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2012 Rd18 アブダビGP観戦記<BR>ベッテルは幸運だったのか?

▽またもトラブルに泣く ハミルトン
これまでは退屈と言われかねないアブダビGPだったが、今年は違った。やはりチャンピオンになるドライバー達は違うと唸らされた、素晴らしいレースとなった。

まず勝てなかったが素晴らしい走りを見せてくれたハミルトン。彼のリタイヤの原因はエンジントラブルで、燃圧が落ちたことが原因と見られている。ペース的にも全く問題がなく、フィニッシュしてれば優勝は間違いなかった。ただシーズン終盤に来てマクラーレンには信頼性の欠如が続いている。シンガポールでもハミルトンはトップ快走中にリタイヤ。その後もサスペンション系のトラブルで本来の走りができないレースが続いた。これは抜群の信頼性を維持してきたマクラーレンにとっては、まさかのトラブル。

シンガポールとアブダビだけでハミルトンとマクラーレンは50ポイントを失った。このトラブルがなければまだチャンピオンの可能性が残っていただけに、あまりにも痛い信頼性不足だった。

▽復帰後初優勝のライコネン
ついにあの速いキミ・ライコネンが戻ってきた。ここまで17戦で16回の入賞をし、ランキング3位に付けていたキミが足りなかった最後のピースである優勝を手に入れた。これまでライコネンが優勝できなかった一番大きな理由が予選である。確かに今年は後方からスタートして優勝したり、表彰台に登ったりしたドライバーが多いのだが、やはり優勝するならばフロントロウからのスタートが必須。

今回、ライコネンはベッテルの予選結果削除により4位スタートとなり、抜群のスタートでウェバーとマルドナドをかわして2位に浮上。この時のいいスタートが彼の復帰後初優勝の鍵となった。レースでトップに立てばライコネンのペースは一貫して速く、終盤のアロンソの追い上げも余裕で逃げ切り優勝した。
 ▽ベッテルは幸運だったのか?
ベッテルはチーム側のミスにより予選結果を削除されるというペナルティを科せられてしまった。問題はQ3が終了し、 ピットへ戻る時に起こった。セクター3を走行中のベッテルにチームからすぐにマシンを止めろとの指示がでた。ベッテルのマシンは燃料の残りが少なかったため、チームはマシンを止めさせた。

レギュレーション上ではアタック終了後は自力で戻りな おかつ、燃料検査をするための燃料を残しておかなければならない。今回、ベッテルは1リットル残さなければならない燃料を850mlしか残しておらず、 150ml足りずに予選結果を抹消された。ただこれには少し疑問点もある。まずセクター3まで走らせずにフィニッシュ直後に止めれば1リットル以上の燃料 が残っていたと思われる。ただこの場合、自力で戻るという条件をクリアできないので、同じペナルティの可能性もあった。そしてもう一つ方法が黙ってそのま まピットへ戻ることだった。燃料の抜き取り検査をされるのは24台中わずかに2台。つまり12分の1の確率しかないのだから、そのまま戻っておけば、何の問題もなかった可能性がある。

その後、パルクフェルメからマシンを引き取り調査したレッドブルとルノーは燃料給油システムに問題があった との結論に達しようとしている。彼らは燃料給油システムの調整に失敗し、想定以下の燃料しか搭載されていなかったことを有力な原因として考えている。燃料が完全 になくなってしまうとエンジンを傷める恐れがあり、レッドブルとルノーが急遽判断し、ベッテルと途中で止めることにした。これなら彼らがベッテルもマシン を途中で止めた理由が理解できる。

それにしてもチャンピオン争いの最中に起こしてはいけないミスだった。
このペナルティにより最 後尾スタートになるベッテルだったが、レッドブルはパルクフェルメからマシンを引き上げ、マシンの調整が可能なピットレーンスタートを選択。ダウンフォー スレベルの調整やギア比を交換して、レースに臨んだ。これによりベッテルはストレートスピードを約10km/h上げ320km/hとし、オーバーテイクが できるようにした。

レースでは幸運と不運がミックスになったレースを経験した。不運は二度にわたるフロントウィング損傷である。最初は1 周目にセナと接触し、右フロントウィングの翼端版をなくした。この時はまだ大きなダウンフォースの減少は認められなかった。二度目はセーフティーカー中に ブレーキングをしてスピードを極端におとしたベルニュを避けるためのコース脇の指示ボードに接触し、同じく右フロントウィングのフラップを失う。この時は セーフティカーが続きそうなこともあり、ベッテルはピットでフロントノーズとタイヤを交換して、コースに戻る。

これでまた後方に下がった ベッテルだったが、今度は幸運が彼に味方する。二回目のセーフティカーが入り、入賞圏内に追い上げていたベッテルは先頭との差を20秒から10秒に縮める ことができた。これによりベッテルは表彰台が見えてくる。その後各ドライバーが最初で最後のタイヤ交換をすると2位に浮上。問題は彼がもう一度タイヤ交換 するのかしないのかの一点になる。もしタイヤ交換しなければアロンソにとっては悪夢である。そしてライバルのエンジニア達はベッテルがソフトタイヤで42 周走りきれる、すなわち最後までいけると考えていた。ただ交換なしで行くとなると比較的タイヤが新しいアロンソの追い上げは厳しかったはずだ。そしてもし タイヤがダメになるとベッテルはさらにポイントを失う可能性もあった。

その時、4位バトンの後ろには20秒ほどのギャップがあり、ベッテルはタイヤ交換しても遅い5位以下のマシンの前で戻る事ができるできる状況だった。その為、チームは安全策をとりベッテルにもう一度タイヤ交換させることを選択した。

そ してベッテルは目論見通り4位でレースに復帰。この後は比較的新しいソフトタイヤをいかしてバトンに追いつく。この時、アロンソは2位でベッテルは4位。 このままだと二人の差は5ポイントしか縮まらない。これはピットスタートのベッテルにとって悪くはない結果だ。だがベッテルは攻め続け、バトンをオーバー テイク。最後まで諦めない素晴らしい走りだった。

そしてベッテルのドライビングも素晴らしかったが、抜かれたバトンのコントロール能力も 素晴らしかった。ベッテルとギリギリの攻防を繰り広げながらもマシンをコントーロールして、ベッテルのマシンに1台分のスペースを残していた。4位になっ たとはいえバトンもまた、チャンピオンドライバーとして能力の高さを見せてくれた。

これでベッテルは3位フィニッシュ。2位だったアロン ソとの差は僅かに3点失っただけ。これはピットレーンスタートだったベッテルには想像以上にいい結果だったし、アロンソにとっては想像以上に悪い結果だっ た。この日のベッテルは優勝できなかったかもしれないが、この結果はチャンピオン争いにおいて決定的な意味を持つ。つまりベッテルがチャンピオンに大きく 近づいたと言うことである。

▽苦しいながらも結果を残した可夢偉
荒れに荒れたレースを見事にマネージメントして6位入賞。これは 素晴らしい結果である。マシンのバランスが悪かった可夢偉は予選Q2で敗退。しかも順位は16位という最悪に近い状況だった。それでもオープニングラップ の混戦を10位で切り抜けると、その後はダウンシフトがうまくいかないトラブルとKERSが使えない二重苦でタイムが上がらない中でも、堅実に走行し最後 は6位でフィニッシュした。これはマシンの調子が良かったにも関わらずミスをして自滅したペレスとは好対照な走りだった。これでコンストラクターズランキ ングで一つ上のメルセデスとの差は12ポイント差。メルセデスが無得点でペレスが得点圏を走っていたことを考えると、彼のリタイヤは痛かった。残り2レー スでメルセデスを逆転しなければ可夢偉の残留はない。

ただ逆転しても残留が決まるかどうかはわからない難しい状況だが、残り2レースで結果を残すしかない 可夢偉。ただ彼は元々逆境の中からF1ドライバーとして活躍してきた歴史がある。可夢偉の信じて応援しようではないか。

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