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ブリヂストンの最も価値ある勝利

JUGEMテーマ:スポーツ

みなさん、ブリヂストンが14年間のF1活動中に何勝したかご存じですか? そうです、175勝ですね。 ではその中で最も価値のある優勝ってどの1勝でしょうね。 人それぞれに思い出に残る勝利があると思います。 1998年の開幕戦 マクラーレンのミカ・ハッキネンがブリヂストンにとっての初優勝したレースも印象深い。 ミハエル・シューマッハーがタイトルを決めたレースも素晴らしいレースでした。 勝てませんでしたが、1997年アロウズをドライブするデイモン・ヒルが優勝まであと一歩までいったハンガリーGPも忘れられません。 100人いれば100の勝利が選ばれるに違いありません。 あなたの選ぶこの1勝はどのGPですか。 でも私が選ぶこの1勝は、2005年あげた1勝です。 どこのGPだかわかりますか? そうです。 勘の良い方はおわかりですよね。 2005年は、ブリヂストンは1勝しかできないシーズンでした。 この年、唯一の勝利を記録したのはインディアナポリスで開催されたアメリカGPだけです。 あの物議を醸し出したミシュラン撤退のレースです。 でも不思議ですよね。 だって出走した6台は全部ブリヂストン勢ですから。 ブリヂストンが勝つのは当たり前。 別にすごいバトルや感動的なチャンピオン決定レースではありません。 ではなぜ私は、このレースが最も価値があると思うようになったのでしょうか。

 ▽性能と信頼性のバランス

タイヤだけでなく自動車関係の技術の多くは、常にトレードオフを迫られます。 トレードオフとは簡単に言えばあちらを立てれば、こちらが立たないと言うことです。 つまりパフォーマンスを求めれば、信頼性が犠牲になるということです。 例えばF1では冷却水を冷やすラジエーターは小さければ小さいほどいいです。 これが小さくできればストレートスピードは伸びますし、エアロの効率も良くなります。 でも小さくすると冷却水が十分に冷えずに水温が上昇し、最悪エンジンが壊れることになります。 タイヤについてもまったく同じ事が言えます。 パフォーマンスと耐久性はどちらかを伸ばせば、どちらかが落ちる関係です。 だからタイヤメーカーはその両立を高いレベルで両立させようと苦労しているのです。 エンジンだと壊れたら「残念」ですみますが、タイヤがバーストすると大事故につながりかねません。 そう言う意味でタイヤの信頼性とはとても重要なのです。 2005年ブリヂストンは苦戦を強いられていました。 この年から原則、予選決勝を1セットのタイヤで走りきることが義務づけられました。 1セットで長距離を走ることはタイヤメーカーにとって大きなチャレンジです。 当然タイヤの耐久性を高める必要があります。 でも耐久性を上げるとタイヤのパフォーマンスが犠牲になる。 どこでバランスを取るか非常に悩ましい問題です。 一方ミシュランの2005年シーズンは好調でした。 その前年2004年までブリヂストンタイヤを履くミハエル・シューマッハーとフェラーリに4年連続破れていました。 この年はシーズン序盤から好調なルノーのエースドライバー アロンソと、信頼性に多少問題を抱えていた最速のマクラーレンを駆るライコネンがシーズンを主導していました。 ミシュランは前半の8戦を全勝で乗り切り、問題のアメリカGPを迎えたわけです。 ▽インディアナポリスの特徴 このインディアナポリスのサーキットは他とは違う特徴があります。 それはバンク部分を持つことです。 レーシングマシンが、バンクを走ると強大な縦Gがタイヤに襲いかかります。 このような状況は他のサーキットでは体験できません。 唯一、スパのオー・ルージュが同じように強烈な縦Gに見舞われますが、オー・ルージュは一瞬で通過してしまいます。 しかしインディアナポリスは違います。 その状態が5秒から6秒も続きます。 これはタイヤにとってはかなり辛い状態です。 通常のタイヤを装着したレーシングカーがバンクを使ってレースをするときは、バンク部分にシケインを作ります。 そうしないとタイヤがもたないからです。 当然、その部分は織り込んでタイヤを設計しなければなりません。 ところがミシュランはそれができなかった。 それは何故か? 彼らはパフォーマンスを極限まで追求したタイヤを開発したからだと思います。 彼らが安全性を犠牲にしたとは言いません。 タイヤ開発は、それほど単純ではないからです。 ただミシュランがパフォーマンスをギリギリまで追い求めたタイヤでこの年を戦っていたのは確かでしょう。 では歴史あるミシュランがなぞそこまでしたのか。 それはF1に復帰したにもかかわらず4年連続でブリヂストンに負けていたからだと思います。 それ以前にブリヂストンと対決したときに、ミシュランは勝てました。 だから今回も彼らは、勝てると確信してF1に復帰したと思います。 しかし勝てなかった。 その状況が彼らをパフォーマンスを重視するタイヤ開発に向けたのだと思います。 そして運命のアメリカGPは開催されました。 ミシュラン勢を抜きにして。 アメリカGP終了後、浜島さんが「ブリヂストンの安全性が証明された」という話をされていました。 でも私はその話を完全には理解できていなかった。 それを理解できたのは、先日ブリヂストンTODAYに訪問して浜島さんに話を伺った時である。 もちろん浜島さん自身が、ミシュランの話をされたわけではありません。 浜島さんはあくまでも、ブリヂストンタイヤの話をしただけです。 しかし、私は浜島さんの説明からブリヂストンは絶対に安全性を犠牲にしないという強い意志を感じることができました。 そしてあのアメリカGPでの出来事の意味が始めて理解できたのです。 恥ずかしながら、それを告白しなければならない。 だからこそこのUSGPの1勝こそがブリヂストンタイヤにとって最も価値のある勝利なのではないかと思うのです。 ※このコラムは先日のオフ会で話した内容を元に構成されています。

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