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ピレリタイヤの秘密

昨シーズン、レースを面白くした大きな要因がピレリタイヤにあることは、誰もが認めるところだろう。最も2011年シーズンに影響を及ぼしたのはピレリタイヤといっても過言ではない。では2010年までのブリヂストンとピレリタイヤはどこが違っていたのか、多くの人の証言を元に分析し、私なりの考察をまとめてみた。

▽テストが限られたピレリタイヤ
まずこれまでのタイヤサプライヤーとピレリの置かれた状況で一番の違いが彼らがテストをすることを著しく制限されたことだ。もちろん彼らは2010年中からプライベートテストを繰り返していた。だがそれは型落ちのトヨタのマシンであり、日進月歩のF1マシンから見れば、それは過去のものでしかなかった。

シーズン前のテスト回数も限られており、彼らがタイヤ作りを始める時点で考えたのは、壊れないタイヤというのは、当然の成り行きであったと考えられる。タイヤが壊れるというと、不思議に思う方もいるかもしれないが、それは実際にあった。記憶のいい方は憶えているだろうが2006年のアメリカGPがそうだ。インディアナポリスのバンクから来る強力な縦Gに耐えきれなかったミシュランタイヤは構造が壊れて、長距離を走ることができなかった。
ブリヂストンのタイヤ作りにおいても、タイヤが壊れないということは大前提であり、特にタイヤに大きな負荷のかける、スパやトルコを念頭に置いて壊れない タイヤを作ることが第一目標である(鈴鹿もタイヤに厳しいがそれは横Gにおいてであり、さらにブリヂストンは鈴鹿のデータは膨大に持っていたので全く問題 がなかった)。

それでもタイヤを供給する前に潤沢なテストができたブリヂストンと比べてピレリタイヤは本当に限られた少ないテスト回数しか与えられなかった。だから彼ら はまずタイヤの構造を強くすることを考えた。それもかなりのマージンを見込んだ上で。それはテストの回数が制限されているのであれば当然の決断である。彼 らしかタイヤ供給するメーカーがいない状況で、フリー走行や予選でタイヤが壊れたら、どうなるかは想像するだけでも恐ろしい。

だから彼らはブリヂストン以上にタイヤ構造を強固にしたタイヤを2011年シーズンに投入した。

▽柔らかいコンパウンド
ところがピレリはFIAから、すぐにたれるタイヤを要求された。これはもちろんレースを面白くするためである。その結果、ピレリのタイヤは必要以上に固い構造のタイヤに、必要以上に柔らかいコンパウンドという普通考えられない組み合わせのタイヤとなった。

これが2011年シーズン、ピレリタイヤが特異な特性を示した原因であると考えられる。

構造が強いとタイヤのパフォーマンスは、コンパウンドに過度に依存する結果になる。そのため、昨年までのブリヂストンとは違いピレリはコンパウンドを使い 切ると、極端に性能が落ちる特性を持つようになってしまった。これがクリフという名前で呼ばれた、エンジニアを恐怖に陥れた特性の原因である。

さらにタイヤ構造が強く、コンパウンドが柔らかいので、タイヤの表面が極端に熱くなるオーバーヒートの現象もよく現れた。さらにブレーキング時にぎりぎり まで我慢して、短時間で急激にブレーキングすると、滑ってしまうオーバーロードもこれが原因だろう。タイヤの構造が強くサイドウォールがたわまないので、 粘らないのが原因だと考えられる。

2011年シーズンのピレリタイヤは、この強い構造と柔らかいコンパウンドがわからないと理解が難しい。それほど、これまでのタイヤとは違う特性を持って いるということである。だから過去のブリヂストンタイヤにあわせた走り方を身につけたドライバーは苦戦した。その代表格はバリチェロだろう。その恩恵を最 も受けた1人がバトンとなる。もちろんタイヤの違いを理解した上で、走り方を変えて、変化に素早く適応したドライバーもいる。最も優れていたのはご存じセ バスチャン・ベッテルである。苦戦したドライバーの中にはウェバーやマッサも含まれる。

▽ハミルトンが苦戦し、バトンが善戦した理由
ハミルトンも苦戦した1人だ。彼のように、短時間でブレーキングし荷重をフロントタイヤにかけて、急激に方向転換するドライバーにとってこのピレリタイヤの特性は決してありがたいものではない。逆に長い距離をかけてブレーキングをするバトンにとっては全く問題がない。

昨年までのブリヂストンはタイヤの構造が柔らかいので、荷重をかければかけるほどグリップが増える。これはハミルトンの様にマシンの荷重を自由自在にコン トロールできる優れたドライバーには、願ってもない特性だ。ところが今年は荷重をかけても抜けてしまうので、これは全くやっかいな特性となる。昨年、何度 もハミルトンがタイヤをロックさせていたのは、これが原因だろう。そしてハミルトンが苦しんでいる反面、バトンはこのタイヤ特性にあった走りで得点を重ね た。

▽2012年のピレリタイヤは?
では2012年のピレリタイヤはどうなるのだろうか。
現時点でわかっている事実は、彼らはタイヤの形ープロファイルを変更する。
2011年のタイヤプロファイルは、ブリヂストンとほぼ同じ形状であった。理由は簡単でピレリが参入決定した時点で既にチームは翌年の開発を進めており、この段階でタイヤ形状を変更されることを嫌ったためである。今年のタイヤ形状こそがピレリタイヤのオリジナルとなる。
昨年の形状より角張った輪郭を持ち、トレッド面が広がる。

そしてピレリはスーパーソフト以外のタイヤコンパウンドを柔らかくすることを宣言している。昨シーズン序盤、3回ストップが標準で4回ストップもあったピ レリタイヤも、チームがタイヤの理解を深めると共に、回数を減少させ、シーズン終盤には2回が標準で1回ストップもあった。そのため、さらにレースを面白 くするために、コンパウンドを柔らかくする。今年のソフトが来年のミディアムくらいになるだろう。

ではタイヤの両輪のもう一方である構造はどうなるだろう。
恐らく今年1年の実戦経験を経て、もう少し攻めた柔らかい構造を持ち込むのではないかと考えられる。そうすると荷重をかけてもグリップするし、崖も2010年ほど激しくは出てこないと考えられる。

当然、チーム側には2012年シーズンのタイヤスペックが伝えられており、それに基づいてチームはマシンの開発を進めている。
今シーズン、どのドライバーがタイヤに笑い、タイヤに泣くのか。それはシーズンを決定づける大きな要因になるだろう。



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