイヤに優しいマシンとドライビングが彼らの足を引っ張りました。
こうなると苦しくなります。
タイヤが暖まらないからペースが落ち、ペースが落ちるからタイヤが暖まらない。
そして、バトンはレッドブル勢に太刀打ちできませんでした。
ウェバーとは争っていましたが、無理をしてリタイヤするよりも、ポイントを獲得するために、終盤はペースを落として確実に6ポイントを得ました。
ただ、チャンピオンを目指す上で、バトンは開幕四連勝を目指したかったところです。
というのも、追い上げるライバルチームの追い上げが急だからです。
マクラーレンは新しいフロント・ウィングとディフューザーを持ち込みました。
トヨタもディヒューザーに改良を施してきました。
一方、ブラウンGPは、大きなアップデートはありません。
スペアパーツも豊富とは言えない状況です。
二階建てディヒューザーが正式に認められ、ライバルチームも開発してきます。
最適な二階建てディヒューザーを作成しようとすれば、衝撃吸収構造やサスペンションまで見直さなければならないので、時間はかかると思います。
開幕戦では、ライバルより10Kg多く燃料を積んでいても余裕でポール・ポジションが取れたバトンですが、今回は燃料が15kg以上軽かったとはいえ、ベッテル、アロンソ、ウェバーに前に行かれてしまいました。
確実にブラウンと他のチームとの差は縮まってきています。
シーズンは長い。
好調なブラウンですが、実際は楽観を許さない状況だと思います。
▽スーティルの暗とブエミの明
4周目にピットインして、ワンストップで上位に進出したスーティル。
コースアウトしながらも6位まで上り、フォース・インディア初のポイントまでもう一歩まで迫りました。
しかしです、あと6周を残してコースアウト。
昨年のモナコでは4位走行中に、ライコネンにぶつけられ無得点でした。
今回は、ハミルトンに追われて余裕がなかったのでしょう。
6位を走っていたので、ハミルトンだけであれば、先に行かせる方法もありました。
しかし、その後ろからはハイドフェルドやグロックなどが迫っており。
彼らに抜かれれば、9位もあり得た展開でした。
あのコンディションでは、コースアウトしても彼を責められないでしょう。
だが、弱小チームで自分の実力を証明するには、今回のようなコンディションしかないのも事実です。
弱小チームから成り上がっていったドライバーは、全てこのような状況を活かし、結果を残して、トップチームから引き抜かれます。
この世界は、途中にどんないい走りをしていても、結果が大事です。
それが、たった一瞬のミスで全てを失うモータースポーツの本質の一部です。
すーティル二とっては、あまりにも痛いコースアウトでした。
一方、ルーキーのブエミにとっては素晴らしいレースとなりました。
彼はレース中、上位チームを追い回し素晴らしいオーバーテイクを見せてくれまいた。
ただ、一つ残念だったのはSC出動中に、前を走るベッテルに接触したことでしょう。
幸い、ブエミはベッテルの衝撃構造部分に当たったので、ベッテルに被害はありませんでした。
だが、それにより後退したブエミですが、再び追い上げ開始。
彼にとっては二度目の入賞を果たしました。
レース中のペースも速く、ミスも最小限度にとどめていました。
この結果は決して、偶然ではありません。
レッドブルと同じトロロッソのマシンとはいえ、予選でQ3 進出は立派です。
最初の三レースで二度の入賞はルーキーとしては、大成功です。
実はあまり期待が大きくなかったブエミですが、大きく化けるかもしれません。
▽フェラーリ沈没
フェラーリは今回、KERSの搭載を見合わせました。
これは、彼らがKERS抜きでの実力を見てみたかったのだと思います。
現時点では彼ら自身、問題がどこにあるのか特定できていないのでしょう。
今シーズンのように、レギュレーションがドライスティックに変わった場合、問題点を探し出すのは至難の業です。
私は、中国GPでフェラーリがKERSを搭載しないと決めた時、上位に進出してくるのではないかと、予想しました。
ところが、実際は前の2回と余り変わらず、また無得点になりました。
これは1981年以来の出来事です。
1981年と言えばG・ビルニューブとD・ピローニが新しいターボマシンである126CKの開発熟成に苦労した年です。
当時と今との共通点は、マネージメントが混乱していることでしょう。
何度も言いますがマネージメントが混乱していると、苦境から脱出するのは難しくなります。
再び、外部から優秀な人材をリクルートしてこないと、彼らの苦境は続くかもしれません。
そう考えると、彼らが休暇明けのロス・ブラウンと契約しなかったのは、失敗だったと言わざるを得ません。
彼らに必要なモノは強いリーダーシップ。
それがなければ、フェラーリの今年中の復活はないでしょう。
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