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2009 Rd4 バーレーンGP観戦記 トヨタの意義ある敗戦

▽初優勝を逃したトヨタ スタート前、初優勝を期待されたトヨタだったが、結果的には3位に終わった。 がっかりした方もいるとは思うが、私はそれほど落胆することはないと考えている。 それは今回のトヨタは、とてもいいレースをしたと思っているからだ。 彼らは、最も軽い燃料を搭載して、予選でフロント・ロウを独占。 この作戦の目的はただ一つ、優勝あるのみ。 彼らが優勝する条件は複数あった。 スタートで二台が前に出て、2位のドライバーが3位以下のライバルを抑えて、トップのドライバーがリードを広げるのが、第一の条件。 二位に他のチームのマシンが入ってくると、タイヤを痛める恐れがあるし、トヨタは誰よりも早くピットへはいるので、二位にライバルのマシンがいれば、その時点で抜かれる可能性が高いからだ。 そして、予選5位のハミルトンがKERSを使って、予選4位のバトンを抜いて抑え、さらにハミルトンがベッテルの前にでれば、最高の展開だった。 そして、実際にトヨタの思い描く最高の状況でレースは、幕を開けた。 トヨタの二台は、スタートで前に出てリードを広げ、タイヤをいたわりつつ、リードを広げていく。 トヨタは、予定していた作戦を、予定通りにこなしていった。 簡単そうに見えるが、この予定通りに作戦をこなすことは、非常に難しい。 唯一の計算外は、二周目にバトンがハミルトンをかわしたことであった。 これが、今回のレースの決定的な瞬間だった。 これでバトンは、1回目のストップ時にトヨタの二台をかわすことができ、そのままゴールに向かって、走っていった。 トヨタとしては、第二スティントでハードタイヤを選択したのが、悔やまれる。 予選から攻めた作戦をしてきたトヨタだったが、ここでは保守的な選択だった。 気温も予想以上に上がったので、ハードタイヤの選択もわからないではないが、ここでソフトタイヤの寿命を正確に読み切り、攻めていけなかったは残念である。 もっとも、第二スティントでソフトを履いていたとしても、ベッテルはかわせても、バトンを逆転するまでには、いかなかっただろう。 ブラウンGPとは、マシンのペースにまだ差があり、同じ条件で争えば勝つのは難しい。 彼らが勝つためには、波乱を起こすしかない。 彼らが燃料を軽くして、最前列を独占したのは、その波乱を自分達で起こすという意気込みの現れである。 自然環境を待つのではなく、自分達でレース展開を荒れさせて、ブラウンGPがトラブルに巻き込まれる確率を高くする。 そして、ブラウンGPにミスが出たときに、自分達が優勝できるポジションにつける。 それを自分達で作ろうとしたことが、今までの受け身のレース展開とは違った意味がある。 ▽勝利への長い道のり 全てのドライバーやチームが優勝を目指しているかというと、そうでもない。 彼らは自分達の競争力がどの辺りにあるかは、ほぼ正確に把握している。 だから、その中で一つでも上位に食い込むための作戦を組む。 今までのトヨタはマシンのデザイン面でも、作戦面でも保守的であった。 だから、表彰台には立てるが、その頂点には手が届かなかった。 だが、今年は違う。 マシンのリア・エンドを絞り込み、二層式ディヒューザーを装備してきた。 恐らく昨年までのトヨタであれば、信頼性を優先して、ここまでリア・エンドを絞り込んではこなかったであろう。 レギュレーションの隙間を付き、二層式ディヒューザーを装備したのもそうした姿勢が形になったものである。 昨年まで、この手の方法はフェラーリやマクラーレンの得意技だった。 その彼らを出し抜いて二層式ディヒューザーを持ち込んだところに、トヨタの意気込みを感じる。 開幕戦でリア・ウィングの柔軟性を指摘されて、ピット・スタートになったのも、攻めたマシン作りからきている。 結果的に違法と認定され予選結果抹消となったが、その方向性は決して間違ってはいないと思う。 そして今回、優勝を目指して勝負した結果の3位。 これは、今シーズン過去2回の表彰台より、価値がある。 仮にワン・ストップで3位になるよりも、はるかに価値があると思う。 勝利を目指さないチームやドライバーが勝つことはない。 たとえあったとしても、棚ぼたの勝利で、継続性は望めない。 勝利を目指すと言うことは、つらく苦しい道のりである。 20台がスタートして、勝者はただ一人。 他は全て敗者である。 表彰台のツゥルーリの表情がそれを物語っている。 彼は喜びの表情を表してはいなかった。 そこに見られたのは、悔しさであった。 それが、勝利へ続く長く苦しい道程のスタートである。 勝利まであと一歩の地点までは、多くのチームが来ることができる。 だが、さらに進んで勝利をつかめるのは、ほんの一握り。 今回、トヨタは遠く長い勝利への道の入り口に立ったことは間違いない。 そう言う意味で、このレースは敗れはしたが、トヨタにとって大きな意味があるレースとなった。 ▽バトンとベッテルの明暗 バトン1位、ベッテル2位の差を分けたのは、スタート直後だった。 予選3位のベッテルと4位のバトン、そしてKERS搭載の5位ハミルトン。 この三台の動向がレース展開に大きな影響を及ぼすのは、スタート前に予想できた。 そして、一番有利なのがベッテルだと思っていた。 有利な奇数列グリッドで、重い燃料を搭載して予選3位。 トヨタがかなり軽かったので、ポール・ポジション並に価値のある3位だった。 スタートでKERS搭載のハミルトンさえ押さえ込めれば、トヨタとの勝負に持ち込め、1回目のストップを遅らせて、トヨタの二台をかわすことができる。 それが、ベッテルの作戦だったのだが、スタートから目論見は崩れた、 有利な奇数グリッドからスタートしたベッテルだったが、スタート直後の1コーナーでコースの中に切れ込み、前はトヨタにふさがれて、右にはハミルトン、左にはバトンと逃げ場がなくなり、5位に後退。 しかし、バトンもハミルトンに先行され、レースが展開する。 だが、ここからバトンが見せてくれた。 2周目の1コーナーでハミルトンをパスし、3位に浮上しトヨタを追う。 だが、ベッテルは燃料が重いためかハミルトンを抜けない。 バトンがハミルトンに押さえ込まれれば、バトンがトップ争いにからむのは、第三スティントにずれ込み、最後はバトン、ベッテル、ツゥルーリの争いになると思っていたが、これではベッテルとツゥルーリは厳しい。 彼らには、暑くてもタイヤに優しくペースも速いバトンに対抗する術はなかった。 実は、ブラウンGPは、エンジンの信頼性に不安があった。 また予選では、タイヤの発熱が悪く、それが原因で予選4位になってしまった だが、それでも勝てるところが、今のバトンとブラウンGPのすごいところ。 差が縮まっているとはいえ、バトンとブラウンGPのペアにはまだアドバンテージがある。 特にこういう暑くて、タイヤに厳しくハードブレーキングが必要で、立ち上がりのトラクションが必要とされるサーキットでは、ブラウンGPの競争力はまだ抜きんでている。 だが、次のスペインから始まるヨーロッパラウンドでは、他のチームもアップデートをしてくる。 資金的に苦しいブラウンGPより、他チームの追い上げは急である。 通常ディヒューザーチームの伸びしろは、ブラウンより大きい。 差が縮まるのは間違いないが、どこまで縮まるのか。 スペインGPの戦闘力が今シーズンのタイトル争いを占う上では、非常に重要なレースとなるだろう。 ▽マクラーレン 急上昇 本当にこのチームには、感心させられる。 第一戦をQ1脱落、第二戦でQ2脱落だったチームは、第四戦でQ3 に進出し、序盤は一瞬ではあったが二位を走行してみせた。 マクラーレンの開発力には定評があり、これまでもダメマシンをシーズン終盤には、戦える状態にしてきた。 それにしても、今年の急上昇ぶりには目を見張る。 イギリスから、はるかに遠いレースにもかかわらず、彼らは毎レース、空力のアップデートおこなってきて、それが結果に結びついている。 KERSを首尾一貫して搭載して、開発の軸がぶれていないのもいい。 ロン・デニスが引退して心配されたマクラーレンであるが、今のところその影響は最小限にとどまっているようだ。 現時点では、KERS搭載勢で彼らが一番成功している。 バーレーンでも、スタートダッシュを決めたし、レース中もオーバーテイクを成功させていた。 特にスタートを含めたオープニングラップでは、KERSの威力を見せつけた。 結果は4位であるが、予選の速さはトップグループと遜色ないところまで来た。 関係者の話を総合してみると、彼らのKERSシステムは、一番軽量でコンパクトにできているようだ。 その為、KERS搭載のデメリットを最小限にし、メリットを享受していると見られる。 当面の彼らの問題は、ダウンフォースの絶対量が足りないことであり、それを解決するにはリアのディヒューザー周りの改良が欠かせない。 今のところ、二層式ディヒューザーを搭載はしているが、効率がいいとはいえず、症状の改善には貢献しているが、ブラウンやトヨタには及ばない。 だが、これまでのマクラーレンを見ていると、彼らは躊躇することなく、リアエンドの全面刷新をしてくるだろう。 その時、マクラーレンのリアはエンジンを除いて全て新しくなり、戦闘力を完全に回復する。 一方のフェラーリは、ライコネンがポイントを取ったが、冴えない。 毎レース、空力をアップデートしてくる、ライバルに対してフェラーリは進化があまりない。 スペインでは、大幅なアップデートが予定されているが、迅速な対応能力が求められるF1において、ワークスチームがこれでは、寂しい。 マシンが遅いのは仕方がない。 今年は、大幅なレギュレーションの変更があったので、当たり外れはある。 だが、この対応の遅さには、過去の不振だった頃のフェラーリが思い出される。 開幕戦では、優位に立っていたマクラーレンに逆転されたフェラーリ。 スペインでも結果が残せないようだと、残りのシーズンは期待できないかもしれない。

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