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2011 Rd17 インドGP観戦記 <br>ベッテルのパーフェクトウィン

    ベッテルのパーフェクト・ウィン

今回も粘り強く追いすがるバトンに、最後まで気を緩めることはなかったが、それでもベッテルはいつものように万全の横綱相撲で初開催となったインドGPで勝利した。

 

このレースの焦点はタイヤがどこまで持つのかという点だった。

事前の予想ではソフトタイヤで25周走れるという予測だったが、走れるというのと、それで60周走りきった場合の合計タイムが一番速いのかは別問題。ある周回を境に極端にタイムが落ちるピレリタイヤの特性を考えると、どのチームも自分達とライバル達のペース、そしてハードタイヤに交換した他のドライバーのラップタイムを見ながら、タイヤ交換のタイミングを探るというゲームとなった。

 

事前の予想ではソフトとハードとのタイム差が2秒あると見られていて、ハードはレース終盤に少しだけというのが、大方の見方だった。

ただこのサーキットは初開催であり、路面状況は公道サーキットと同じで金曜日はグリップせず、土曜日に少し改善し、日曜日にすべてのマシンが走り出すと急速に路面状況が改善してくるのでレース後半ではハードとソフトのタイム差が予選ほど出ないと考えられた。

スタートでは、とにかく砂埃がひどく奇数グリッドも偶数グリッドも大差がなく、最終コーナーが左回りでターン1が右回りということもあり、グリッドの左右での有利不利は見られなかった。

 ポール・ポジションからリードを得たベッテルはいつものようにレース序盤にペースを上げて2位に浮上したバトンを引き離す。DRSを使わせないためだ。


その後は2位のマシンとのタイム差を見ながらギャップをコントロールする、いつものレーススタイルでリードを保つ。バトンがファーステスト・ラップを連続して更新すると、ベッテルも反応してファーステスト・ラップを連続して更新するという具合だ。またベッテルはKERSを使う周と使わない周をはっきりと使い分けていた。彼のセクター1のタイムは頻繁に0.50.6秒もぶれていた。これはよほど大きなミスをしない限りは、失わないタイムなので彼は信頼性を確保するためにプッシュするときだけKERSを使い、そうでない時はKERSを使用しなかったと見られる。


こうしてギャップをコントロールしていたベッテルは、先にハードタイヤに交換したウェバーのタイムがソフトの中古とほぼ同じタイムで走れると見ると、バトンのピットインを待ち、その1周後に最後のタイヤ交換をして、勝利を万全なものにした。ベッテルはバトンの次の周にタイヤ交換する必要がなかったくらい、タイヤはいい状態だったが、セーフティ・カーが入るリスクなどを考えて予定通りバトンの1周後にタイヤ交換した。

 

その後はペースを抑えていたベッテルだったが、最後の2周は全体ベストラップを連続で更新。見事にポール・ポジション、レースでの勝利、ファーステスト・ラップ、そして全周回リーダーという4(フルハウス)を成し遂げた。これで彼は年間11勝とPP12回をこのレースで達成。残り2レースで年間最多PPタイ記録を狙うことになる。

レース終盤にはエンジニアからペースを落とすように言われていたにもかかわらず、ファーステスト・ラップを連発するお茶目なベッテル。ファーステスト・ラップが少ないと言われている事を、多少は気にしたのかな。

 

  届かなかったバトン

このレースにおいて、バトンはベッテルに食い下がったもののマシンの性能差は明らかで、マクラーレン陣営としてはプレッシャーをかけつつベッテルのミスを待つのが唯一の作戦だった。そしてベッテルとレッドブルはミスなくレースを終えたので、バトンとしては2位で満足するほかないだろう。

 

ベッテルがペースをコントロールしてタイヤの寿命を持たしていたので、バトンとしても、局面を打開するために先に先にタイヤ交換せざるを得なかった。タイヤ交換したバトンはインラップとアウトラップでそれぞれ1秒、合計2秒もベッテルとの差を縮めるのだが、ベッテルは1周先にタイヤ交換されても、抜かれないギャップを築きつつ、タイヤ交換する用意周到さであった。

 

通常ベッテルは8秒から10秒ほどのギャップを作るのに、今回は5秒ほどしか差がつけられなかった。それはバトンのペースが良かったからなのだが、レース 自体は完全にベッテルにコントロールされており、バトンにできることは時々全体のベストラップを更新してベッテルの反応を見るくらいしかなく、タイム差は 僅差だったが内容的には完敗だった。

 

  またお騒がせのハミルトン

またまたマッサと接触したハミルトン。確かにVTRを見返すとマッサがハミルトンを確認しながらも意地になってドアを閉めてように見える。ただターン5で抜くことはほぼ不可能である。前のマシンが譲ってくれない限りは。

確かにバックストレートでKERSを残し、意表を突いてターン4の立ち上がりで使用してオーバーテイクを仕掛けるのはいい。だが追い抜きが難しいターン5で仕掛けるのであればハミルトンはいつでも引けるように準備しなければならない。

 

結局、マッサがペナルティを科されたのだが、ハミルトンは接触によりフロントウィングを破損し、余計なタイムをロスして7位に沈んでいる。マッサの方がペナルティで悪いと言ったところで、失った順位が戻ってくるわけではないのだ。

 

どうせ意表を突くならターン1の立ち上がりから使ってターン3の飛び込みで勝負かけた方が遙かに可能性は高かっただろう。金曜日にイエローフラッグが出ていたにもかかわらず、スピードを落とさずに3番手グリッド降格のペナルティを科させるなど、最近のハミルトンは簡単なミスが多すぎ持ち前のスピードを活かせていない。今回も2位からスタートしていれば全く違う展開になっていたと思われるだけに、残念な失策である。

 

  アロンソとウェバーの差

このレース、3位はフェラーリのアロンソで4位はレッドブルのウェバーである。

マシンの地力の差だけ考えればウェバーが3(いや2)でもおかしくはない。それでもウェバーは細かいミスが多く、タイヤを痛めてしまい、各スティント中盤でのタイムが伸び悩み、アロンソに 逆転されてしまった。一方のアロンソは相手と競り合っていない場面でも、タイヤをいたわりつつも自分にできるベストの走りができる。だからタイヤ交換した 際にほんの少しウェバーの前に出ることができる。これがワールドチャンピオンになれるドライバーとなれないドライバーの差である。

特に今年のピレリタイヤは非常に繊細でほんの少しの差でもスティント後半ではタイム差が如実に表れてしまう。今回、その差がこの二人の表彰台を分けることになった。

 

  お手上げの可夢偉

再三再四申し上げているがブロウンデヒューザーの開発を止めてしまったザウバーはライバルたちとの競争力を完全に失ってしまった。特に予選のスピード不足は深刻である。

今回はもらい事故みたいな形になったがそもそも17位からスタートしなければ事故には遭わなかった訳だし、予選Q1で脱落したのもトラフィックに引っかかった事もあったのだろうがマシンのスピードがあれば、それでもQ1は突破できただろう。今回、彼らはソフト-ソフトとつないで、最後の数周だけハードで履く作戦だった。これは上述したとおり、フリー走行でハードとソフトの差が2秒も開いていたからなのだが、路面が向上してくるのは明らかで、他のチームはそれを見越した作戦を立てていた。こういう作戦面でも最近のザウバーは柔軟性に欠け、レース後半に失速することが多い。

 

正直、残り2レースでザウバーがトロ・ロッソやフォース・インディアに対抗することは不可能で、後は彼らのミスやトラブルを待つしかない。アブダビはともかくブラジルでは雨が降る可能性も高いので、そういうチャンスにかけるしか可能性はないだろう。

 

 

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