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2012シーズン総集編 Part1 敗者なきチャンピオンシップ

昨年は希に見る接戦が繰り広げられたシーズンだった。
最初の7レースで異なる7人のドライバーが優勝したのはその象徴である。
最終的にはライコネンもアブダビで復帰後、初優勝を果たし昨シーズンのウィナーは合計8名。
結局は過去2年間同様にレッドブルのベッテルがチャンピオンになるという、結果だったのだが、その内容はこれまでとは全く異なるシーズンとなった。
まずは苦しんだレッドブルか振り返って見よう。

▽レッドブル突然の覚醒
ベッテルは大きく引き離されていたアロンソとの差をどうして逆転できたのだろうか。その最大の理由は彼らが再び魔法の扉を開けてシンガポール以降、昨年並みのアドバンテージを取り戻したことである。

2011年の圧勝は、エキゾースト・ブローイングが最大の理由である。
昨年はそのエキゾースト・ブローイングが厳しく制限され、レッドブルはその強みを失った。だが制限されたとはいえ、エキゾーストをうまく使うとアドバンテージがあることはわかっていた。
ただ排気管の位置が制限され、それを実現するのが難しくなった。
それでもニューウェイはこれにこだわり続けた。
シーズン中盤でのレッドブルの失速は、あまりにもこの分野に開発のリソースを集中したことが原因であろう。
他のチームは、この分野での開発の余地は少ないと考え、他の分野での開発を進めた。

ところがニューウェイは違った。
彼はエキゾースト・ブローイングという名の魔法の扉を叩き続けて、ついにその扉をこじ開けることに成功した。
彼の執念は実ったのだ。
もちろんこの技術にも無論欠点はある。
それはエンジンの発熱量が増えることである。
通常、アクセルをオフにするとエンジンの中では爆発は起こらない。
だがこのエキゾースト・ブローイングはアクセルオフでも、排気を出すために爆発を起こし続ける。(もちろんドライビングに影響を与えないように、トルクを最低限に抑えてはいる)
その為、常にエンジンは爆発しており、当然発熱量も多くなり、発熱量が多ければエンジンとその周辺の温度は上昇する。
レッドブルにオルターネータ-のトラブルが多いのは、これが大きな要因であると思われる。

そしてシンガポールGPから突如として、レッドブルは速さを取り戻した。
こうなればベッテルに怖いものはない。
2011年同様、全力で走り抜けるだけである。
だが彼が簡単にチャンピオンシップを獲得できたかと言えば、そうではない。

なぜなら彼が相手をしたのは、あのフェルナンド・アロンソだったからだ。

▽チャンピオンになれなかった最高のドライバー
アロンソは昨年もまた、アロンソだった。
シーズン序盤、走らないマシンをなんとか入賞圏内に潜り込ませ、雨が降れば勝利し、どんな順位でも同じように全力でドライビングし、動揺するチームを鼓舞し、最後までチャンピオンを争ったアロンソ。
決して愚痴らず、あきらめないその姿勢はまさにリーダーそのものである。
フェラーリのマシンはシーズン中、最速だったことは一度もなく、よくて二番手、通常は三番手か四番手であった。
それでも壊れないマシンとミスのないピット作業、そして素晴らしいスタートでライバルから順位をもぎ取り、ポイントを重ねていった。

もし彼がスパと鈴鹿でリタイヤしなければ、彼はチャンピオンになれただろう。
確かにベッテルもリタイヤしているが、それはマシンが壊れたからで、これはチームの責任である。
一方、アロンソのリタイヤは彼にもチームにも責任はほとんどない。

ただ予選でのあれほど苦戦しなければ、あの二つの事故もなかっただろうことを考えると、やはり予選の重要性を再認識させられるのだが。

アロンソはチャンピオンにはなれなかったが、誰も彼を責めるものはいない。
それどころか、チャンピオンになれなくても、誰もが彼を讃える。
彼こそはチャンピオンにふさわしいドライバーである。

今年はチャンピオンになれなかったが、彼のベストイヤーだったといえる。
それはセナがホンダエンジンを失いながら奮闘し、チャンピオンになれなかった年を彷彿とさせる。彼は真に偉大なドライバーの仲間入りを果たしたといえる。

▽旅立つハミルトン
ハミルトンは非常に浮き沈みの大きなシーズンを過ごした。
開幕当初は最速マシンを得ていたが、その後失速。
そしてシーズン中盤と終盤に競争力を取り戻した。
だがシーズンを通して彼は信頼性不足に悩まされた。
彼がメカニカルトラブルで失ったポイントは100ポイント近い。
もしマクラーレンの信頼性不足がなければ、彼はチャンピオン争いに間違いなく加わり、さらにシーズンを盛り上げくれたくれたのは間違いがない。

マクラーレンは2012年シーズンに7勝した。これはレッドブルと同じ勝利数である。
にもかかわらずマクラーレンがコンストラクターズランキングで3位であったことは、彼らの信頼性不足がいかに深刻だったかを物語っている。
だがそれは今年の競争が非常に厳しかったので、かなり無理をしなければ競争力を保てなかったからであり、それはマクラーレンもレッドブルと同様であった。

だがそんな状況の中でも、昨シーズンの彼は大きく進歩した。
今年のピレリタイヤは攻めた走りをすると、寿命が短くなる。
これは彼のようなアグレッシブなタイプのドライバーには致命的である。
ところが彼はこのスタイルをシーズン途中で変えて、勝利することに成功する。
自分のドライビングスタイルを途中で変えることはなかなかできることではない。
ここに彼の天性の能力の高さが表れている。

ただ彼にはアロンソと違い、マシンがよくない時でも我慢強く走るということができない。調子のいい時と悪い時では、パフォーマンスに大きな差が出る。
これが彼が有り余る才能を持ちながら、一度しかチャンピオンになれていない原因である。

そして彼を語るときにメルセデスGPへの移籍を避けることはできないだろう。
長年慣れ親しんだマクラーレンを出る決意をした。
この決断を彼が後悔するかどうかはわからない。

それは彼がこの移籍に何を求めたかで、変わってくる。
少なくとも彼は自立を求めた。
何も心配することがない環境を変えて、新天地へ旅立った。
たとえ勝てなくても彼は後悔することはないかもしれない。
人生の価値観は人それぞれである。
彼の人生に幸あらんことを祈るだけである。
 

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