2009 Rd.11 ヨーロッパGP観戦記 Part1 ハミルトンとバリチェロの攻防
▽二連勝を逃したハミルトン
優勝は十分に可能だったハミルトンだったが、些細なミスで勝利を逃してしまった。
問題の場面は、二回目のピットインのタイミングである。
バリチェロに3.6秒差を付けていた36周目にチームからピットにはいるよう、ハミルトンは指示を受けた。
この時点で、できるだけピットストップを遅らせて、バリチェロとの差を広げようと考えていたマクラーレンは、もう1周多く走らせるかどうか迷っていた。
そしてハミルトンがピットロードへ向かう白線に入った瞬間に、ハミルトンにステイアウト、もう一周走れの指示が飛んだ。
もうコース上に戻れないハミルトンは、そのままピットに向かいチーム側はタイヤの準備ができておらず、ここでハミルトンは6秒以上失い、事実上負けが決まった。
バレンシアのサーキットはピットロードの距離が短く、ハミルトンがピットロードに向かってからマクラーレンのピットに到達するまでの時間が短かったことも不運だった。
もう少しピットロードが長いサーキットであれば、間に合ったかもしれない。
しかし、少し考えればこれは防げたミスである。
第三セクターに入っても、ピットインの指示は有効であったのであるから、クルーは外に出てきて準備をすればいい。
直前にピットインがキャンセルされても、そのままもう一周外で、ハミルトンが入ってくるのを待っていればいい。
それだけのことである。
実際、ピットクルーが出てきたにもかかわらず、マシンがピットに入ってこない場面は存在する。
なぜマクラーレンほどのチームが、リスク対策をしなかったのか、不思議である。
コミュニケーションミスにより、手に掛けていた勝利を逃したハミルトンとマクラーレンであるが、そこまでの走りは見事であった。
レース序盤からスーパーソフトで走れると見抜いたチームの判断。
そして、それに応えて最速ラップを更新し続けたハミルトンのドライビング。
実際、ハミルトンは10周を過ぎてもなお最速ラップを更新し続けることができた。
第二スティントのロングランもスーパーソフトで走り続け、バリチェロとの差をキープしていた。
そして最後のピットストップを迎えて、チームはこう考えたに違いない。
ハミルトンの第三スティントのタイヤはハード側である。
タイヤへの攻撃性が小さいバレンシアの路面では、タイヤが温まるのに数周かかる。
追ってくるバリチェロは燃料が少なく速いラップタイムが可能である。
彼はハミルトンより数周遅くピットにはいるはずだ。
となるとバリチェロがピットアウトしてきたタイミングで、ハミルトンが前に出られたとしても、本当に僅差だったはずである。
実際、バリチェロはピットアウト直後のハミルトンに対して約1秒速かった。
だからこそ、ソフトタイヤで1周でも多く走り、バリチェロとの差を広げたいという気持ちはよくわかる。
また作戦的にピットインのタイミングを、ライバルチームに伝えたくないので、ギリギリまでクルーを外で準備させたくないというものわかる。
だが、それでレースを失ってしまっては元も子もない。
あまりにも痛かったチームの判断ミスだった。
これが単純なミスなのか、ロン・デニスなき後の後遺症なのかはわからない。
一つだけ言えることは、今年の競争の激しいF1では、たった一つのミスで、全てを失いかねないと言うことである。
それにしても、マクラーレンのドイツ、ハンガリー、バレンシアでのアップデートはものすごい効果があった。
ドイツの一つ前、イギリスでハミルトンが悪戦苦闘していたことを思い出せば、驚異的な開発能力である。
バレンシアでは、ハミルトンのマシンのみ、ホイールベースを短くした、新しいサスペンションを投入。
KERS搭載により、重量バランスを思うように変えられないマクラーレンはサスペンションを変更してまで、その改善に取り組んできた。
これは、本来ベルギーGP用のアップデートだったが、このサーキットでも威力を発揮していたと思う。
ホイールベースを短縮して、回頭性を上げれば、低速コーナーでのターンも素早くすることが可能だ。
もっともそれは、マシンの安定性を犠牲にしているの、ドライバーの負担は増える。
だが、ハミルトンはそれを見事に乗りこなしていた。
本来、マクラーレンはハンガリーGPで今年の開発を終了する予定であった。
彼らの勝利への執念を感じる。
▽天候により復活したブラウン
マクラーレンのミスにより5年ぶりの勝利を得たバリチェロであったが、彼の走りもまた素晴らしかった。
もしあのハミルトンが二度目のピットに入るタイミングで、バリチェロがハミルトンより10秒以上遅れていれば、マクラーレンのミスはなかった。
マクラーレンは、ガス欠を防ぐ為にハミルトンを余裕を持ってピットに戻せば、あとはフィニッシュに向けて走るだけで良かったからだ。
実際、ハード-ハードと保守的なタイヤ選択をしてきたバリチェロであったが、第一スティントでは、ソフトをはくハミルトンを敵に回して、二人でベストラップを更新しあっていたし、気温が上がってきた第二スティントではハミルトンとほぼ同じペースをキープして差を広げられなかった。
それがマクラーレンにプレッシャーをかけていたのは間違いがない。
これだけ高温のレースで38歳のバリチェロが最後まで集中力を失わずにドライブし続けたのは、素晴らしい。
彼のスタートも文句なし。
フロント・ロウを独占したKERS搭載のマクラーレンに遅れない素晴らしいスタートをきった。
ここで、ベッテルやライコネンに先を行かれていればまた、彼の勝利はなかっただろう。
今シーズンのバリチェロは、ここまで何度も素晴らしいスタートを見せてきた。
ここまでは、それを勝利に結びつけられなかったが、今回は見事な勝利となった。
バレンシアの高温もまたブラウンGPに味方した。
ここ数戦、タイヤ温度が上昇しない現象に悩まされてきたが、30度以上の気温に助けらた、バリチェロのペースは一貫して速かった。
レース後のバリチェロは疲労困憊であったが、目に涙が光り、満足そうな笑顔が印象的だった。
そして彼がヘルメットに入れたメッセージ(Felipe – see you on track soon!フェリペ、すぐにトラックで会おう!)はマッサに伝わった。
一方のバトンはQ3でのミスにより、5番手からのスタートとなり、1周目に四つポジションを失ったことが、最後まで響いた。
バレンシアのサーキットは、市街地サーキットでレコードライン以外は、埃がひどく、まともに走れない。
よってレースペースがどんなに良くても、この結果は致し方ない。
だが、ライバルのレッドブルがノーポイントの状況で、バトンが2ポイント拾えたのは大きい。
チャンピオンシップが1ポイント差で決まったことは、何度もあるのだから。
▽エンジンに泣くレッドブル
フリー走行中にエンジントラブルでセッションを棒に振ったベッテルであったが、
レースでもエンジントラブルに見舞われてリタイヤした。
二戦連続ノーポイントに終わったのは痛かったが、それより痛かったのは2基のエンジンを失ったことである。
最初に壊れたエンジンも、長い距離を走っていたわけではなく、レース中に壊れたエンジンは新品であった。
これによりベッテルが持つ新品のエンジンは残り1基だけと見られる。
今後、スパとモンツァはエンジンへの負荷が大きいことを考えると、残り6レースの中でベッテルが9基目のエンジンを使用して、ペナルティを課される可能性は高い。
更にエンジンが壊れることになれば追加のペナルティも考えられる。
今シーズンは、年間で8基のエンジンを使用することができ、9基目のエンジンを使用したときのみグリッド10番手降格のペナルティを与えられる。
現在、来シーズンに使用するエンジンを検討しているレッドブルにとって、この連続するエンジンブローは、エンジン選択に大きな影響を与えるかもしれない。
ライバルであるブラウンGPが使用するメルセデス・ベンツのエンジンにトラブルが少ないことは、彼らを苛立たせまた、同じエンジンの搭載も視野に入れているだろう。
チャンピオンシップを争うウェバーも予選からスピード不足が明らかだった。
決勝でも最大のライバル バトンにかわされて9位。
ノーポイントに終わった。
しかし、考えようによってはバトンも2ポイントしか追加できていないわけで、最悪の結果とまでは言えないだろう。
レッドブルは、ベルギーGPに向けてKERS搭載を検討してようであるが、これはないだろう。
確かにスパは長い全開区間があるが、大きく重たいルノーのKERSでは、デメリットも多く、信頼性も心配である。
レッドブルは、KERS採用を検討するのではなく、現状マシンの信頼性向上こそが、緊急の課題だろう。
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