ディヒューザー問題の深層
▽二階建てディフューザー顛末
提訴されていたブラウン、トヨタ、ウィリアムズの二階建てディフューザー問題に決着がついた。
FIAは審議した翌日15日に、これらの二階建てディフューザーは合法と判定した。
これにより、これらの三チーム以外の開発が急ピッチである。
最も早い反応を見せたのは、マクラーレンとルノー。
彼らは、なんと中国GPから新しいディフューザーを投入した。
当然、判決が出る前から開発をおこなっていたと思われる。
ルノーに至っては金曜日の夜に到着し、土曜日から装着するという慌ただしさ。
用意できたのはアロンソ用の1セットだけで、しかもフラビオのプライベートジェットに乗せて金曜日の夜に到着したと言うから驚きだ。
それでも、効果は大であった。
アロンソは、燃料が軽いとはいえ、フロント・ローを確保。
大きなジャンプアップに成功した。
マクラーレンも新しいディフューザーを持ち込んだが、まだ完全な二階建てディフューザーではなく、ダウンフォース量は大きくはないが、それでも効果はあった。
ハミルトンは今シーズン始めてQ3へ進出することができた。
全体のダウンフォース量はまだ足りないようだが、リアの落ち着きはかなり改善されている模様だ。
マクラーレンもルノーも、リアの衝撃吸収構造が、真っ直ぐなので空気の逃げ場が少ない。
その為、ダウンフォース量は先行3チームには及ばないが、それでもオーバーステアを軽減することはできたようだ。
▽二つのディフューザー
現在、このディフューザーには二通りの解釈がある。
一つはブラウンやウィリアムズのように、アンダーパネルに空気の取り込み口を作り、ディフューザーを二層化して、上層部のディフューザーに空気を流す方法。
下に露出している第一層のディフューザーは正規のレギュレーションの高さを持ち合法で、第二層のディフューザーは、ディフューザーではないので、ディフューザーの規定(高さ175mm)は適用されないという判断だ。
これは、ディフューザーの定義が、マシンを下から見て単一の板であると、定義していることから発生している問題である。
つまり下から見えなければ、それはディフューザーではなく、マシンのパーツであるという理屈である。
下から見えるディフューザーは規則通りで、その上の板(?)はディフューザーではないのだから、規則上の他のパーツの制限(幅150mm、高さ200mm)を受けると解釈している。
また裁判で争点になったのは、3チームのディフューザーに穴があるかないかであったことを、議事録には明記されている。
それは、ディフューザーは一枚の板であり穴などを設けて、向こう側のパーツが見えてはならないと明記されているからだ。
3チームの主張は、彼が設けているのは穴ではなく、隙間(ギャップ)であると抗弁している。
そして、その主張が認められた。
実際、彼らのマシンを下から見た場合、穴は見えないと推測される。
しかし、前から見れば穴がある。
その穴から、空気を二層目のディフューザーに導いている。
ここまでくると、もはや禅問答のようである。
もう一つは、トヨタのように衝撃吸収構造自体をディフューザーの一部分として使う方法。
これは、レッドブルも採用している。
それにより、ディフューザー中央部の高さを稼いで、ダウンフォースを増やしている。
レッドブルとトヨタの違いは、トヨタはそれに加えてディフューザーの二層化もしている点と、衝撃吸収構造兼ディフューザーの先端に縦の隔壁を設けている点である。
縦に隔壁を設けているのは、これは衝撃構造の一部分なので、ディフューザーの規則の適用は受けないと、解釈しているからだ。
トヨタは衝撃構造を後ろに向かって、緩やかに立ち上げている。
丁度、蛇が頭をもたげるように。
衝撃構造部分下側がサイドのディフューザーと同じように上に向かって立ち上がっていて、そのままディフューザーの役割を担っている。
ブラウンGPもトヨタほどではないが、衝撃構造を上に上げて、空気の逃げ道を作っているが、トヨタと違って衝撃構造で直接ダウンフォースを得ようとする発想ではなく、空気の抜けをよくして、それによりダウンフォースを得ようとしている。
ウィリアムズも二階建てディフューザーを採用しているが、彼らの衝撃構造は直線の為、上記の2チームより効率が落ちるようである。
クラッシュテストを受ける場合、衝撃構造が真っ直ぐな方が有利である。
それを上に曲げてしまうと、衝撃を斜めに受けるので、強度を増す必要がある。
強度増すと重量が増す。
マシンの設計上、フロントエンドとリアエンドの部分はできるだけ軽くしたい。
その方が、マシンの運動性能が上がるからだ。
空気の流れだけを考えれば、衝撃構造は上に曲げたいが、重量は増やしたくない。
こうしてデザインチームの悩みがまた一つ増える。
いかに軽い衝撃構造を作るか。
この相反する問題をいかに高い次元でまとめるか。
そこがデザイナーチームの腕の見せ所である。
早いチームは、第五戦スペインGPに、遅くとも第六戦モナコまでには、二階建てディフューザーが登場してくる。
だが、逃げる方も止まっていない。
トヨタはついに三層式のディフューザーを装着。
更に引き離そうとしている。
これは、衝撃構造を急角度で持ち上げているトヨタならではの技。
他のチームがここまでするには、もう少し時間がかかるだろう。
実際、このディフューザーの効率化を最大にしようとすると、大仕事である。
衝撃構造に加えて、サスペンションのレイアウトを変え、更にギアボックスケーシングまで代える必要があるかもしれない。
そうすると、マシンの後ろ半分はエンジンを除いて、全て変更する大仕事である。
この三チームのアドバンテージはもうしばらく続きそうである。
▽ディフューザー問題の深層
では、なぜこのような問題が起きたのだろうか。
3チームのディフューザーは、テストの時から問題あると言われていた。
ただ、テスト中には規則違反のマシンを走らせても問題ない。
実際、今年の開幕前にマクラーレンは2008年型のリアウィングを取り付けて走っていた。
通常、規則にグレー部分を見つけると、チームはFIAに問い合わせる。
これは1台のマシンを設計する段階で、何百通にも及ぶと言われている。
当然、このディフューザーの抜け道は各チームが、認識していたと思われる。
ところが、二階建てディフューザーを3チームは装備し、他のチームは装着しなかった。
では、どうしてこうなったのであろうか。
それは、各チームからFIAに問い合わせるときの、言い方の違いであると思われる。
通常、チームがFIAに問い合わせる場合、現物を見せるわけではないし、図面を見せるわけでもない。
言葉で、規則ではこう書いてあるが、こういうデザインは合法か違法かを問い合わせる。
そこで問い合わせする際の文言が問題になる。
同じような意図を持つデザインであっても、問い合わせるときの言葉で、合法か違法かが分かれたのではないだろうか。
そうでなければ、今回の出来事に整合性がとれない。
通常、F1は他のチームが少しでも良さそうなデバイスを着けてくると、すぐにコピーする。
このディフューザーも開幕2ヶ月前から発表されているので、コピーしようと思えばできたはずだ。
実際、ウィリアムズのサム・マイケルは2月下旬の時点で、開幕までに他のチームが二層式ディフューザーをコピーしてこなければ驚きだとコメントしている。
彼は他のチームも当然、同じ事をしてくると考えていた。
だから、彼らはニューマシンの発表会で、このディフューザーに関して隠さなかったことを告白している。
なるほど。
さらに、彼は1年以上前に、これをFIAに説明したと述べているではないか。
なに?
それをあえて他のチームが、コピーしなかったのは、なぜか。
それは、他のチームは、FIAに問い合わせたが、それは違法の返答をもらっていたからだろう。
レッドブルのデザインチームのスタッフの話は、それを裏付けている。
だから、彼は自信満々でコピーせず、開幕戦で抗議をした。
だが、その抗議を却下されたので、激怒しているように見える。
もちろん、マシンの発表会から開幕まで二ヶ月あるとはいえ、その時点からマシンの後ろ半分を再設計するのは、大仕事である。
時間もお金もかかるから、したくないというのは本音だろう。
それに、ダウンフォースを減らすというレギュレーション改定の趣旨からは大きく外れるし、費用削減を目指す動きとも相反する。
昨年、ロス・ブラウンは各チームが集まる会合の中で、このデザインを合法か違法か明快にするよう議題に上げたが、却下されたと述べている。
そして、これが明確に違反でないと定義されないのならば、この方法を使うとも言ったらしい。
これを明確に禁止しなかったことは、通常ディフューザー・チームに大きなハンディを与えた。
先行する3チームと追いかける7チーム。
どこで先行するチームに追いつくか。
そこが、今後のマシン開発の見所となる。
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