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2010 Rd.2 オーストラリアGP観戦記

▽悲運のベッテル なんと表現すればいいのだろう。 トップ快走中のトラブル。 ちょい濡れのダンプ状態の中、開幕戦に続き会心スタートを切った。 その後のペースも全く問題なく、ドライタイヤへの交換後もトップを独走。 雨が再び降らない限り、ベッテルの優勝は間違いない思われた33周目。 コーナー入り口で突然コントロールを失ったベッテルは、そのままコースアウト。 サンドトラップに捕まり、身動きが取れなくなった。 最初は突然のコースアウトで、ベッテルがミスをするとも考えられないので、突然の降雨かと思われたのだが、原因はホイールナットの緩みからナットが振動し、ホイールを保持する部分が壊れるトラブル。 ここは、典型的なストップ&ゴー型のサーキットであり、ブレーキに厳しいサーキットの一つではあるのだが、まだレース中盤にもかかわらず、ブレーキトラブルが出たのは、少し不自然だった。

これはベッテルにとって少しは慰めになるかもしれない。 というのも、機械的なトラブルではなく、タイヤ交換時の取り付けミスの可能性があるからだ。

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だがどちらにせよ、開幕戦から続くレッドブルのトラブルはチャンピオン争いの観点から見ればかなり痛い結果となった。 これがオペレーションミスかメカニカルトラブルかは不明であるが、レッドブルは昨年から度々、オペレーションミスやメカニカルトラブルで順位を失っている。 同じ問題が何度も起こるのは組織的な問題があるとしか思えない。 信頼性を確保するには、それを管理できる優れた人や手法が必要である。 そういう意味では昨年、ジェフ・ウィリスが離脱したことは、チームにとってはかなりの損失となっているようだ。 スピード面において、前半戦はレッドブルを中心に展開していくが、これ以上の取りこぼしは許されない。 昨年バトンがチャンピオンを獲得できたのは、前半戦で取りこぼしがなかったことが大きい要因だった。 レッドブルは今後のレースで、勝つことはできると思う。 だが、ライバルであるフェラーリは着実にポイントを稼いでいる。 この信頼性の問題は一朝一夕で改善される問題ではない。 ここがまだ中規模チームである、レッドブルの大きな弱点である。

現在のF1はマシンの競争力があるだけでもチャンピオンになれないし、ドライバーが優れているだけでもチャンピオンになれない、非常に競争の厳しいレースとなっている。 これら二点に加えてチームの総合力も求められる。 ベッテルはこれからも、脆いマシンとうまく付き合っていかなければならない。 ベッテルとレッドブルにとって救いなのは、今年のポイント制度がレースの優勝者に有利になっていることである。 だから昨年と違い、シーズンは長くまだ逆転は可能だが、信頼性アップが急務であることは間違いはない。 ▽バトンの決断と優勝 バトンが7周目にドライタイヤに交換した時はまだ早いと思われた。 こういう乾き始めのコンディションの時、普通は最初にタイヤを交換するドライバーは大失敗するケースが多い。 だが彼にはタイヤ交換をしなければならない必要があった。 彼のインターミディエイト・タイヤはグリップを失っていたのだ。 この決断は失敗していた可能性もあった。 バトンはタイヤ交換後、すぐにコースアウトしている。 ここで彼のレースは終わっていてもおかしくなかった。 だが結果的にこの判断は、大成功となった。 誰より早いタイヤ交換により彼は順位を3位に順位を上げ、1周後にタイヤ交換しタイヤが暖まっていなかったクビサをコース上でパスして2位へあがり、トップのベッテルを追う。

ベッテルのペースは速く、彼のリタイヤがなければバトンの優勝は難しかっただろう。 だがどんなに速くても完走しなければ、優勝できない。

ベッテルのリタイヤ後は、バトンのタイヤに優しい走りが遺憾なく発揮された。 ドライタイヤで52周を走りきったが、終盤でも29秒台を出せるほど安定していた。 タイヤの寿命的には全く問題がなかった。 ペースの遅いクビサが2位で、それ以下のドライバーを押さえ込んでいたことも、バトンには有利に働いた。 これによりバトンはプレッシャーを感じることもなく、タイヤもブレーキもいたわって走ることができた。

実際、チームメイトのハミルトンはコース上では最速だったが、クビサに押さえ込まれて仕方なくピットへ向かう。 彼も恐らく最後までタイヤが持ったと思う。 だがそのままではクビサを抜けなかったのでレース終盤に、もう一度全員がタイヤ交換するのであれば、早めにタイヤを変えてペースを上げて差を縮めていれば、上位陣がピットインするタイミングで抜けると考えた。 今日のハミルトンは、コース上において最速で、時にはトップに比べても2秒も速いタイムを刻んでいたので、そのスピードに賭けたのだ。 結果的に上位陣は1セットのドライタイヤで50周以上走りきってしまったので、ハミルトンの賭けは失敗した。 レース後、ハミルトンはチームの作戦を批判していたが、それは的外れだろう。 これは優勝するための作戦であったのだから。 3位で満足するのであれば、タイヤ交換しないでクビサの後ろで完走すればよかった。 ハミルトンはタイヤ交換していなければ、クビサをコース上で抜けて悪くとも2位になれたと思っているようだが、メルボルンでのクビサはほぼ完璧なドライビングを見せており、誰も彼をパスすることはできなかっただろう。 もちろんハミルトンであれば、タイヤ交換なしでも最後まで問題なく走り切れただろうが、その場合3位で満足しなければならない。 だがマクラーレンはそれでは満足しなかった。 彼らは1-2フィニッシュを目指したし、ハミルトン担当のエンジニアは優勝を目指した。 それくらいハミルトンはコース上で最速だった。 オーバーテイクができるサーキットであれば、ハミルトンは問題なく勝てていただろう。 (残念ながらそのようなサーキットはほとんどないが) チームが犯した失敗は、ハミルトンをもってしてもここでは、オーバーテイクが難しいということを認識できなかったことである。 だがその判断もあながち間違いとも言えない。 この日のハミルトンはそれほど速く、クビサの後ろまでは順調にオーバーテイクできていたので、チームは判断ミスをしたのだろう。 今回、ハミルトンは優勝を目指し、失敗した。 だがそれは素晴らしい挑戦だと思う。 勝利を求める男だけが勝つことができる。 だからこれからも、ハミルトンはコース上で輝き続けるだろう。 ▽クビサの激走とフェラーリの満足 結果的に4位に終わったアロンソだが、彼はこの結果に満足しているだろう。 予選終了後、アロンソのレッドブルにかなわないとの話は本音で、彼もレッドブルに何かトラブルが起きないと勝てないことは、理解していた。 それに加えて1周後に接触されてスピンし大きく順位を落としたにもかかわらず、彼は4位でフィニッシュ。 これは今後のチャンピオン争いを考えれば、大きなポイントとなる。 彼はレース後、「つまり僕らはタイトル争いで直近のライバルに対するリードを広げたということだ」と述べている。 彼の目はベッテルしか見えていないようだ。 マッサも滑るリアタイヤをなんとかコントロールしながら、アロンソを抑え込み、3位となり連続表彰台に登った。 これは開幕戦でアロンソの後ろでフィニッシュしたマッサにとっては、いい結果となった。 レースにおいて、チームメイトに勝つのは、非常に重要である。 クビサの2位は素晴らしい走りだった。 開幕戦でのルノーのペースは良かったのだが、それでもビッグ4がいる中で表彰台に登るのは難しいのが現実。 雨が上がる中、混乱に乗じて3位を走るクビサは、ベッテルのリタイヤで2位に上がる。 このコースは、コーナーの立ち上がりを注意していれば、抜かれることはまずない。 彼もそれをわかっていて、立ち上がりだけを注意して走っていた。 彼の頭の中には前を走るバトンに追いつくことなど、全くなかっただろう。 彼は後ろをいかに押さえ込むかだけに、神経を集中した。 それに彼の素晴らしいアクセルワークも手伝って、タイヤも全く問題なかった。 クビサの素晴らしいドライビングがあったこそ実現した2位だった。 ▽可夢偉 ほろ苦い開幕二連戦 可夢偉はオープニング・ラップでフロントウィングが脱落し、コースアウトしてリタイヤした。 可夢偉は何もできないまま、オーストラリアを去ることになった。 ウィングの脱落原因は解明されていない。 可夢偉は、縁石か他のマシンに接触したのかもと言っているが、縁石に接触してフロントウィングが脱落するのは稀で、他のマシンと接触しても、触れたかどうかわからない程度であれば、すぐに脱落することは考えにくい。 接触が全くなくフロントウィングが落ちたのであれば、これはかなり深刻だ。 最初のテストから参加していたザウバーが、開幕2レース目でフロントウィングが脱落するという新チーム並みの信頼性では、今後はかなり思いやられる。 速さが足りないのは仕方ないとしても、信頼性もないのであれば、結果を残すことは全く期待できない。 信頼性の問題を早く解決してくれることの望みたい。 ▽ミハエル連敗 ミハエル・シューマッハーはまたもニコ・ロズベルグに負けた。 予選Q3ではかなり差を詰めることが出来たのだが、これはQ3のアタックでニコがミスをしたからだろう。 決勝でも1周目にスピンして大きく順位を落とし、レース中はアルグエルスアリに抑え込まれてペースが上がらない。 最終的にはデ・ラ・ロサもかわし10位入賞できたのだが、この結果では全く満足できない。 幸か不幸か、メルセデスGPのペース不足は改善の兆しがなく、ニコに負けているとはいえ、大きな差とはなっていない。 ヨーロッパのメディアの中には、ミハエルのペース不足に落胆しているようだが、勝手に期待して、それを裏切ったから批判するというのは、あまり健全とは言い難い。 シーズン中のテストがない以上、ミハエルはレース・ウィークエンドを通じて、感覚を戻していくしかない。 彼がペースを戻してくるのは今年後半で、勝てるようになるのは来年というのが、普通であろう。 偉大なる皇帝といえども人間であり少ないテスト時間で、3年間のギャップをすぐに取り戻せるほどF1は簡単ではない。

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