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2012 Rd8 ヨーロッパGP観戦記<br>アロンソ母国で涙の勝利

▽アロンソ 地元勝利で今シーズン2勝目
ラッキーな勝利?確かに幸運がなければアロンソの勝利はなかった。しかし幸運だけで勝てるのであれば、アロンソ以外のドライバーが勝ってもいいはずだ。だがまたもや幸運の女神が振り返ったのはアロンソだった。これは偶然なのだろうか。もちろんこのレースは、ベッテルが勝つのが順当であったのは間違いない。しかしベッテル以外のドライバーが勝つとすればアロンソしかいなかったのも事実だ。

ではなぜアロンソは勝てたのだろうか。彼は11位スタートだったのだ。このコースは見かけとは裏腹に追い抜きが極めて難しい。DRSがあっても、なくても、前のマシンが立ち上がりでミスをしない限りは抜けない。これまでフロントローからスタートしないドライバーが勝ったことはなかった。

オープニングラップで8位にまで順位を上げたアロンソは、その後も着実に順位をあげ、最初のピットストップが一巡した時点で4位にいた。そしてセーフティーカー(以下SCと略)が入ってタイヤ交換した28周目には3位につけ、SCがアウトしたラップでうまく加速し、グロージャンを抜き2位になる。
この後、アロンソにグロージャンがプレッシャーを掛けるが、残り周回数が多くてもアロンソを抜くことはできなかっただろう。なぜならアロンソはコーナーの 立ち上がりさえ注意すれば抜かれないことがわかっている上に、それ以外の部分でも意図的にペースを落としタイヤを温存できるからだ。

アロンソは例え8位を走ろうが13位を走ろうが常に全力を出せるドライバーである。こういうと当たり前のように思えるが全てのドライバーがそうしている訳 ではない。誰でも優勝争いしていれば全力を出せるが、8位や13位ぐらいで前とも後ろとも差が開いてしまうと、全力で走っていても少しペースが落ちる。だ がここで1周あたり0.1秒ずつタイムを短縮してたら60周のレースで6秒速くフィニッシュできる。確かにこれで順位が入れ替わらないレースもあるだろう し、その方が多いかもしれない。でもアロンソは常に全力で走ることのできる数少ないレーサーの1人である。だからこそ前のドライバーにトラブルがあった時 に、順位を上げることのできるドライバーは常にアロンソと言うことになる。

つまりこの勝利は幸運がもたらしたものであるが、実力で勝ち取った勝利でもある。2010年の韓国GPとこのヨーロッパGP。ベッテルがリタイヤしたレースで共にアロンソが勝っているのは偶然ではないのだ。

それにしてもあれほど感情を爆発させるアロンソを見ることも珍しい。マシンから降りスタンドに向かい手を振り、表彰台で涙する。いつも冷静なアロンソでもやはりラテンの血が流れていると言うことを再確認させられたレースであった。

▽勝利目前で涙したベッテル
ほぼ勝利を手に入れていたベッテル。予選では2位に0.3秒の大差を付けてポールポジション。カナダではレースペースが上がらなかったので、今回もレース は接戦になるかと思われたがスタートから順調に速いペースを続けた。これは接戦が続く今年のレースとは全く違う展開だった。レースペースがいいにも関わら ずタイヤの持ちも良く、最初のタイヤ交換でも順位を落とすことなく、首位をキープ。セーフティーカーが入るタイミングが悪く、ベッテルはライバル達に比べ ると1周遅れてのタイヤ交換になったが、抜かれることもなく後はフィニッシュを目指すだけだった。

残り20周以上を残していたが上位陣は最後のタイヤ交換を終えていたので、後ろのマシンが彼を抜くことは事実上難しかった。勝利は目前にあったのだ。だが彼は34周目にマシンを止めた。

突然のエンジントラブルは何が起きたのだろうか。ルノーからはオルターネータの故障と発表されている。オルターネータとはエンジンの動力を使い発電して、 マシンに電気を供給する装置である。これが壊れるとマシンには電気が供給されず、マシンはストップする。なにしろ今のF1(に限らず全ての車)は電気自動 車と言っていいほど、電気に依存し、電気がなければ動くこともできない。

オルターネータの故障の原因としてはSCが疑われる。SCが予想以上(6周)に長くとどまったことでオルターネータの温度が上昇して故障した可能性が考え られる。F1マシンは必要最小限度の冷却性能を計算して設計される。その中でもレッドブルはギリギリの冷却性能で作られている。それはもちろん空力性能を 向上させる為である。今回は予想以上に長くSCが入ったことと気温が上昇したことで、レッドブルのオルターネータにダメージを与えた可能性がある。ロータ スのグロージャンも同じ理由でリタイヤしているので、ルノーが使用しているオルターネータの問題も疑われる。

だがカナダとバレンシアの予選と今回の決勝レースを見る限りレッドブルとベッテルは何か秘密のカギを手に入れたようだ。予選での速さを考えると排気ソ リューションの有効活用ができているのではないだろうか。そう考えると今回は、ノーポイントに終わったがベッテルの今後は明るい。次のイギリスGPで勝つ ようなことがあれば、後半戦はベッテルの快進撃が見られるかもしれない。

▽ミハエル復帰後初表彰台も
ミハエル・シューマッハーが復帰後初の表彰台に登った。しかしレースを振り返ると前のマシンが4台リタイヤしているので、手放しでは喜べない。なにもなけ れば6位や7位であっただろう。他のドライバーであればそれでも、素晴らしいと思うのだが、ミハエルの過去の実績を考えるとやはり寂しい。
この結果でミハエルは今シーズン限りで引退するかもしれない。表彰台に登ったことで一定の成果を残せたからだ。本人もレースで勝つのがマシン的にも難しい ことはよく理解していると思う。だから契約の切れる今年限りで引退しても誰も彼を責めないだろうし、彼にとってもいい引き際だと思うのだが。

▽またも不運な可夢偉
予選では7位、スタートで2台抜いて5位に上がり表彰台の可能性もあった可夢偉。たらればは禁物ではあるが荒れたレースを考えると完走していれば表彰台は 現実的だった。最初の躓きはタイヤ交換。ここでザウバーはタイヤ交換に通常の倍近い時間を費やし、ライコネンとアロンソに抜かれるという失態を演じる。そ してタイヤ交換をせず上位に残っていたセナを抜く際に接触。ピットインを強いられて大きく後退した。

接触の直前、アロンソに抜かれてスピードの落ちていたセナを抜きにいったのだが、通常追い抜きをするコーナーではなかったのでセナは後ろを見ていなかっ た。だから可夢偉がインにはいっていたのに、通常のレーシングラインを走って接触。確かに接触の原因はセナにあるが、タイヤがダメになっていたセナを抜く チャンスはこの後にもあったと思う。あそこのコーナーで抜きに行くことが良かったのかどうかは判断が分かれるだろう。もちろんレーサーの本能としてはあそ こで行くのは間違ってはいないのだが。

最初のスティントで2位のハミルトンのペースが上がらなかったのも誤算だった。もしハミルトンのペースがもう少し良ければ、タイヤ交換後にセナの前に戻れていた可能性もあった。

それにしても歯車のかみ合わない可夢偉。この後、マッサと接触してそのペナルティで次のイギリスGPではスターティンググリッド5番手降格のペナルティである。
なんときっかけを掴んで流れを良くしていきたい。
 

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