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小さなミスの大きな代償 メキシコGP観戦記

▽マックス 小さなミスの大きな代償
フェルスタッペンの小さなミスがレッドブルホンダから勝利を奪った。予選Q3の最初アタックでトップタイムをマークしたフェルスタッペン。2度目のアタックもミスさえなければポールはかたいと見られていた。
 
先にアタックしていたボッタスが最終コーナーでクラッシュ。イエローフラッグが出された。ハミルトンはイエローフラッグが振られる前に現場を通過。ベッテルはイエローフラッグ振られていたのでスローダウンしてタイム更新できなかった。
 
この時、全員が最後のアタックに入っていたのでこのイエローフラッグにより第3セクターでタイム更新できなくなり、フェルスタッペンは労せずポールを取ったと思われた。
 
ところがである、最後にアタックしていたフェルスタッペンはイエローフラッグを確認したはずにも関わらず、アクセルを戻さずにそのまま最速タイムを更新してしまう。イエローフラッグは前方で事故が起こったことを示しており、コース上にマーシャルが出ている可能性もあった。その重大なミスに対して、FIAはフェルスタッペンに3グリッド降格のペナルティを課した。
 
本人は公式会見で、イエロー無視が問題ならばこのラップのタイムを抹消すればいいと述べているが、ラップタイム抹消はコースをはみ出してベストラップを記録した時に適用されるのであって、今回幸い何もなかったが、もしマーシャルがコース上にいれば大事故になっていただけに、このペナルティでもゆるいくらいである。
 
彼は公式会見ではイエローフラッグが見えたとも、見えなかったとも言っていない。彼の車載カメラにはイエローフラッグが振られている映像が撮影されている。その前のベッテルが確認できたこのイエローフラッグをフェルスタッペンが確認できなかったとは考えにくい。
 
何もしなくてもポールが確実だったのに、イエローフラッグを無視し、そのまま走ってペナルティとは、とてもトップドライバーとは思えない単純なミス。
 
更にはチームにも過失がある。イエローフラッグが出された時点ですぐにフェルスタッペンにイエローが出てる事とポール獲得した事を伝えていれば、こんな事は起こらなかった。
 
これで4位からスタートしたフェルスタッペンはターン1でハミルトンと接触し後退。その後ボッタスを抜き返す時に接触し、タイヤがパンクした後で丸々一周して彼のレースはここで実質終わった。最終的は6位だったが。
 
事前の予想通りレッドブルホンダはメキシコで競争力があった。ここはメキシコは標高2200mの高地で空気が薄く、空気の密度が低いのでダウンフォースも少ない。だから長いストレートがあるにも関わらず、空力のパッケージはモナコ同様のハイダウンフォース仕様である。空気の薄い分、ドラッグも低い。
 
空気が薄くてもターボだからPUに影響がないと思われがちだが、その分ターボの仕事量が増加し、各PUはその性能の上限まで使えない。つまりPUの性能差が少なくなる。だから昨年までダウンフォースが多いレッドブルと非力なルノーのPUでも2年連続優勝できていた。それは今年も生きていたのだが、その機会を失ってしまった。
 
ただポールからスタートしたとしても勝てていたかどうかは少し疑問が残った。というのもレッドブルはFP2でアルボンがクラッシュしたので、ロングランのデータが不足していた。フェルスタッペンが2種類のタイヤで走ったが、他のチームの約半分の走行距離しかなかった。そのためレッドブルはこのレースをツーストップにすると決めていた。
 
という事はフェルスタッペンがポールからスタートし、レースをリードしていたとしても結果はツーストップの最上位である4位が精一杯だったことになる。
 
今のF1は競争が厳しいので、ドライバー、マシン、PU、チームの作戦と全てをミスなくまとめないと勝てない。この日のレッドブルホンダには、その全てがなかったのだから勝てないのも当然であった。
 

 
 
▽フェラーリ 失望の週末
フェラーリもまた失望の週末となった。フェルスタッペンのペナルティでフロントロウを独占。スタートでも得意の大パワーで1-2をキープ。しかしリザルトは2位と4位であるから満足からは程遠い結果となった。
 
今回のレースも勝敗を分けたのはタイヤ交換だった。金曜日に夜に雨が降り、路面のラバーが流されてしまった。そのためタイヤの予想が非常に難しくなった。
 
ピレリの予想ではツーストップが最速だったが、実際にはミディアムからハードのワンストップが最速で表彰台をワンストップ勢が独占。そしてメルセデスのハミルトンが優勝し、ボッタスが3位と2台とも表彰台に登った。
 
限られたデータをもとに的確な判断をするのは、さすがメルセデス。完全な作戦勝ち。
 
実は二位のベッテルは元々ツーストップの予定だったが、ベッテルが最初のミディアムでもう少し行けると判断して第一スティントを延ばした結果ワンストップになったのであってチームの判断ではなく、ベッテルのナイスジャッジだった。
 
チームの指示に従ってツーストップしたルクレールは4位。彼はきっと納得いかなかったに違いない。ベッテルはこれまでも何回もフェラーリの作戦に失望してきたので、彼の判断でタイヤ交換時期を変更し、若いルクレールはチームの指示に従いトップを走りながら勝利を逃した。
 
ベッテルの素晴らしい判断だったが、彼はミディアムで引っ張りすぎた。今回、ハードタイヤが日曜日のコンディションに合っていて、コンスタントにいいペースで走れていた。
 
フェルスタッペンが5周目にハードに交換して最後まで走り切り、最後にタイヤが終わったと話していることから、およそ66周がハードの寿命だっことになる。だがこれはレースが終わった後だから言えることで、レース中は誰もがデータを見ながら暗中模索していた事を忘れてはいけない。
 

 
▽メルセデスは今日もすごかった
メルセデスの作戦が素晴らしかったのでハミルトンが楽勝だったかというとそうではない。彼は上位陣の中では最初23周目にタイヤ交換した。残りは48周。これはハードタイヤでもかなりの距離である。実際ハミルトンもタイヤ交換した直後は、タイヤ交換の時期が早すぎた、タイヤは最後までもたないといつものように不平不満を述べていた。
 
しかしハミルトンの凄いところは、これだけの距離をタイヤを持たせながら、速いラップタイムをコンスタントに記録するところである。
 
ボッタスやベッテルより10周以上も古いタイヤで同じペースで走れるのは、流石としか言いようがない。
 
メキシコではメルセデスは3番目の速さしかなく、普通であれば優勝することは難しかった。
 
それをライバルのミスはあったが、できることを最大限活かして勝ってしまう。彼らが単にPUの性能がいいとか、マシンが速いだけなら6年連続でタイトルを取ることはなかっただろう。少なくとも昨年と今年はフェラーリの方が速いのだから。
 
ハミルトンも無傷ではなかった。スタート直後のターンワンでフェルスタッペンと接触しフロアの一部とフロントウィングのエンドプレートを壊していた。ダウンフォースは減っているはずだし、空力のバランスにも影響があった。
 
メルセデスのジェームス アリソンに言わせると一周あたり0.1秒ロスしてたと計算している。0.1秒というと大したことないように思えるがレースは71周あり、ハミルトンがオープニングラップにダメージ受けた事を考えるとフィニッシュまでに約7秒失うことになる。レース終了時点でのハミルトンとベッテルの差はわずかに2秒。それでも勝つのはハミルトンなのが彼の凄さを表している。
 
また空気の薄いメキシコで、メルセデスはブレーキの冷却にも苦労していた。というのもメルセデスのブレーキダクトは他と比較して小さい。もちろんこれは空力の性能を上げるためだが、これはブレーキの冷却にも厳しい条件である。それをハミルトンはブレーキに負担を出来るだけかけないようにしてフィニッシュしている。
 
一回だけチャンピオンになるのは、マシンがよければなれるかもしれない。しかし5回もチャンピオンになるには、しっかりした理由があるのである。