スーパーアグリの長い一日
2006年シーズンの開幕戦、バーレーンGPが終わった。
レースはアロンソとミハエル・シューマッハーの一騎打ちとなり、アロンソが僅差で逃げ切りオープニングイベントを制した。
そして、スーパーアグリF1の長い一日も終わった。
鈴木亜久里がF1参戦を発表したのが11月1日。
それからたったの132日。
2台のマシンがグリッドに並び、そして走った。
たったそれだけのことだ。
彼らのマシンは上位を争ったわけでもないし、注目されるような走りを見せたわけでもない。
それでも私には、胸にこみ上げるモノがあった。
それは鈴木亜久里がチーム設立に向けた志を知っていたからだ。
日本人ドライバーをF1の世界で走らせたい。
たった一つの思いがこのチームを生んだ。
準備不足のまま参戦しても結果は出ないとか、オールジャパンのF1チームなんて時代錯誤だという声もある。
私も最初にF1参戦の話を聞いた時、同じように思った。
それでも鈴木亜久里がこのチームにかけた情熱を知り、考えが変わった。
彼は金儲けの為にF1チームを作ったのではない。
佐藤琢磨の受け皿を作る為に、チームを作ったのではない。
F1でドライブするチャンスの少ない日本人にチャンスを与えたい。
その思いがこのチームを作る原動力となった。
お金だけのことを考えれば、日本でやっていた方が楽だったはずだ。
すでに実績はあるし、お金の心配をする必要もない。
もし今年のF1参戦が認められていなければ、鈴木亜久里は破産していたかもしれない。
それでも彼はF1チームを作ることにこだわった。
彼は決してエリートではない。
カートの世界では有名な彼だったが、4輪のレースでは苦労続きだった。
全日本F3での最高ランキングは二位止まりで8年間もとどまることになった。
一時、参戦費用がなくなり、それを自動車オイルの輸入をすることでまかなったこともある。
その後、日産からツーリングカーレースに参戦し、チャンピオンになり、そこからF3000参戦への道が開かれた。
そしてF3000チャンピオンになり、F1参戦へと続くのである。
1990年にはラルースに乗り、地元鈴鹿で3位表彰台をゲット。
彼のキャリアは頂点を迎える。
この時、翌年からベネトンに乗るという話しが契約寸前までいった。
だがチームとは二年契約中であることに加え、日本人チームオーナーや、スポンサーに配慮し、これを断念。
契約自体はお金を払えば解除できたにもかかわらず、彼はそれをしなかった。
日本人離れした彼の言動だが、彼は誰よりも信義を貫く男だった。
だからこそ、彼がF1への参戦を発表すると多くの企業が彼をサポートしたのだ。
たったの132日で何もないところから、二台のマシンをグリッドに並べた。
彼らはバーレーン入りしてからもスペアカーの組み立て作業をおこなっていた。
ピットストップの練習もほとんどできなかった。
その為、レース中に二台のマシンを同時にピットインさせるという事態も招いた。
それでも佐藤琢磨は予選でMF1のモンテイロに1.5秒差の20位。
決勝でも4週遅れながら、完走を果たした。
もう一人のドライバーの井出も残り11週まではなんとか走った。
急増F1チームとしては上出来の滑り出しだ。
これを奇跡と呼ぶのは鈴木亜久里に失礼だろう。
これは彼と彼のチームが成し遂げた偉大なる仕事だ。
これは本当にすごいことだ。
開幕戦は二台のマシンが並ぶだけで、目標達成。
それが予想外に完走したのだから、彼らにとっては勝利にも値するだろう。
もちろん、彼らはこれに満足はしていない。
完全なニューマシン開発に向け、全力を投入する。
もちろん、ニューマシンが出てきたからといって、苦しい状況には変わりがないだろうが。
それでも鈴木亜久里が情熱を持つ限り、このチームの進化は止まらない。
最後に鈴木亜久里の言葉を引用してこのコラムを終わりにしよう。
「ボクは何もないところからここまで来ました。夢はどこまでも追っていきたいのです。そのためにはすべてを注ぎ込みます」。
- 2006 Rd.1 バーレーンGP観戦記
- 2007年日本GPは富士で決定か?
仙太郎さん、こんにちは
昨日のマレーシア、スーパーアグリのマシンはフロントのダウンフォースが不足しているにもかかわらず、リウィツィやモンテイロを途中まで押さえ込み、オーバーテイクしたモンテイロを抜き返すということまでしてくれましたね。
バーレーンのようにピットストップでのトラブルも今回はありませんでした。
たった1戦でこの進歩・・そう思うとうれしくてうれしくて。
そして、スタッフやメカニックの方をはじめ、チームの方々がどんなにがんばったんだろうと思うと、その熱意に感動してしまいました。
井出くんは今回も完走はできませんでしたが、前回よりも格段に走れていたと思います。
ミラーの不具合も今回は治ったようですし。
次は2台そろっての完走をしてほしいですね。
それにしても、4年落ちのアロウズのシャシーを規制にあわせてダウンフォースを30%も失っても、このタイム差ですんでいるあたり、本当にすごいと思います。
スーパーアグリのシャシー投入後が待ち遠しいですね。
楽しみです。
こんなマレーシアを仙太郎さんは、どう料理してくださるのでしょうか?
マレーシア観戦記、楽しみに待っています。