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2013 Rd13 シンガポールGP観戦記 アロンソ 幻の勝利 退屈しないシンガポールGPの見方

▽アロンソ 幻の勝利 事実だけをみれば、またもベッテルの圧勝なのだが、実はアロンソが勝利していてもおかしくなかった。勝敗を分けたのはほんの少しの幸運だったかもしれない。 それまでのベッテル圧勝の流れが変わったのは25周目にリカルドがクラッシュし、セーフティーカーが出た瞬間である。(ちなみに来年ベッテルのチームメイトになるリカルドがベッテル圧勝の流れを変えたのは皮肉な結果である) この時フィニッシュまでは36周も残っていて、タイヤ交換をしても通常であれば最後までは走りきれない。ところがアロンソとライコネン、バトンなどのドライバーはこのタイミングでタイヤ交換を実施。アロンソは最後までタイヤが持たなくて順位を失う事を恐れずに、ベッテルに勝つためにギャンブルに出た。 彼はこのタイヤで最後まで走ることに勝利をかけたのだ。タイヤ交換の時点で2ストップ勢の先頭に立ったアロンソは5位。その前の4台はタイヤライフの関係で必ずもう一度タイヤ交換しなければならなかった。 アロンソとフェラーリはシンガポールGPでは一度セーフティカーが出ると長くなるということが頭の中にあったはずだ。セーフティカーが長く走れば走るほど彼らには有利に働く。今回もセーフティカーは5周にわたり先導した。これで残りは31周。それでもタイヤが持つかどうかはギリギリの周回数だ。 シンガポールGPのピットレーンは60km/h制限であり、ロスタイムはタイヤ交換も含めて29秒。 ベッテルはミディアムを履いていたのでタイヤ交換するまでの周回数は十数周しか残されていなかった。(実際にはレース再開の14周後にタイヤ交換している) もしアロンソが最後までタイヤ交換しないとなるとベッテルはセーフティカーが戻ってから自分自身がタイヤ交換する十数周後までに30秒近くのギャップを広げる必要がある。いくらベッテルが速いとはいっても、この周回数で30秒を稼ぐのは至難の業である。そして一度アロンソが前に出れば、いかにベッテルが速くても追い越すのは困難。このサーキットでは2秒速くても追い抜くのは厳しいからだ。 そしてアロンソはこのタイヤで最後までいいペースで走りきることに成功した。アロンソの逆転優勝は目の前にあった。ところがアロンソを不運が襲う。 ▽ロズベルグの不運とベッテルの幸運 レース再開後、2位を走るロズベルグのタイムが上がらない。ベッテルに対して2秒以上遅く、3秒の差をつけられるラップさえあった。これはいくらベッテルが速いとは言え、差がありすぎる。 実はロズベルグはフロントウィングの隙間にタイヤかすがつまりダウンフォースを失っていた。これでは速く走れない。 瞬く間に差を広げたベッテルは45周目にタイヤ交換するまでにアロンソに30秒の差つけ、タイヤ交換後もトップを維持することに成功。実際、ロズベルグの後ろで走っていたアロンソとハミルトンはロズベルグがピットインすると1秒近くラップタイムを上げている。ロズベルグはその後のレースでハミルトンと遜色のないタイムで走れていることを考えても、このトラブルで約1秒失ったことになる。そしてこの毎週1秒のマージンがなければ、ベッテルはどう頑張っても30秒のギャップを作ることはできなかった。 つまりアロンソが勝っていたということである。 こうしてアロンソの勝利は幻に終わった。もちろん多少の幸運に見舞われたとはいえ、ベッテルもまた見事だった。彼が見せたレース再開後の1分50秒台連発のタイムは他のドライバーではできなかっただろう。彼はタイヤ交換直前の周回で51秒台にタイムを落としている。つまり彼らもまたギリギリの戦いを強いられていたのだ。 アロンソはハミルトンがタイヤ交換して2位に上がった直後にこの日の自己ベストタイムを記録して、その後10周にわたり51秒台を連発している。このレースのどこが退屈というのであろう。真のトップドライバーの意地と技術がぶつかり合った名勝負といえるのではないだろうか。 つまりこの2人がランキングのトップにいるのは、マシンだけが理由ではないのである。だからベッテルに対しての表彰台でのブーイングは不適切である。 一見楽勝に見えるこの3連勝でベッテルは勝つために、かなりの努力を強いられている。確かにアロンソは3レース連続2位ではあるが、ベッテルとレッドブルがいなければ3連勝となる。 F1では楽に勝てるレースは存在しないことを我々はもう一度認識しなければならない。それが高い技術を持ったドライバー達に対する最低限のリスペクトではないだろうか。F1は世界最速の男が世界最速を競う世界最高のモータースポーツなのだから。

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