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2011 Rd19 ブラジルGP観戦記

 ▽負けてもベッテルは素晴らしいドライバーである
ベッテルのトラブルはギアボックスのオイル漏れだった。5周目に発覚しそのままでいけばレース半ばにはオイルがなくなる計算だった。そこでピットからベッテルへは最初に2速ギアを、次いで3速をショートシフト(※)に、最後にはギアチェンジの回数を減らすように指示が出た。それでもベッテルのペースは力強くウェバーには抜かれたものの、バトンやアロンソを抑え込むには充分な速さがあった。

これをチームがウェバーを勝たせようとしたチームオーダーではないかという疑惑もあったようだが、それはないだろう。ベッテルは勝つことに執念を見せていたし、そもそもチームオーダーは合法である。こんな手の込んだ芝居を打つ必要はない。それにこれがベッテルにばれたとき、裏切られたと感じるベッテルは他チームへの移籍を考えるだろう。よってレッドブルがそんな事をするわけがない。
それにしてもこれだけのトラブルに見舞われながらも2位でフィニッシュしてしまう、ベッテルは素晴らしい。しかも終盤までのペースは見劣りすることはな かった。もしウェバーがいつものようにスタートで大きく出遅れていたらベッテルは勝利していた。彼はレース中に無線で1991年のセナのようだと述べ、 レース後の会見ではセナとは違い優勝できなかったと言っていたが、ウェバーがいなければ彼はセナの偉業を再現していただろう。

セナとベッテルの違いは2位に速いチームメイトがいたか、いなかったかである。
ベッテルのギアボックストラブルがなければ、ウェバーは勝てなかっただろうが、それでもスタートでミスなく2位につけていたからの勝利できた。彼はコンスタントに速いペースで走れており、勝利に値する走りだった。

今年の彼はスタートで失速することが多く、それが彼のレースを困難な物にしていたが、この勝利で来年への展望が開けてきた。

▽ベッテルのPP記録はマンセルとは比べられない
いつの時代も過去の偉大なドライバーと現在の優れたドライバーは比べられる。その考え自体は興味深いし、気持ちもわかる。だがF1において記録とは常に相 対的である。つまりライバルのマシン性能やドライバーの能力などが大きく影響を与える。19年前、マンセルがPP記録を樹立した年は、ウィリアムズ FW14が圧倒的な戦闘力を有していた。マンセルのライバルはパトレーゼだけという状態で、そのパトレーゼもマンセルには太刀打ちできなかった。当時の FW14はアクティブ・サスペンションを装備し、常にライドハイトは一定で、ピッチもロールも最小限であったと伝えられている。これはマシンの空力的安定 性という意味では理想的だが、ドライバーがマシンのフィーリングを掴みにくい。いけいけドンドンのマンセルは、それでもアクセル全開で飛び込んでいけるの だが、伝統的なパトレーゼのドライビングには全く合わなかった。

それに比べると今年、ベッテルとライバルとの差は驚くほど少なかった。もちろん、シーズン前半戦であるヨーロッパGPまではベッテルにも余裕があった。し かしイギリスGP以降はその差は少なくなり、日本GP以降はほとんどマージンを失ってしまった。それでもベッテルは韓国GP以外でPPを獲得し続けた。
我々はベッテルが楽にPP取っているように見えるが、そもそもPPは簡単には取れない。それはウェバーを見ればわかる。マシンの性能が良ければ簡単にPP が取れるのであれば、ウェバーは常に予選2位にいなければならない。だが実際にはそうはなっていない。10個以上のコーナーがあるF1のサーキットの全て のセクターで、高いレベルのタイムを記録するのは容易ではない。たった一つのミスで簡単に0.5秒失うのだ。もし予選で0.5秒も失えば少なくとも予選順 位は3番から5番は失うだろう。それを考えると年間で15回もポール・ポジションを取るベッテルの能力は突出していると考えるべきだろう。

最近のF1は過去のどの時代よりも、マシンの性能差が少なくなっている。その中で彼がPP獲得記録を樹立した事は驚くべき事である。もちろん開催レース数 は今年の方が多いのだが、ライバルとの力関係を考えるとやはり素晴らしい記録なのだ。今年チャンピオン経験者が5人もいたことを忘れてはいけない。

結論、マンセルもベッテルも素晴らしいドライバーである。性格はかなり違うけどね。

▽アロンソもまた素晴らしいが、マシンはそれに見合っていない
アロンソはまたも素晴らしい走りを見せたがレッドブルが1-2では、4位も仕方がない。3位はジェンソン・バトンだった。ソフトタイヤを履いたアロンソは力強くペースも良くバトンを抜いた後も3位をキープできていた。

だがミディアムを履いた途端にペースが伸びない。ミディアムの方を好んでいたバトンが急接近し、瞬く間に抜いて行ってしまった。これは今シーズンを通じて フェラーリを悩ましていた問題である。彼らのマシンは柔らかい方のタイヤでは好ペースを持続できるが、固い方のタイヤではウォームアップに問題を抱えて、 グリップしない。これは昔のように自分たちにあったコンパウンドを使用できるのであれば有利なのだが、最近のようにタイヤメーカーが持ち込んだタイヤセッ トで戦わなければならないときには、苦しい。

来シーズンのフェラーリはこの点を改善すると言っているが、実はマシンの基本特性を変えるのはかなり難しい。今年、マクラーレンからパット・フライが移籍してきたのだが、彼がどの程度やれるのかが注目される。

▽後半戦のバトンは素晴らしい
またも3位表彰台を物にしたバトン。シーズン後半の彼の走りは見事である。バトンはソフトタイヤで苦しんでいた。なぜかペースが良くなく、フィーリングも 悪かった。その為、彼は第3スティントと第4スティントでハードタイヤを履く決断をする。そしてそれが成功しハードタイヤで苦しむアロンソを抜き去った。

今回、ピレリは新しいコンパウンドのソフトタイヤを持ち込んだ。これは従来品よりも固いコンパウンドで、ミディアムとの差が少なくなっている。レース後半 はコース上にラバーがのった事もあり、ミディアムのバトンはソフトを履くライバルと比べても遜色がなく、ミディアムで苦しむアロンソを抜き返した。

このオーバーテイクシーン、アロンソがターン1でイン側を抑えたのだが、そのせいでターン2の立ち上がりがタイトになり、バックストレートに向けての加速 が鈍かったのに加えて、ターン2出口アウト側の縁石に乗り上げて、リアが少しスライドし更に加速が遅くなった。これではアロンソは為す術がない。バトンは DRSを使う間もなくアロンソに並び、そして簡単に抜いていった。一度抜かれてしまえばアロンソはただバトンが離れていくの見守るだけである。

▽バリチェロは依然として現役でやれる
今回は入賞できなかったが、バリチェロの走りは見事だった。予選で12位は今のウィリアムズの能力を考えると、考えられない結果である。残念ながらスター トは大失敗で、最終グループまで落ちてしまい順位は14位だったが、スタートさえ成功していれば、入賞は可能だった。それだけにスタートの失敗が悔やまれ る大ベテランの走りであった。ウィリアムズの性能を考えるとこれは驚異的である。
彼の来シーズンは未だ不確定ではあるが、能力的は来年もまだまだやれる事を証明した。

▽可夢偉は本当のエースドライバーである
可夢偉はまた素晴らしい仕事をしてくれた。彼はトロ・ロッソより前の9位でフィニッシュ。これでザウバーはコンストラクターズランキングで7位を確保。恐らく10億円近い賞金の増額をもたらしたと思われる。これは中堅チームの予算規模としては、大きな金額である。

ザウバーの予選のスピード不足は相変わらずだが、可夢偉はスタートでアルグエルスアリを2周目にブエミを抜くと全てのスティントで安定したペースを持続。 終盤にはフォースインディアのスーティルも射程圏内に入れていたが、チーム側からリスクを冒すなと指示が出て、可夢偉は諦めることになった。このレースで の彼らの目的はトロロッソより前でフィニッシュすることで、8位になることでもフォースインディアの前でフィニッシュすることではないからだ。

シーズン後半はかなり苦しんだが、結果的にペレスの二倍以上のポイントを稼ぎ出した可夢偉。苦しいときにこそ結果を出せるのが、エースドライバーであるならば、彼は自分自身でそれを見事に証明した。

※ショートシフト:例えば2速選択時にレブリミット(回転最高限度・今は1万8千回転)まで引っ張らずに、3速へシフトチェンジする事。画面上でベッテル は1万7千回転でシフトチェンジしていた。F1の場合、エンジンの仕事量は回転数に比例するので、エンジンのパワーをフルに使えなくなる。
 

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