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2011 Rd14 シンガポールGP観戦記

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  ベッテルは今回も楽勝ではなかった

一見、今回も楽勝に見えたベッテルの勝利だったが、内容的には決して楽勝ではなかった。確かにSC(セーフティカー)が出るまでのレース展開はベッテルの計画通りだった。

クリーンサイドからスタートし、そのままタイヤを労わりながら2位との差を広げ、2位がピットに入ってからタイヤ交換して、逃げ切るいつもの作戦。

 

しかしSCが導入されバトンとの差がなくなったことで、ベッテルは苦しくなった。ただベッテルとバトンの間に3台の周回遅れがいたことは幸運だった。ベッテルはバトンがこの3台をかわす間に、プッシュして2周で10秒の差を作るが、バトンは決してあきらめなかった。

 

彼の頭の中にはカナダGPがあったからだ。バトンが最後までプッシュして、ベッテルがミスをしたあのGP。カナダGPの再現を目指してバトンのプッシュは続いた。ベッテルが周回遅れにつかまると急激に二台の差は縮まり、バトンがつかまると広がる。

 

ただレース終盤に向かって、2台の差は確実に縮まっていた。ベッテルはバトンを上回るタイムを出せれば、バトンは諦めただろう。だが二人が自由に走っているラップはバトンのペースがいい。そして最終ラップでまたもベッテルの前に周回遅れの群れが。急激に差を縮めるバトンに対して、ベッテルは周回遅れを1台また1台と確実に抜いていく。ゴールした瞬間の二台の差はわずかに1秒。レースがもう何周か長ければ何が起こっていてもおかしくはなかった。

ただ今年のベッテルは苦しい状況になっても決して諦めない。確実に自分のできる仕事をやるのみである。彼にこれをやられると、2位以下のドライバーは苦しい。

これでベッテルの史上最年少での2年連続チャンピオンまであとたったの1ポイントとなった。

次のレースはレッドブルが得意とする鈴鹿であることを考えると、ベッテルにとって1ポイントをとることは、難しくはない。しかもバトンが優勝しなければ、その時点でベッテルのチャンピオンは決まる。ただレースは何が起こるかわからない。ベッテルがどういうレースでチャンピオンを取るのか、鈴鹿でのレースを期待しよう。

 

  バトンは勝てていたかもしれない

レース前、バトンはひとつの不安を抱えていた。それは彼がフリー走行で、満タン状態でロ ングランをしていなかったので、ロングランした場合のタイヤのたれが読めなかったのだ。そのため彼は序盤から常にペースをセーブせざるを得ず、ベッテルに 差を広げられる原因の一つにもなった。

だがそのビハインドをSCが取り去った。20秒の差があったベッテルとバトンの差は、3台の周回遅れを除けばなくなった。

 

レース再開後、バトンはこの3台の周回遅れをすぐに処理したが、その時にはベッテルに10秒以上のギャップを築かれてしまった。このベッテルの走りは見事としかいいようがない。このときの遅れさえなければ、バトンはもっとベッテルを追い込めた。バトンは最後のスティントをオプション(スーパーソフト)で、このレースで初めて全開でドライブした。ベッテルも応酬するが、バトンのタイムを上回れない。当初はベッテルが残り週回数を逆算して、リスクを最小限にするためにタイムを抑えていたと思った。

しかしベッテルが周回遅れにつかまり、バトンとの差が3秒に縮まっても、ベッテルはバトンのタイムを上回れない。これは明らかにバトンのペースがベッテルを上回っていた証拠である。可能性は低くともバトンの諦めない走りがレース後半を大いに盛り上げた。最後は1秒差までベッテルを追い詰めた彼の走りは、このレースの中でも一番光っていた。

 

最近、バトンが好調な理由は、彼が自重して走れているからだと思う。

レーシングドライバーという人種は、マシンに乗れば限界で走りたがるものである。

しかしバトンは違う。

彼は新品タイヤに履き替えた直後に、少しペースを落として走れば、寿命が長持ちするとわかっていれば、それができるドライバーである。

今回もバトンは、タイヤ交換直後にはベッテルよりタイムが悪いが、徐々に追いついてきてスティントの終盤には、見事に逆転してみせる。

ただマシンの絶対的なパフォーマンスに差があるので、スティント全体で見るとベッテルに負けているだけである。

このバトンの走りが今年のピレリタイヤには相性がいい。

これでもう少し予選順位がよければ、ベッテルにプレッシャーがかけられるのだが、予選でのベッテルはアンタッチャブルであり、彼が勝利を重ねている大きな原因になっている。

 

  またも自滅したハミルトン

バトンとは対照的に、今回も自滅したのがハミルトン。確かに不運な要素はあった。Q3で二回目のアタックに出る前の給油に時間がかかり、最後のアタックに出ることができなかった。そのため彼は4位スタートとなる。最後のアタックをしたバトンとは僅差であり、彼が最後のアタックをしていれば、2位か3位になれていただろう。さらにQ2でオプションタイヤがパンクして、交換を要求したが認められなかった彼は、2セットのオプションタイヤでレースに臨まざるを得なかった。プライムとオプションの差は1秒以上あったので、ここでも彼は作戦を制限されることになった。そして4位偶数列のダーティサイドからのスタートだったハミルトンはすばらしいスタートを見せる が、いつものようにスタートで大失敗したウェバーが、ハミルトンのブロック。行き場のなくなったハミルトンはマッサやロズベルグにも先行されてしまう。そ してマッサと接触して余計なピットインをして、ドライブスルーペナルティをもらった時点で彼のチャンスはなくなった。

 

確かに、不運があったことは間違いないのだが、マッサとの接触はあまりにもイージーで、ベルギーでの可夢偉との接触同様、避けられた事故だった。

ハミルトンの攻撃的なスタイルは今のF1界は貴重な存在であり、なくてはならない存在なのだが、レースに勝つ負ける以前に、ここまでイージーなミスが多いと、どうしようもな い。完全に負のスパイラルに陥っているハミルトン。この苦境をどう乗り越えていくのだろうか。幸い次は彼も得意とするドライバーズサーキットでもある鈴鹿 である。日本GPで立ち直りのきっかけをつかんで欲しい。

 

  アロンソをもってしても4位が精一杯だった

今回もすばらしいスタートを見せ3位にジャンプアップしたアロンソ。ライバルのウェバーが出遅れたこともあり、表彰台の期待も膨らんだが、フェラーリのペースはあまりにも遅く追い抜きが難しいはずのこのサーキットでも、ウェバーを押さえることは難しかった。

途中、SCが入りウェバーとのギャップがなくなったことも痛かったが、この日のフェラーリのペースでは、上位三台にトラブルがない限り4位が精一杯だった。実際ハミルトンに何もなければ、アロンソは5位だった。もうフェラーリは開発の軸足を完全に2012年に移したのだろう。それでもアロンソは諦めない。チャンピオンのチャンスは消えうせたが、チャンスがあれば彼はまた表彰台に戻ってくるだろう。

 

  可夢偉とザウバーは厳しい

資金不足なのかアップデートの頻度が少ないザウバー。特にブロウンディヒューザーの開発中止は決定的な失敗だった。FIAが禁止にした時点で開発をやめたことはいいとして、開発を認めた時点で再度、開発を再開すればよかったのだが、今年限りのデバイスにお金をかけることをしな かったために、終盤にきてペースが不足している。ペースが不足しているのでギャンブル的な作戦を取らざるを得ず、そしてレース中の作戦を柔軟に変更できず 順位を落としてしまう。完全な悪循環にはまっているザウバー。

もっともこの低速サーキットはザウバーにあっていないと予想された割には、ペースはよかった。それだけにQ2でのクラッシュは痛かった。ターン10はうまく抜けられるとタイムアップできるのだが、失敗するとクラッシュもある難しいシケインである。このミスがなければQ3進出も見えていたので、惜しいミスだった。

ブロウンディヒューザーを開発中止にしたにもかかわらず、それに代わるアップデートパーツも投入されていない状況は可夢偉にとって厳しい。鈴鹿には新しいアップデートパーツが持ち込まれる予定なので、それに期待したい。

 

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