▽レッドブルの憂鬱
なんとも後味の悪いレースとなってしまった。
チームメイト同士の接触はF1では最も避けなければならない事態であるが、ごく稀に発生する事でも知られている。
しかも、それはチームが最速であるときに限って起きるので、始末に負えない。
それは41周目のバックストレート、ターン12の入口で発生した。
そのラップ、明らかにストレートスピードの落ちたウェバーにベッテルが襲いかかる。
ウェバーは、全開の緩い右カーブ ターン11を抜けてコースの左側を走っていた。
それを見たベッテルが右側からオーバーテイクを仕掛けようとすると、ウェバーは右側にマシンを振る。
その瞬間、ベッテルは左にマシンを持って行き、抜きにかかる。
ウェバーは少し左に進路を変更しつつも、ベッテルが通る1台分のスペースはぎりぎり残す。
ウェバーのマシンに対して半車身前に出たベッテルは、次の左コーナーにターンインするために、ラインを中央寄りに変更。
彼は自分のマシンが半分前に出たのだから優先権がある、すなわちウェバーは引くべきだと思ったのだろう。
ところがウェバーは、アクセルを戻さずラインも変えなかったので、二台は接触しコースアウト。
ウェバーはフロント・ウィングを痛めたものの走行可能で、二台のマクラーレンの後ろでレースに復帰。
だがベッテルは右側後輪がパンクして、そのままリタイヤとなった。
この接触はいろいろな意見があるようだが、私の見解ではどちらの責任とはっきりと言えないと思う。
直接的に接触を招いたのはベッテルがラインを変更したことだが、ウェバーもかなりコース左側にマシンを寄せていたので、次の左コーナーにアプローチするには、ラインを右側に変更する必要があった。
ベッテルのマシンが半分ほど前に出ていたので、ウェバーがひくべきという意見もあるだろう。
チームメイトであるのだから、チーム代表の立場であれば、そう思う。
だがチームメイトは仲間でもあると同時に最大のライバルでもある。
どのドライバーもチームメイトにだけは負けられない。
ウェバーは、ただ真っ直ぐ走っていただけであり、ぶつかってきたのはベッテルという思いもある。
ただあのまま、二台がラインを変更せずにコースの汚れたラインで次のターン12にアプローチしたら、曲がりきれずに、二台のマクラーレンにパスされていた可能性は高い。
ウェバーはラインを変更する義務はなかったが、接触を避けるには彼がひくしか方法がなかった。
▽激突への道
この接触には伏線があった。
スペインとモナコでウェバーに完敗したベッテル。
相当、フラストレーションにたまっていただろう。
なにしろ彼は、完璧にチームメイトに負けた経験がほとんどない。
そのベッテルは、モナコGP後にシャシーに不具合が見つかり、トルコには新しいシャシーを持ち込んだ。
つまり彼は、この2連敗はシャシーの問題であったことをここで証明しなければならない。
ベッテルにとって、トルコGPは絶対に負けられない戦いとなった。
実際、予選Q1、Q2でベッテルはウェバーを上回っていた。
ところが肝心のQ3でベッテルのアンチ・ロールバーのリンクが破損。
アタック中に右側フロントのブレーキをロックさせ、予選3位に終わる。
その為、予選終了後のベッテルの機嫌はすごく悪かった。
普通、予選終了後にトップ3は、写真撮影をしてからインタビューに向かう。
当然、スポンサー・ロゴを露出するために、ドライバーはレーシングスーツを上に上げてきちんと着た状態で、撮影に臨む。
ところがベッテルは上半身のレーシングスーツを脱いだ状態のまま、写真撮影に応じていた。
最近はアンダーウェアにもスポンサーロゴが記載されているので、大きな問題になることはなかったが、普通なら考えられない行為である。
ベッテルの顔にまったく笑みはなく、彼がこの結果にかなりのフラストレーションを抱えていることは間違いなかった。
そしてレーススタートで奇数列のベッテルは2番手のハミルトンをパスするも、1周目に抜き返されて序盤は3位を走る。
ソフトタイヤを履いたベッテルはドライビングが難しそうで、タイムが安定していなかった。
その為、前のハミルトンを追いかけるというよりは、4位のバトンの防戦に追われる状況であった。
ピットストップのタイミングで、ハミルトンは後輪のタイヤ交換に手間取りタイムをロス。
それに乗じてベッテルが2位に上がる。
ハードタイヤに履き替えたベッテルはペースが安定し、ウェバーを追いかける。
そして問題の41周目である。
この時ウェバーは残りの燃料が厳しくチームからは、燃料をセーブしろと指示されていた。
燃料が厳しかったのはマクラーレンも同じだった。
レッドブルとマクラーレンの4台はスタートから4台が2秒前後の差をキープするという稀に見る接戦であった為、当初想定していたよりラップタイムが速く、それが燃料消費を加速した。
接戦だった為、各マシンは燃費モードをパワーが出る(=燃費が悪い)方向でセットしていたと思われる。
特に直線の速いFダクト搭載のマクラーレンに直線で抜かれないようにするには、レッドブルはパワー重視で走るしか選択肢がなかった。
一方のマクラーレンもまた、コーナーの速いレッドブルを追いかけるために、パワー重視で燃料消費が大きかった。
このラップでウェバーがバックストレートで伸びを欠いたのはそれが理由であると考えられる。
彼のマシンは明らかにストレートでの伸びを欠いていた。
接触の1周前にウェバーは、ベッテルのペースを落とさせるようチームに要請している。
だが、ハミルトンに追い上げられていたチームは、それを拒否した。
ではベッテルはどうだったのだろう。
あのスピード差を見る限り、ベッテルはパワー重視のモードで走っていた可能性が高い。
そうでないと説明がつかない。
画面を見る限りウェバーがターン10の立ち上がりでミスをしたようには、見えない。
ベッテルは現役ドライバーの中でも、燃料消費が少ないドライバーの一人である。
また3位と2位を走っていたベッテルは、燃料をセーブする機会もあった。
その為、ベッテルにはまだ燃料の余裕があったのだろう。
もしウェバーだけ残り燃料が少なく、ベッテルは余裕があったのだとすれば、ウェバーに勝ち目はなかった。
このラップは押さえ込めても、数周後にはベッテルに抜かれていただろう。
であるならば、ウェバーは無理して競り合う必要はなかった。
と冷静に考えればそう思うが、ドライビングをしているドライバーにそこまで冷静になれと言うのも酷である。
本来であれば、エンジニアがその事情を伝えてあげるべきなのだが今回、ウェバーのエンジニアは、そのような指示を出していなかった。
この事故に関して、FIAはレーシング・アクシデントと判断し、ペナルティはなかった。
だが、どちらにしても後味の悪いレースであった。
ベッテルとウェバーの間で問題が起こるのは初めてなので、今回は丸く収まるだろう。
だが次に同じ事が起これば、問題は解決不能である。
しかもレッドブルの二台が圧倒的に速い状況では、同じ問題が起こる可能性は高い。
しかもシーズン終盤に起こる可能性が高い。
若きチーム代表クリスチャン・ホーナーがこの状況をどうコントロールするか興味深い。