▽負けても得るものが大きかったベッテル
レースには負けたベッテルだったが、彼は大きなものを獲得してベルギーの森を去ることができた。
スパは第1セクターと第三セクターがほぼ全開で、パワーサーキットになる。当然、メルセデスが絶対的に有利なわけで、フェラーリはできるだけダメージを少なくしたいレースであった。
実際、ハミルトンはポールポジションからスタートし、そのまま逃げ切ることに成功した。だがフェラーリもただやられっぱなしというわけではなかった。ベッテルは予選でボッタスを上回る2位を獲得。これは大きな驚きだった。
レースでもベッテルは大きく離されないペースがあったし、もしかしたらレースに勝てるチャンスもあった。
ベッテルは、オープニングラップとセーフティカーあけのバックストレートでハミルトンに並びかけたのである。これはハミルトンのタイヤが温まりにくく、アンダーステアが出て、少し大回りになり立ち上がりでの加速が良くなかったからである。
しかもベッテルはオゥルージユでもハミルトンの直後に付けながら、マシンの挙動が乱れず、フェラーリの今年のマシンが乱れた気流の中でも安定していることを証明した。
だがそこはさすがのメルセデスである。バックストレートに入ったところで、スリップストリームから抜け出したベッテルがハミルトンを捉えたと思ったのでが、ここでメルセデスの底力を見せつけてくれた。
そこから加速したハミルトンはそのままベッテルと並んだ状態で、コーナーへ飛び込み順位を守ったのである。
これにはメルセデスのパワーが大きいことも理由の一つではあるが、もうひとつ理由がある。じつはベッテルはターン1のラソースでの加速がよく、またハミルトンの加速が悪く、オゥルージユを立ち上がる時点でハミルトンの背後につけていた。
そのままバックストレートに入ったベッテルはハミルトンのスリップストリームに入り加速。バックストレートに入ってすぐに、ハミルトンを追い抜きにかかる。だがこの時点ではまだメルセデスも加速中であり、スリップストリームから抜けたベッテルのスピードは少し鈍り、そのまま加速したハミルトンはベッテルに追い抜きを許さなかった。
ベッテルとしては、ハミルトンが最高速度に達して、それ以上スピードが伸びない状態からスリップストリームを抜け出したかった。だがハミルトンが加速中にスリップストリームから抜けたので、追い抜くことができなかった。
もしベッテルがこの時に追い抜いていても、有り余るパワーを持つハミルトンが抜き返した可能性はあるが、この瞬間にベッテルが勝利への扉をこじ開けようとしたのは間違いない。
そして圧倒的に不利と言われたスパで、これだけの競争力を見せられたのはフェラーリにとって幸運なことであった。これでメルセデスに対してチャンピオン争いができそうである。