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勝負を分けた0.1秒


いつものことながら、今のF1でスタートは重要である。そしてこのレースはボッタスの最高のスタートで勝負は決まった。

レッドライトが消えた瞬間、ボッタスが素晴らしいスタートを切った。だがこれはフライングに見えた。理由は彼だけが先に動いたからである。

テレビで見ている限り、ボッタスが信号が消える前に動いたと思ったし、ボッタスは動き出した後加速が一瞬鈍ったように見えたので、本人も自覚があると思った。

だがリプレイを見ると確かにボッタスは信号が消えてから動き出している。

また、その後のデータを見るとボッタスは信号が消えて0.2秒で動き出している。そしてベッテルは0.38秒で動き出している。他のドライバーもほぼベッテルと同じタイミングで動き出しているので、同じくらいの反応時間だろう。

人間の身体的には視覚情報を受けて反応するまでに最低でも0.1秒は必要であると言われている。脳で受けた情報が神経を通して伝わり筋肉を動かすのに最低でもそれくらい必要であるということである。だから0.1秒以下で動いた場合、視覚情報ではなく、予測で動いたと見なされる。いわゆる山勘というやつである。

だからオリンピック陸上の短距離種目では0.1秒以下でスタートしたと見なされるとフライングと判定される。

ではボッタスが0.2秒でスタートしたのであれば、彼は並外れて反射神経が優れているのであろうか。

私はそうは思わない。もしボッタスが他のドライバーと比較して優れた反射神経を持つのであれば、彼のスタートはいつもよくなければならない。だが私にはそのような記憶がない。

もちろんF1ドライバーの反射神経は並外れて速い。そうでなければ高速であの運転の難しいマシンをコントロールすることなど不可能である。

そしてベッテル以下のドライバーの反応時間がほぼ同じであると考えるとF1ドライバーは反応時間は平均して0.38秒くらいなのであろう。

ということは今回のボッタスのスーパースタートは、ボッタスがある程度予測をしてスタートしたとしか考えられない。つまり彼のスーパースタートは、フライングと背中合わせだったと考えている。

だが今回のスタートを最後にしたのははそれだけでない。彼のクラッチミートも最高であった。なんのショックもなく動き出す彼のマシンを見るといかに素晴らしいクラッチミートだったかがよくわかる。

彼は素晴らしいスタートを決めて、そして素晴らしい勝利をつかんだ。リスクを冒して勝利をつかむ。それもまたレースである。

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