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2005 F-1 Rd9 USGP 観戦記

・・・・・・・・・・・。 なんともやりきれないレースだった。 ファンを全く無視したレース開始直前の棄権。。 高いお金を支払いチケットを買って、レースを見に行った観客のことを考えると、やりきれない思いのみが残ったレースでした。 彼らの中にはひいきのドライバーを応援しようと安くない旅費を払って、わざわざ海外からやって来た人たちもいたでしょう。 きっと最後まで残ってレースを見ていた人達はそういう人なのではないでしょうか。 彼らはレースを見に来たのですから、6台しか走らなくても、サーキットを離れることは難しいでしょう。 土曜日からミシュランタイヤがおかしいという話しは出ていました。 ミシュラン勢が全員イベントをキャンセルするとは考えにくいが、その可能性も排除できないと思っていました。 しかしまさかそこまではしないだろうと言う希望的観測を私は持っていました。 それはボイコットが及ぼす影響が計り知れないからです。 経済的損失、マーケティング的損失、そしてF1が好きなファンに対する損失は計測不可能なほど大きいと予想されました。 しかし現実はフォーメーションラップを終わる前にミシュラン勢が続々ピットイン。 グリッド上には6台しか並ばない、異様な光景が表れました。 ▽ミシュランとFIA もっとも非難されるべきは当然、ミシュランタイヤです。 問題のあるタイヤを持ち込み、ゾンタとラルフ・シューマッハーがクラッシュ。 ラルフ・シューマッハーは昨年もここで、タイヤトラブルでクラッシュしています。 アロンソのタイヤもバーストしています。 昨年もトラブルを経験しているミシュランは今年は対策をしたタイヤを持ち込むべきでした。 ではFIAは厳格にルールを適用しただけで全く問題がなかっかと言うと、私はそうは考えません。 そもそも今の13インチホイールに15インチのタイヤを履かせるF1のタイヤレギュレーションはかなり無理があります。 市販車が普通に16、17インチを履く時代を考えるとかなり小さいタイヤサイズです。 このサイズのタイヤで900馬力のパワーを伝えて、300kmを超えるレースを無交換で持たせるのはかなり厳しいものがあります。 そのタイヤの摩耗がひどいことが、今シーズンのレース展開を面白くしているのは間違いなのですが、タイヤ交換可能な状況の曖昧さなどがあり、危険なルールではないかと批判されてきました。 さらにこの小さなホイールに入れられるブレーキディスクも小さく制限されます。 これがブレーキに過大な負荷をかけています。 今年、ブレーキトラブルが多発しているのにはこうした背景もあります。 そういう根本的問題を放置してきたFIAは、安全を確保する義務がタイヤメーカーにあると突き放しています。 もちろんその通りです。 FIAがタイヤの安全性を保証することなど出来ませんから、タイヤメーカーが安全なタイヤを持ち込むのは当然の義務です。 ですからミシュランに責任があるのは明らかです。 ただスピードの抑制が目的とはいえ、FIAが与えたタイヤサイズの制限とタイヤの無交換はメーカーにとっては過酷なレギュレーションであるのは間違いありません。 ▽ブリヂストンの経験対ミシュランの無策 今回、ブリヂストンが大丈夫でミシュランタイヤが問題を抱えていたのには理由があります。 ブリヂストンタイヤは子会社のファイヤストーン銘柄でオーバルコースで行われるCART等のレースでの経験が豊富です。 一方、ミシュランはオーバルコースでの実戦経験が少ない。 さらにミシュランタイヤにとって具合が悪いことに、テスト日数の自主規制があり、テストする日数が制限されていたのも不運と言えば不運でした。 コンピュータによるシミュレーション技術が発達した今日でも、やはり実際に走らせてみないとわからないのがタイヤです。 バンク部分ではタイヤに強力なストレスがかかります。 高速でバンクを走行すると縦と横から強力なストレスがかかり、タイヤを痛めつけます。 日本のGTがバンクコースを使ってレースをしたときは、バンク部分にシケインを設けていました。 これはバンク部分でのタイヤへのかかるストレスが通常ではあり得ないほど強烈であることの証明です。 またオーバルコースでおこなわれるレースではタイヤに傷が見つかった場合、コース上に異物がないか捜索します。 オーバルコースではほんの少しの傷でも、タイヤバーストにつながり大惨事につながる可能性があるからです。 そういう意味ではミシュランのとった策は妥当といえるでしょう。 コースのバンク部分は観客席と隣接しており、大きなクラッシュが起こった場合に観客を巻き込む可能性もあります。 ミシュランは非公式にこの問題の原因をゴムのサプライヤーが交代したからと言っているようですが、そのサプライヤーからゴムを購買することを決めたのはミシュランですから、それは理由にはなりません。 しかも昨年もここインディアナポリスでミシュランはタイヤトラブルを発生させました。 であれば、ミシュランは今回安全なタイヤ、対策を施したタイヤを持ち込む義務があったのではないでしょうか。 今回、ミシュランは特別に対策を施したタイヤを持ち込んではいないようです。 であれば、やはりミシュランタイヤに今回の事態の原因を帰することになります。 ではミシュランから安全を保証できないと宣言されたユーザーチームはどうでしょう。 実際には問題を抱えていたチームとそうでないチームがいました。 BARホンダは二台とも問題がなかったので最後まで出走を希望していたそうです。 サンマリノGPでの失格から2戦欠場を余儀なくされたホンダとしては彼ら自身の最大のマーケットであるアメリカで走りたかったでしょう。 ホンダディーラーや工場で働いている人もたくさん来ていたでしょう。 他のメーカーもアメリカは最大のマーケットであり、走行したかったはずです。 それでもタイヤメーカーから、安全を保証できないと言われれば諦めざるを得ません。 しかし、こういう事態だけはなんとか避けられなかったのでしょうか? たとえばミシュランが提案したシケインを設けてノンタイトル戦とする案を考えてみましょう。 チャンピオンシップ戦として開催されチケットを買って見に来た観客の事を考えるとそれは難しいでしょうし、TV放映権を買っているTV局との契約の問題もあるでしょうから受け入れるのは難しい。 もちろんサーキット側もチャンピオンシップ戦として契約していますから納得することは難しかったでしょう。 問題のないタイヤを持ち込んだブリヂストンを履くフェラーリはこの案に反対しました。 当然でしょう。 そうなるとミシュランユーザーの取るべき道はバンク部分を遅く走るか、レース自体を走らないかの二つしかありません。 前者の場合、競争ですから遅く走ると言いながらもスピード制限がないわけですから保証できません。 最後の残された選択肢が、フォーメーションラップだけの参加となったのでしょう。 ミシュランタイヤとチーム側もぎりぎりの選択だったのはわかります。 ミシュランが要求が認められなければレースを走らないとFIAに通告すると、脅迫しているようになります。 FIA側が発言しているように、複数種類のタイヤを持ち込めるのであるから、一つくらいは安全性に振ったタイヤを持ち込むべきであったと言うのも正論です。 ミシュランは現時点でこの件に関しての発言を控えています。 レースを棄権したチームは合同で謝罪していますが、ミシュランは沈黙しています。 しかしミシュランは謝罪して、速やかにタイヤ不具合の原因を調査し、公式に発表すべきでしょう。 この様な事態を招いた彼らにはその義務があります。 ▽今後の展開 今後のFIAの対応にも注目が集まります。 ミシュランユーザーはあくまでも安全面を考慮して、レースを止めました。 しかし話し合いをして1周もせずに全チームがリタイヤしたわけですから、FIAが心中穏やかであるわけがありません。 彼らは当然この動きをボイコットと見なすでしょう。 具体的なペナルティこそ与えられないでしょうが、今後のレースで影響がないとは言えません。 特にミシュランタイヤは主犯格と見なされて、将来F1が一つのタイヤサプライヤーで行くとなった場合に閉め出される可能性も否定できなくなりました。 さらにFIAとミシュランユーザーであるチームとは今後のF1運営をめぐり対立していることが、問題を複雑にしています。 今回のこの騒動の影響を完全に払拭するには何年もの年月を要するでしょう。 F1は完全にファンを無視したスポーツであるというイメージがこの先何年もまとわりつくでしょう。 アメリカでのF1が来年以降おこなわれない可能性もあります。 今後、中期的にはメーカーが撤退することも考えられます。 イメージの悪いF1に参戦していても得られるものは少ないとと経営者が考えても不思議ではありません。 BMWのザウバー買収交渉にも影響を与えそうです。 過去にも似たようなケースはありました。 1980年代にバーニー・エクレストン率いるマクラーレンやウィリアムズ等プライベートチームが属していたFOCAとFIAの下部組織でフェラーリやルノー等のワークスチーム主体の団体であるFISAがレギュレーションを巡り対立。 二つの団体が別々のGPを開催するという事態になりました。 この時の分離開催されたサンマリノGPで、フェラーリのチームメイト同士の確執が、ジル・ビルニューブの事故死へとつながったのはご存じの方も多いでしょう。 この二つの団体が関係を修復する時に結ばれた協定が有名なコンコルド協定です。 ファンは同じ条件で単純に速いドライバーが予選の前に来て、レースではコース上で追い抜きシーンが見られるエキサイティングなレースを見たいだけだと思います。 スポンサーやエンジンサプライヤーは大事ですが、ファンあってのスポーツビジネスであることを認識しない限り、迷走状態は続きそうです。 最後に次のフランスGPですが、とても予想するような気分でもないので今回はやめときます。 いつもなら次回は素晴らしいレースを見せて欲しいと言って終わりたいのですが、今回はそういう気分でもありません。 不幸な事故とはいえないこの事件。 F1は本当にどこへ行ってしまうのでしょうか?

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