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メルセデスの判断ミスとマックスのアタック モナコGP観戦記

▽メルセデスの珍しい判断ミス

予選からボッタス対ハミルトンの激しいポール争いが良かったですね。ここまで3レース連続、予選でハミルトンに勝っているボッタス。ここで勝てばボッタスの自信はより深まり、ハミルトンには打撃を与えます。
 
ハミルトンがチームメイトに4レース連続で予選負けると言うのはあまり記憶がありません。それくらいハミルトンを予選で負かすのは難しい。
 
そしてボッタスはQ3最初のアタックで暫定ポールのタイムを出し、4戦連続のポールが目の前にありました。ところがハミルトンがいつものように、最後のアタックでポケットからコンマ数秒をひねり出し、0.086秒差で逆転します。0.1秒以下の僅差。でもこの差は抜けないモナコでは決定的な違いを生みます。
 
モナコGPではポールからスタートできるのは、勝利に一番近いですし、予選で4連敗を避けることができました。
 
個人スポーツであるF1は、精神的な部分はかなり大きく、昨年までボッタスがハミルトンに勝てなかっのもその影響が大きいと思います。そのボッタスの進撃を止めたのですから、このポールはハミルトンにとって、いつも以上の価値があります。
 
追い抜きができないモナコでは、レースはほぼほぼスタートで決まると思いました。華やかな雰囲気とは違う淡々としたレースになるはずだったのですが、メルセデスの判断ミスとフェルスタッペンのアタックにより最後の最後で盛り上がったレースとなりました。
 
最初の波乱は8周目にルクレールが他車と接触し、タイヤがパンクしてそのまま走り続けたので、タイヤが壊れてタイヤの破片がボディを痛めつけて、破片が散乱。それを片付けるためにセーフティカーが展開されました。
 
モナコはご存知の通り、ストリートサーキットなので、路面がスムースで、タイヤの磨耗は最小限になります。だから普通に考えれば上位陣はソフトスタートで15周くらいからタイヤ交換のウィンドウが開き、ミディアムに交換して最後まで走るのが基本的な作戦になります。
 
ソフトでも15周以上走れるので、タイヤ交換時期はセーフティカーのタイミングとライバルの作戦次第で柔軟に変更可能な状況でした。
 
そこで10周目にルクレールによるセーフティカー登場です。ここでタイヤ交換するかどうかは、チームの判断ひとつです。セーフティカー中のタイヤ交換はロスタイムを半分程度にできるので、有利ですがその後、長い距離を走らなくてはなりません。
 
レッドブルやフェラーリは黙っていては、絶対に抜けないモナコで勝つことはできないので、ここでタイヤ交換を決断します。そしてメルセデスもライバルがタイヤ交換すると予測し反応します。
 
 
ここでメルセデスにはひとつ困ったことがありました。ハミルトンが1位でボッタスが2位で差は数秒しかありませんでした。ダブルストップを成功させるにはギリギリのタイミングです。ここでボッタスは少し余裕を持たせるためにゆっくりとピットに入ります。
 
フェルスタッペンはボッタスよりほんの少しだけ早くタイヤ交換を終わらせて加速しますが、そこにはボッタスがすぐ横に来ていて、ボッタスを壁に押し出すかたちになってしまいました。あと0.1か0.2秒フェルスタッペンが早くタイヤ交換していれば、前で戻れたとは思いますが、本当にギリギリの勝負でした。
 
レッドブルもギリギリだと判断したとは思いますが、ここで抜けないと最後まで抜けないのでリスクを冒してチャレンジしたと思います。そしてこれはフェルスタッペンに二位のポジションと5秒追加のペナルティを与えます。
 
ただこの時、3台のうちベッテルが一番早くタイヤ交換を終わらせていて、ボッタスの直後を走っていました。つまりフェルスタッペンがボッタスを先に行かせた場合、自動的にベッテルも先に行かせることになり、4位だったのでどちらにせよ順位は変わらなかったことになります。
 
ボッタスもフェルスタッペンに押されて、壁に接触し、右フロントのホイールを割ってしまい、次のラップで再度タイヤ交換をします。
 
ここで交換したタイヤで明暗が分かれました。メルセデスの二台はミディアム、フェルスタッペンとベッテルはハードタイヤに交換したからです。ボッタスは2回目のタイヤ交換ではハードを選択しています。
 
タイヤ交換のウィンドウより4周も早いタイヤ交換だったので、フェラーリとレッドブルはハードタイヤに交換しました。
 
メルセデスはワンツーだった事もあり、ペースを抑えればミディアムでも最後まで持たすことができると考えました。ただこれは最終的に楽観的な予測だったのですが。
 

 
ただこの三チームはハードタイヤを各1セットしか持ってきてませんでした。そしてレース当日、この三チームは新品のハードタイヤを各1セット持っていました。つまり彼らは、この週末ハードタイヤで一回も走ってませんでした。つまり彼らはハードタイヤを捨てタイヤ、つまりレースでは使わないタイヤと考えていて、データが全くありませんでした。だったらデータのあるミディアムで走るという選択肢を頭から否定もできません。
 
メルセデスの考えは、メルセデスがハードタイヤを履いて、フェルスタッペンベッテルがミディアムをはいた場合、リスタート後にかなりプレッシャーを受けることと、レーダー上は雨雲が見えていたことが影響しています。大雨にはならないものの、ぱらっと降った場合、ダンプ状態の路面にはハードよりもミディアムの方が有利です。
 
ハミルトンのタイヤはフロントタイヤのグレイニングがひどかったのですが、幸いなことにモナコはリアオリエンテッドなサーキットで、リアタイヤさえ機能させられれば、加速で後続マシンを引き離して順位を維持できます。
 
たださすがに60周以上をミディアムで持たせるのは野心的な作戦でした。残り20周の時点で、ハミルトンの左フロントタイヤはほとんど残っていませんでした。いくら抜けないモナコとはいえ、これで最後までフェルスタッペンを抑え、レースをフィニッシュしたハミルトンの能力はさすがとしか言えません。
 
残り3周のシケインでハミルトンとフェルスタッペンが接触してしまいます。レースの中でこの時が2人の差が一番縮まっていたので、アタックするのはこれが最後のチャンスだったかもしれません。ただ少し距離がありすぎてフェルスタッペンはハミルトンのインに入ることができずに、接触してしまいます。
 
ここで接触してしまったフェルスタッペンですが、なかなかいいレース展開でした。スタート直後のサンデポーテでは、ボッタスとの接触を避けるべく引きましたし、最後のハミルトンへのアタックへの判断も悪くはないと思います。
 
前を走るマシンのミスを待つだけでは、永久に抜くことはできないですし、ここでチャレンジできるのが、真のレーサーです。そう意味ではフェルスタッペンはまだ荒削りな部分は残りますが、チャンピオンを狙えるレーサーだと言えます。
 
 
▽またまた失策のフェラーリ
毎回フェラーリの失敗を書いているような気がしますが、今回もまたやらかしてしまいました。
 
予選Q1でタイムを記録したルクレールはピットに戻りました。当初想定していたQ1の突破タイムをクリアしたと判断したのでしょう。しかしモナコは市街地サーキットなので、路面がみるみる改善してきます。結果的にルクレールのタイムは17番手でQ2に進むことはありませんでした。
 
この判断には疑問が残ります。モナコは路面がスムースなのでタイヤの磨耗が少ないので、10周を超えてからベストタイムを出す事も可能です。さらに言うと高速コーナーもないので、燃料をたくさん積んで走り続けてもラップタイムに及ぼす影響も少ない。それよりもクリアなラップを見つけることが重要になります。そしてクリアラップが来た時にミスをせずにタイムを出すのです。
 
このフェラーリの判断は、この原則に明らかに反してきます。フレッシュなソフトタイヤを温存する必要もなく、古いタイヤでアタック続ければよかったのですが。しかもルクレールはQ3でトップタイムだったのです。だからと言って彼がポールを取れていたとは思いませんが、少なくとも3位以内に行ける可能性はかなり高かったと思います。
 
ベッテルが2位にはなりましたが、フェラーリにとっては課題の残るレースとなりました。
 
 
▽ホンダ 4台同時入賞
フェルスタッペンがペナルティをもらい、4位になってしまいましたが、それでもいいレースができたと思います。
 
スタートは上位4台の中でフェルスタッペンが一番良く、サン・デボーテの前にボッタスを抜いたのですが、その前にはハミルトンがいて、前をふさがれて早めのプレーキングを強いられます。
 
そこをボッタスにつかれて、前に行かれてしまいました。ここでフェルスタッペンがボッタスと接触するかなとヒヤヒヤしましたが、しっかりと引いて接触を避けて、レースを続けたところにフェルスタッペンの成長を感じました。
 
最後のハミルトンとの接触にしても、抜ける距離ではなかったのですが、それでもアタックするそのアグレッシブさが良かったですよね。こういう前のクルマを絶対に抜くぞというか気持ちがなければ、レースには勝てません。
 
ちなみにフェルスタッペンはタイヤ交換の際にピットレーン走行用のモードに切り替えたのを、コースに戻る際に戻し忘れていました。これもハミルトン追撃にはマイナス材料でした。ボッタスと接触して並走してたので、忘れてしまったのでしょうね。
 
このモードは当然トルクの出方がマイルドなはずなので加速に影響していたはずです。ちなみにこのモードはレーシングスピードになると、戻せない仕様です。今のレーシングドライバーはやること多くて大変ですね。
 
そしてホンダにとってもいいレースになりました。4台同時に入賞したのは、1987年のシルバーストーン以来。あの伝説の1234位独占のレースですね。
 
ただあの時のシルバーストーンはパワーサーキットでエンジンの力が大きな影響を与えましたが、モナコはそうではありません。
 
それでも今のマシンはパワーだけではダメで、トータルのパッケージが重要ですから、ホンダもこの結果に大きな貢献をしたことは間違いありません。
 
次のカナダはパワーが必要ですから、ホンダの真の実力を試されるでしょう。