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悲しきルクレールの初優勝 ベルギーGP観戦記

 

 
▽ある若いドライバーの死
いつも書いていますが、若いドライバーの初優勝を見るのは何回見てもいいものです。しかし今回だけは、少し複雑だったのも事実です。
 
それは前日に行われたF2でルクレールと同じく前途有望だったドライバー アントワーヌ・ユベールが亡くなったからです。
 
事故はガードレールにぶつかって、跳ね返りユベールのマシンが横になっているところに、ドライバー位置の真横からコレアが高速で激突しました。コレア自身も他車の破片でパンクしており、ほとんどコントロールできなかったと思われます。
 
これが前か後ろに1メートルでもずれていたら、死亡事故にはならなかった可能性が高いと思います。最悪のタイミングで最悪の部分に激突したこの事故。誰も責めることはできませんが、ほんとやりきれない思いだけが募ります。
 
アントワーヌ・ユベールのご冥福をお祈りします。
 
 
▽落ち着き払ったルクレール
それではレースを振り返りましょう。レース前の予想はワンストップでした。ソフトでスタートして、ミディアムに交換するのが上位陣の作戦でした。当初はピットストップのウィンドウは広いと思われていました。つまりミディアムがかなり長い距離を走れるので、ソフトからの交換時期は作戦次第と思われていました。だがレースが始まると、その予想は間違っていたことがわかります。
 
例えばルノーのリカルドは、オープニングラップで接触され、フェルスタッペンの事故でセーフティカーが出たタイミングでミディアムに履き替えました。これは彼らがミディアムで最後まで行けると考えていた証拠になります。実際、彼らはリカルドをこのタイヤで最後まで走らせています。
 
ところがこの予測は間違っていました。レース中盤にはリカルドのタイヤはグリップを失い、失速します。全くスピードを失ったリカルドをなぜルノーがタイヤ交換しなかったのは謎ですが、これで彼のレースは台無しになってしまいました。
 
そしてこれと同じことがベッテルにもありました。ベッテルはオープニングラップで、スタートで先行されたハミルトンを抜いたのですが、その後はハミルトンをひき離せず、プレッシャーを感じる距離にいました。
 
そこでベッテルはアンダーカットを避けるために先手を打って15周目にミディアムに交換します。当然これで最後まで走りきる作戦です。
 
一方でハミルトンはステイアウトします。もしベッテルのタイヤはこの時点でかなりくたびれていたので、ベッテルがこの時点でタイヤ交換していなければ、ハミルトンは先にアンダーカットを仕掛けてタイヤ交換したでしょう。ところがベッテルが先に仕掛けたのでハミルトンはステイアウトしました。
 
これには当然、セーフティカーが入ればタイヤ交換のロスタイムが減るので、ベッテルの前で戻れるという期待もありました。
 

 

 
 
だが期待のセーフティカーが入らず、21周目にトップのルクレールがタイヤ交換に入ります。そして次のラップにハミルトンがタイヤ交換し最後のバトルに向けての鐘が鳴りました。この時、フェラーリのクルーはタイヤ交換を素早く済ませ、ルクレールは新品タイヤで1.2秒をハミルトンに対して稼ぎました。
 
先にタイヤ交換していたベッテルのミディアムは予想以上にタレが厳しく、あっという間に追いつかれてしまいます。この時、トップを走るベッテルはルクレールにも追いつかれたのですが、この時フェラーリは賢明にも即座にチームオーダーを出してルクレールを先行させています。
 
この時にチームオーダーを出すのが数周遅かったらハミルトンの逆転優勝もありえたので、珍しくフェラーリのナイスジャッジでしたね。
 
タイヤがヨレヨレのベッテルをケメルストレートで抜いたハミルトンは、ルクレールにターゲットを絞ります。ただベッテルはこの時に数周にわたり、高いトップスピードを武器にハミルトンを抑え込み、ルクレールはここで2.6秒を稼いだ。残り12周てハミルトンとの差は6.62秒。
 
迫り来るハミルトン、ついには1秒以内のDRS圏内に入られますが、この若いドライバーは全く動じません。この精神力すごい!
 
ハミルトンにプレッシャーかけられたら、並みのドライバーならミスしますよ。しかもルクレールのタイヤはかなり厳しい状態です。
 
それを自分のできる限度内で速く走る。これはなかなかできることではありません。彼はフェラーリ1年目のドライバーですからね。
 
そしてルクレールはハミルトンのプレッシャーをなかったかのように、トップでチェッカーフラッグを受けました。
 
初優勝とは思えない見事なドライビングでした。フェラーリもこれまでは作戦ミスなどで批判され続けてきましたが、今回はルクレールをしっかりサポートできました。これが今日の勝因のひとつであることは間違いありません。
 
レース終了後、クルレールはこの勝利を亡き       アントワーヌ・ユベールに捧げると述べました。勝つべくして優れたドライバーが勝った、暗雲の中から一筋の光が差し込んだような素晴らしいレースでした。
 
 
▽雨のち晴れのホンダ
このところべた褒めだったマックスですが、少し若さが出ましたね、またスタートで出遅れたフェルスタッペンでしたがターン1でその遅れを取り戻そうとイン側に飛び込みます。しかしスパのターン1は鋭角のヘアピンコーナーなので、イン側に飛び込んでも曲がれません。
 
そこに外からライコネンがターンインしてきたのですから、接触は避けられませんでした。これでトラックロッドを破損したフェルスタッペンはオゥルージュで縦にGがかかったことで、破損してしたトラックロッドが完全に壊れてアウト側のバリアに激突してレースを終えました。
 
もっとも悪い話ばかりでもありません、フェルスタッペンはスペック3のマイレージと負荷が増えていたので、予選をスペック3の予選モードで走ることができませんでした。ハンガリーとかで、かなり酷使しましたからね。これがなければボッタスに迫ることな可能だったと思います。
 
フェルスタッペンは次のモンツァでスペック4を搭載する予定なので、このレースではスペック2でスタートしました。後述するアルボンが同じくスペック2で素晴らしい走りを見せてくれたことを考えると、フェルスタッペンもルクレールやハミルトンと優勝争いするのは無理でも、ボッタスやベッテルと3位争いは可能性がありました。
 
このレースでは最初のコーナーでレースを終えたフェルスタッペンですが、このレースまで21戦連続完走しており確実に進歩しているので、これからも楽しみですね。
 
エースドライバーが不在の緊急事態に新しいもう1人のレッドブルドライバーが見事な走りを見せてくれました。このレースからレッドブルに昇格したアルボンは予選では出遅れたので、やはりぶっつけ本番は荷が重いかと思いました。
 
ところがレースでは、見違えるような走りを見せてくれました。練習走行でスペック4のパワーユニットを搭載したので、ペナルティを受けて17位スタートでした(レースはスペック2で走行)。オープニングラップの混乱を抜けて13位に上がります。
 
その後はコース上で次々にオーバーテイクを見せて5位フィニッシュ。これはレッドブルで初レースとなる彼にとっては素晴らしい結果となりました。しかも彼はこの時、スペック2を使用していました。練習走行でスペック4を使ったことによる、ペナルティを受けていたにも関わらずです。それで、このパフォーマンスはすごいですね。
 
特に追い抜きの時の判断とミスのない走りが素晴らしかったですね。チャンスと見れば、すばっと行くのが小気味良かったです。比較はしたくないですが、ガスリーには欠けていた部分ですね。
 
これでアルボンはシーズン終了まで、レッドブルでレースできるでしょうから、あとは予選でフェルスタッペンにどこまで迫れるかでしょうね。フェルスタッペンより速く走れというのはかなり無理があるでしょうから、差を0.1秒差くらいにできれば来年の契約も見えてきます。
 
さらにスペック4を搭載してレースをしたトロロッソのクビアトも19位スタートからタイヤ交換後の終盤にオーバーテイクを連発して9位入賞とこれも次のモンツァに向けて明るい話題ですね。
 
最後にガスリーのドライバー交代ですが、仕方ないと思います。F1は育成機関ではないですからね。結果が残せなかったら、去るのみの世界です。ガスリーもチームメイトがフェルスタッペンでは、比較されると厳しいですね。彼は世界トップですから、彼に匹敵するドライバーなんてハミルトン含めて数名ですものね。最近はガスリーも自信をなくしていたようでしたから、もう一度トロロッソで自分を取り戻してほしいですね。